士官学校②
一般的にクレージュ士官学校と呼ばれるクレージュ第一士官学校は、クレージュ帝国の若者十五歳から二十歳までの魔力を持った男性貴族が入学できるとされている。実際はどんなに金とわずかな魔力を持っていても入学することさえ困難な最難関校。ここでは魔力と健康な肉体が最も重視される。
クレージュ帝国での魔力の発現率は王族であれば百パーセントで魔力魔法は使えることが常識であり、貴族でも八十パーセントから有力貴族になれば九十パーセントとなっている。平民は二十パーセント程度という順に人口に反比例して下がっていく。そこに強力な魔法師に必要な魔力という線引きをすれば、もっと低いパーセンテージとなっていく。
そして、平民はクレージュ士官学校に入学するためには住んでいる領主の推薦状が必要となってくる。推薦状を貰うには直接会うことが最低条件とされているグロリア領の入学率は低いが、貰えさえすれば中央軍に所属後最低でも役職付きの騎士になれると噂されている。他領は学校長の推薦状と各領に派遣されている将軍の推薦状を貰うことができれば自動的に推薦状を貰うことができる。
推薦状を貰った平民と貴族を一堂に会して試験を行い、ふるいにかけた結果が貴族九割、平民一割である。ふるいにかけられても推薦状持ちの平民は滅多に落ちることはない。
クレージュ士官学校の在校生の貴族九割、平民一割と魔力の発現率を考えると、平民の割合がとてつもなく多いことで有名である。
そのクレージュ士官学校と同じ敷地にあるクレージュ第一魔法学校は、貴族女子校と言われている。魔力を持った令嬢たちが研鑽を重ね、クレージュ魔法学校卒業という箔をつけ優秀な魔法師であり、優秀な遺伝子を持っていることを唯一主張することができる。
婚約者を選ぶ条件として上位に来る“優秀な魔法師の家系であること”を証明することになる。死に物狂いで令嬢たちは受験し、入学している。ここで学ぶのは衛生魔法、治療魔法等後方陣営や宮廷魔法師に必要とされている魔法。推薦状を貰えた平民の女生徒はわずかばかり入学するが、令嬢たちのプライドに押しつぶされて泣く泣く辞めていったという過去があるため、今の魔法学校の平民は学年に二人いるかどうかという程度。
そんなクレージュ第一士官学校、クレージュ第一魔法学校は若者だけの軍隊であると言われている。
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アルフレット・グロリア達は街の入り口付近に転移していた。アルフレットの後ろにいる麗凱紀達はアルフレットの行動を静観するようで、何も声かけはない。
眼前に広がる景色に焦燥がかき消され、煙が上がり、炎広がる街並み。焦げ臭いし、火薬の匂いと魔力の渦、下卑た笑い声に苛立っていた気持ちが逆なでされる。
気持ちのままに魔力を行使したい欲に駆られるが、そんな中かろうじて繋いだ父との伝達魔法。
『お前から見た状況は?』
父は状況を知っていたようで、第一声がそれだった。こちらを見ずに軍服に着替えている様子がうかがえる。転送魔法師は戦争の始まりと中盤、そして決定打をうつときに酷使されると決まっている。それを考えての行動だと推察できる。
「……思った以上にやられてはいる」
きっとローズモンドが攫われたことに起因はしているだろう。
今のクレージュ魔法学校に強力な魔法師は居ない。ローズの争った魔力の形跡はなく、不自然なほどにきれいだ。
『私はクレージュ士官学校には行かない。夜にはサディ卿とユルフェが着くだろう。それまでに対処しておけ』
「それは殺戮許可ですか?」
『主犯格級は殺すな。それ以外の雑魚は殺せ。以上』
「了解しました」
『ああ、あと、ヴィトン卿はコリスカの雪月の騎士と交戦しているらしいが、お前も大概相性が悪いから行くなよ。行ったら私がお前を殺す』
「……わかりました」
『わかればいい。欲に流されるな。耐えろ』
ぶつり、と一方的に切られる。
ぎりぎりと拳を握りながら学校を見据える。
「グロリア卿!」
焦ったようなローズの従者。縋るように俺に問いかけてくる。
その装束は血にまみれていて、何度か交戦したようだ。血は返り血だと一目で判断できるほどに、従者の着崩れていなければ、髪も乱れていない。
「お嬢様を、お嬢様を知りませんか!? ど、どこにいるか見つけられない!」
災害の中、迷子の子を探す親のような絶望を抱きながらローズの従者は周りを見ている。
何で離れたと怒鳴りつけたいが、今日は確か離れて仕事をしているとローズも言っていた。
「攫われたらしいが、どうにかするだろう。お前は堂々と笑みを浮かべていろ。ヴィトン家当主の従者だろう。信頼して、待っていろ」
「……はい」
何か言いたそうに下唇を噛んでいたが、目の前のすぐに笑みを浮かべる。
「我が領の当主はこの国一の最高の魔法師でございます」
「ああ、それでいい。とりあえずは害虫を排除しよう」
「大概の住民は学校に避難したか、森へ逃げたと聞いています。中にいる者は賊と判断して構わないかと具申いたします」
「わかった」
ふわりと転送魔法を応用し、宙に立つ。
「そして賊が一番集まっているのは学校の周りです」
「わかった」
ローズの従者、麗凱紀達を含め学校へと転送する。俺は学校全体が見渡せる上空に立つ。
確かに、令嬢たちが展開した防御魔法を破壊しようと躍起になっている賊どもがいる。
「全員死ねばいい」
そう思いながら、学校の周りに転送魔法陣を展開させ体の半分だけ落とす。その中で魔力の強い者だけ例外的に俺が立っている場所へ転送すると設定し、発動させる。
雑魚の体は上半身と下半身真っ二つに分かれ、死に絶えただろう。絶叫と共に学校の周りが赤く染まり始めている。他のわずかに魔力が強い者達は関節を空間固定してからそのまま上空に置き去りにする。
臭いし、みすぼらしいうえに、見苦しい言葉ばかり喚いている。
学校に降り立てば、必死に魔法を展開していた令嬢たちは涙を浮かべながら俺を見た。
「もう大丈夫。私がすべて対応しよう。みなよく頑張った」
空間断裂魔法を学校全体に張れば、令嬢たちも徐々に力を抜き安心し泣き崩れる。
「グロリア卿! ヴィトン卿が!」
攫われてしまいました! と涙ながらに訴えてくる者たちをわずかに慰めたのち、住民たちの方へと向かう。
「はぐれた者、ここまでこれなかった者、森に逃れた者を捜索に行く。顔の広い者、何名か来てくれ」
ああ、本当に、何をしているのだろうか。
ローズのもとへ行きたい。あの泣いてばかりだったローズが背負うにはすべてが重すぎる。雪月の騎士だなんて、ローズが今まで唯一勝てなかった他国の魔法師じゃないか。無駄でも何でもいいから駆け出したい。
「グロリア卿! ありがとうございます!」
泣いて縋り、感謝を述べる母親たち。居なくなったものを心配する家族。
「グロリア卿、よろしくお願いいたします」
その名で呼ばないでくれ。
惰性と命令、グロリアという名前の責任でここにいて行動しているだけなのだから。
これ以上呼び止めてくれるな。
くだらないと思いながら賊を殺し、住民を探しているのだから。
感謝をされる義理はない。




