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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
29/44

士官学校①

 ふと、その男はあらぬ方向を見ようと振り返り怪訝そうに眉を顰めた。


「ルシアン、どうした」


 気を緩めるな、と言いたいようにルシアンを叱咤する。いつもなら何かしらの反応や反論があるのだが今日に限ってはない。

 叱咤した男アルフレット・グロリアのいるチームは王族貴族揃った成績優秀者のチームである。そして、他国の王族麗凱紀もいる。学校はこのチームに優勝してもらうことが手っ取り早いご機嫌取りだと思っているようだ。


「ルシアン?」


 怪訝そうなイーズの声。ルシアンを見れば探るように集中しているのがわかる。

 アルフレットはルシアンが見ている方向に意識を集中させる。その瞬間ルシアンが声を上げた。


「姉さんが攻撃系統の大規模魔法を使ってる!」


 今にも走り出しそうなルシアンをイーズが抱きしめる形で止める。


「……おや、お前は案外使えるようだね」

「やめっ……何を!?」

「今は少し寝ていなさい」


 艶やかな精神感応系統魔法。対応しきれなかったルシアンの意識が刈り取られる。

 イーズはルシアンを丸めたテントかのように肩に担ぎ、何かを思案される。麗凱紀達一行は静観を決め込んだようだ。


「フロイト、お前南西の森に向かいなさい。行けばどこにいるかはお前ほどならば自ずとわかってくるはずだ」

「……学校に確認せずに?」

「ああ、構わないよ。無駄な行為だ、ローズだけを攫って行ったようだ」


 嘆かわしい、と言うように顔をしかめた後にアルフレットを見る。


「アルフレットは学校に戻り給え。私も全教師陣に命令を出した後向かおう。何があっても他の令嬢を守り切れ」


 フロイトはサクサクと荷物を下ろし、武具だけを確かめてから腰に挿している。


「何故!? 俺とフロイトは逆のほうが!」

「コリスカは頭を使ったらしい。学校を含めた町が盗賊に襲われている。すべて押し付ける気だ。住民も異変を感じてから学校に籠城しているが、非戦闘系魔導士の教師と令嬢だけではいつまでもかはわからない。自分の名を忘れるな、アルフレット・グロリア」

「……はい」


 悔しそうに手を握った後にアルフレットは魔力を解放させる。

 激流のような魔力に驚いたような麗帝国の者たちはじっと見ているだけ。


「ローズはこの国一の火力だ。防衛線には諸刃の剣。故にあっさり攫われたんだろう」

「時空間魔法 神道」


 震えるように出された声に、フロイトが振り返る。


「南西の森、一番近くの村につないだ。レヴィ・フロイト、命を徒死てでも守れ」


 空間が歪み別の景色が丸く映る。その景色が見えている場所を囲むようにきらきらとアルフレットの魔力が白くきらめいている。


「了解しました」


 その返事の後瞬時にいなくなり、アルフレットは次に学校へと標準を定め道をつなげる。


「……来るか? 麗凱紀」

「向かわせてもらおう」


 にい、と楽しそうにほほ笑む。一方イーズは「王族なのにすごい悪人面……」と小声でで驚いていた。


「イーズ・クレージュ」

「何かな?」

「皇帝に伝えておけ。麗帝国は援軍派遣の準備はできていると」


 イーズはくすりと笑って頷いた。


「伝えておくよ」

「斐亮達は残れ。護衛をしろ。李佳那、来い」


 魔法師の背丈よりも長い錫杖のようなものを持った女だけが麗凱紀の傍に立つが、怯えたように麗凱紀の服を掴む。気にした様子もなく麗凱紀はアルフレットと共に穴をくぐり、少し遅れて女もくぐった。

 残れと言われた斐亮を含め、フロイトが置いていった荷物をてきぱきとまとめイーズからルシアンを受け取る。

 ルシアンはぷらーんと抱えられ、イーズは幻想的な白い蝶をいくつも出し飛ばしていった。


「それで、我々は何をすればいいですか? イーズ・クレージュ卿」

「学校へ帰ろうか。君たちはわかっていたんだろう? ローズをコリスカ公国が狙っていたことを」


 何のことだか? と言いたいように笑みを浮かべ、下山を促すように歩き始める。


「可愛そうなことにローズは世間知らずだ。だが、知識だけは詰め込まれている。世界情勢、情勢の動かし方、帝下四族という一族の魔法という力の破格さ、統治の仕方、家を守る方法……まあ、詰め込んだ側が何を言おうと成功例の自慢にしかならないけれど」


 くすくすと笑いながらイーズは麗凱紀の部下たちと下山をしていく。サクサクと進んでいる間に、様々な確認をしたであろう教師たちからの緊急伝令、学校しいては街が盗賊に襲われている、ヴィトン卿誘拐、志願者のみ戦闘を許可するなどの連絡が回ってくる。


「そうですね。我が国に、あの年であそこまでの統治者は居ません」

「それゆえ、歪んだと言ってもいいけれどね。力を持っていることを自覚させてしまったから、あの子は守られる経験を知らないままこれからもこの国のために守って生きていくんだろうね」

「主様は、守ります。すべてから」

「失礼承知で言うけれど、あの程度の男ならこの国にゴロゴロいる。それとも何か、別の切り札でもあるのかな?」


 ニコリと笑いかけると、斐亮と呼ばれた男は含み笑いで答えた。


「それは我らが主のみ知ることです」


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