N.Sの内情②
「ローズモンド様!!」
通信に割り込んだローズモンドは若干衣服が乱れて不機嫌そうだがどこか清々しそうだ。隣のユルフェが安心したようにボロボロ泣いている。
しっかりしろ、と背中を叩けばユルフェは嬉しそうに涙をぬぐっている。
『このまま戦争にもつれ込ませるのなら“ローズモンド・ヴィトンが誘拐され重力魔法にて重傷”と誤報を。このまま国境に向かいます』
その言葉にユルフェの表情が引き締まる。
「雪月の騎士はどうした?」
『仕留めそこないました。ルカス、先に謝罪を。あなたの領地で大規模火災を発生させてしまった』
『はっはっは!』
楽しそうに笑いだすルカス。
『ああ、私たちのローズ。お前がそこまでできるとは思っていなかったよ』
『私はこれでも帝下四族ですから。溶岩地帯を作ってしまったわ。取り逃したけど、これでも殲滅しようとしたの。ごめんなさいね、ルカス。ニコラス、あなた今どこにいるの』
「エンワイズ領に入ったよ。褒めていいぜ」
『ならさっさと来なさい』
ルカスはおかしくてたまらない、と言うように笑い続けていて、ブロウエルは我が子の成長より嬉しそうにローズを見ている。
『私のローズモンド』
『はい』
陛下が優し気に語り掛ける。
『コリスカ公国を滅ぼせとは言わないよ。ただ、痛い目を見せてやれ』
『了解しました。国境に向かいます』
『アプト軍事拠点に向かえ』
南東の国境軍事施設の一つをルカスが指定した。ローズは少し考えるようにしてから「わかりました」と短く答え移動を始める。ローズの動きから緩慢そうな様子がうかがえるが、その一方でローズの後ろの景色は高速で動いている。
『ところで、ローズモンド。お前の護衛はいるか?』
『クレージュ士官学校三年、ヴィトン領のレヴィ・フロイトがおります』
ローズモンド・ヴィトンはにっこりとそれは誇らしげに言ってくる。隣のユルフェは忌々しそうに顔を歪め、足を速める。俺はそれについていくように力を籠める。
自分の恋人が他の男を褒めていることを嫉妬するかのように、自分の物が取られたことに憤る子供のような表情。ユルフェの様子に気が付いていないローズは言葉をつなげる。
『陛下、フロイトは彼の騎士の部下達を相手取りとても良い働きをしてくれました。中央軍を希望のようです。イーズ様のお墨付きですからどうぞ良しなに』
「ローズ、なんで重症なんて誤報を?」
『士官学校に間諜がいるようです。上手く使ってくださいな』
ローズは愛らしくほほ笑みながら移動を始める。
ユルフェの表情がどんどん険しくなっていく。ああ、面白いが俺もルカスや陛下、ブロウエルの位置なら腹を抱えて笑っていたんだろう。でも横でこの殺気に当てられていると茶化す気にもなれない。
『ああ、わかったよ。私のローズ、アプト軍事拠点についたら、サディ達を待て。二人で雪月の騎士を討て』
『いいえ、あの男は私が殺します』
『何かあったのか?』
ブロウエルが楽しそうに笑う。
『何も』
ぶつっと切れる通信に、笑い声がこだまする。陛下、ブロウエル、ルカスに俺。もう何かありました、と言外に言っているようなものだ。
あの人形のようなローズがあそこまで感情豊かになるなんて思っていなかった。
「サディ卿、速度を上げます」
「なんだ? ユルフェ、婚約者が盗られて嫉妬に駆られてるか?」
びっくりしたように目を見開いてから首を振った。
「そんな烏滸がましいことを思ったことはありません」
「でも、帝下四族も、あいつヴィトン家当主もお前を指定した。まあ、外堀は埋まっているんだよ。元平民のユルフェ君?」
そう言えばどこか誇らしそうに頬を染めた後にユルフェは黙ってしまった。




