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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
27/44

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 光速で近づいてくる魔力が特定できた。……ああ、あなたか。思わず笑ってしまう。

 一瞬意識をはずしたせいで彼の騎士は対応に遅れた。


「――フロイト、殲滅して結構です」

「了解しました」


 ドカンと、決して人が出せないような爆発音を立てながら彼はアルバートを蹴り、アルバートは吹っ飛んでいく。アルバートが吹っ飛んだほうでは砂埃のような氷の結晶が舞い上がり、幻想的な景色を生み出す。


「遅くなって申し訳ありません。後はお任せを」

「いいえ、彼の騎士は私が殺します」


 私を庇うように前に出たフロイトを制すように魔法陣を展開させる。


「華炎舞踏―三の章― 腐葉の海」


 舞っていた火の粉が地面に落ち、彼の人の部下の足元を燃やす。燃え方が遅いのは対抗魔法のせいか。


「フロイト、私の傍を何があっても離れないでください」

「御意」

「華炎舞踏―終章― 華炎の獄」


 どろり、と地面が溶け出す。木々も倒れぼっと一瞬燃えるがすぐに溶けた地面の中の一部となる。


「なっ!?」

「うわっ!」


 驚いたようにしがみついてくるフロイトに手を回し抱きしめる。

 悲鳴が上がり、溶岩の中に飲まれていく彼の騎士の部下達。耐火魔法でさえも燃やし尽くし、逃れるように手を上げながら煙を上げ、逃れきれずに踊るように燃えていく。


「大丈夫です。あれは私が操れます」


 パキパキパキ、と凍り始める地面。溶岩の動きは止まるが凍結した場からそれ以上冷気もこちら側へと来ない。


「あ゛ー! あー! あー!」


 耳を押さえながらきらきらと煌めく雪煙の中から出てくる。耳を負傷したようで右耳から血を流している。

 しかし、それ以外は土汚れ以外見当たらない。


「ああ、一瞬気絶してしまった。耳もおかしい。油断した……君がルシアン・ヴィトンか?」

「いいえ、我が弟はこれほどまで早く移動はできません」

「……ああ、光速のフロイトか。まあ、どちらでも構わない。お前たち雑兵は殺せ。私がヴィトン卿を押さえる」

「やらせるとお思いですか?」


 アルバートに向かって溶岩の塊を移動させる。その動きは蛇のようで彼の騎士の部下を巻き込みながらゆっくりと進んでいく。


「ええ、私の氷はすべてを凍らす。その憤怒すら凍らせてあげましょう、氷結魔法 絶対零度」


 ああ、これだ。これで昔私は負けた。

 けれど、今回は負けられない。魔法陣を展開させ大胆不敵に笑って見せる。


「ヴィトン卿、私もろとも攻撃して御逃げを。時間を稼ぎます」

「いいえ、私の炎を疑う気ですか!? 私はローズモンド・ヴィトン。帝下四族、ヴィトン領を統べる人間。敵に見せる背中はございません!」


 ならば、と彼は笑いながら剣を抜く。


「殲滅します」


 とん、と飛び跳ねたと思ったら隣にはおらず、ぐつぐつと燃え盛る炎の海の上を飛びぎりぎり燃えていない木を器用に使いながら目で追えないほどの速さで縦横無尽に移動する。


「被弾しないでくださいよ! 炎魔法 火弾群(かだんぐん)

「水魔法 渦潮」


 流星群のように空から降り注ぐ炎の(つぶて)。それを覆うように渦潮をアルバートは発生させるが、気分が悪そうだ。渦潮もなんてことない様子で発生させたが、こんな火災が起きている乾燥した現場であんな大量の水を発生させるなんて天才としか言いようがない。


 気分が悪そうなのも、耳を負傷したことによる弊害だろう。

 だが、関係ない。


「苦しそうですね。殺して楽にしてさしあげます」


 降り注ぐ炎の礫に被弾する彼の部下。アルバート自身は自分の周りに大きな水の膜を別に作り鎮火させてしまうが、彼以外には効果が覿面だ。

 フロイトに次々と倒されていく。目で追えないものを対処することなど所見では不可能。私に特化して対応魔法師を用意したことが仇になり倒れていく部下を目にした彼は苦しそうに声を上げた。


「撤退! 死亡したもの以外は手を貸して撤退! 殿(しんがり)は私が勤める!」

「逃がしません」

「いいえ、私のレディ・ローズ。情熱的な逢瀬はこれでおしまいです」


 雪魔法 雪嵐と愛をささやくように柔らかに甘く言う。

 ぶわりと吹きすさぶ真っ白な雪。荒れる髪を押さえた瞬間にちゅっと唇に触れるものがあった。


「また会いましょう。私のレディ・ローズ」


 眼前に広がるアルバートの綺麗な顔。とらえた瞬間に雪の目くらましの中に消えていく。


「ぶっ殺す」

「あははは! 私にとって殺し文句だ」


 姿見えない彼の楽しそうな笑い声が響き、次第に雪も消え風の音のみになる。そして私の溶岩がその乱れ舞っている雪さえも溶かすころには黒い服の人間は誰もいない。


「フロイト」

「はい、ここに」


 ぴょん、と軽々マグマの大地を飛び越えて私の横に立つ。


「感謝します。あなたが勝機を見出させてくれた」


 私一人じゃ、アルバートに勝てても妨害してくる彼の騎士の部下には対応しきれなかった。派手に魔法を使ったかいがあった。


「いいえ、俺一人の結果ではありません。ルシアン様がいち早く気がついて正確な場所を特定したのは皇太子とグロリア卿で」

「……へえ。まあ、いいです。今頃騒ぎになっているのでしょう」


 周りを見れば、もう魔法の域を超えて自然災害に成り下がっている惨状に苦笑いしてしまう。ルカスは怒るだろうか? それとも笑って許してくれるだろうか? まあ、どうでもいい。保証金ならばいくらか出せる。


 ひらひらと蝶のように飛びながら来るものがあり、それを引っ掴む。やる気のない飛び方からしてサディのだろう。


『さあ、皆。コリスカに宣戦布告を。我らが姫を攫った罪。血で贖ってもらおう』


 陛下の楽しそうな開戦宣言に慌てて割り込む。


「その必要はございません。撤退しました」


 割り込むように入ってきた通信に、ユルフェが乙女のように歓喜の声を上げていた。

 隣の画面に映らない場所にいたフロイトは驚いたように跪く。陛下に帝下四族、クレージュ最高騎士のユルフェなんてそうそうたるメンバーに委縮したようだった。


 あなたが蹴り飛ばした相手はコリスカ公国の雪月の騎士、アルバート・ブライトマンだと教えてあげたらどんな反応をしてくれるだろう?

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