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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
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23

 どうしましょう、困ったわ。この雪月の騎士に勝てる見込みなんてないわと、頭を抱えながら雪月の騎士を眺める。


「共に来てくれますね?」


 念押すように、脅すように私に向かってもう一度言う。


「お断りします」


 一歩下がって頭を下げほほ笑む。


「あなたのせいで私の人生は散々です。これ以上恥辱にまみれさせるのでしたらその命で贖っていただきましょう」

「ああ……それは残念ですが、あなたをもう一度組み伏せることができると思うとゾクゾクします」


 立ち上がったアルバートに合わせて押さえ続けていた魔力を開放する。ぶわりと広がる魔力に驚いたように彼は目を見開いて、押しつぶすと言いたげに彼の魔力をぶつけられる。


 息を吸うかのように自然に私の魔法陣が地面に展開させる。アルバートは笑顔で対応するように、自然とそうなってしまうのが当然そうに両手に魔法陣を展開させた。彼の部下たちは妨害魔法を展開させてきた。まるで体に重りをつけられたようにスムーズに魔法が展開しない。


 ――ズンと上から押しつぶされるように圧力がかかり跪く。

 これがコリスカ公国……。


「あなた一人で、私を殺せますか?」


 ふふふ、と不敵に笑う雪月の騎士。明らかにゆっくりとパキパキと私の四肢を凍らす。

 恐怖で口を滑らすことを望んでいるようだ。


「殺します」


 重い。体も這いつくばりそうなぐらい重力がかかる。魔法陣も叩き壊されそうだが、もう十分。

 この程度の中規模魔法なら展開することなど容易い。


火蛇(かしゃ)生成【火蛇王ジュベール】」


 私の魔法陣から天に昇るように大樹のような火の蛇が這いだす。

 私をも一口で食べてしまえそうな大きさの顔。その巨体な姿からは想像できない素早さ。その火炎に包まれた体が触れたものはすべて火に包まれる。


「うわっ」


 彼の部下達に火が回る。わずかに焦ったような声が上がるが、アルバートは笑みを絶やしていない。


「耐火魔法展開せよ」


 冷静にそして冷徹にアルバートが部下に指示を出し、あらかた想定されていただろう訓練どおりに彼らは鎮火させていく。しかし森は燃えたまま。重力も集中が途切れたのかなくなった。

 四肢にへばりついた氷を魔法で叩き割り力を籠める。


 ジュベールが派手に動き回ってくれたおかげで、大規模魔法の準備は整った。


「華炎舞踏一の章 ―芽吹き―」


 立ち上がり、魔法を次々に展開させていく。木々に燃え移った火が次々に薔薇の花のように形を変える。


「氷結魔法 氷の陣地」


 彼が立っている地面からぶわりと冷気が広がり地面木々、私の火をもを凍らす。

 依然と火蛇王ジュベールは鎮火されていないが、彼の部下たちが早々に片付けてしまうだろう。彼の周りには魔法陣がいくつも展開されている。


 はあ……――吐く息が白い。


「諦めてはいただけぬか?」


 コツコツと慣れたように凍った大地を踏みしめながら私の前に立つ。


「あなたの魔法では私に勝てない」


 しまった、と尻餅をついた。

 距離をとろうと後ずさろうとしたら靴裏だけが凍らされていて転んでしまった。多彩、そして器用だ。私にはない器用さだ。


 彼は尻餅をついた私にまたがり、マウントを取るように座り込む。物理的に重い。


「ねえ? 怪我をしないうちに早く認めてレディ・ローズ」


 手を掴まれ地面に押し付けられる。身体強化で起き上がろうとあがくがそれ以上の力をもって押さえつけられる。


 イラつく。ムカつく。絶対に叩きのめす。


「絶対に嫌で――」


 それはもう不意打ちだった。何かを食べるように口を開けたと思ったら、口づけをしながら頭を地面に押し付けられた。

 蹂躙する彼の人の舌。噛んでやろうとすれば喉元に氷の剣が押し当てられる。


「んっ……ふぁ……」


 片腕は起き上がろうとした私をアルバートの胸に押さえつけるようにまわされ、もう片腕は氷の剣を私の喉元に当てている。仰け反るように逃げても意味はなく、両手で短剣を持った腕を離そうとしても敵わない。


「隊長、盛るには早いですって」


 火蛇王を片した呆れ半分、からかい半分の声がかかる。


「いや、あまりにもにらみ顔がかわいくて」


 はははと声かけに反応するように口を離し、ちゅっと最後に軽く唇だけを重ねる。


「――殲滅します」


 絶対に殺してやる、と殺意がメラメラとわいてくる。


「私の腕の中でどうやって? レディ・ローズ」

「こうやってです。華炎舞踏二の章 ―花の嵐―」


 パンッと音を立てて氷が割れ、火の嵐が巻き起こる。花弁のような火の粉が意思を持ったかのように彼の部下の周りに溢れ、凍った木々をもを燃やし尽くしていく。


「人の心は移ろうもの。しかし、芽吹いた気持ちは終わりが来るまで膨らみ続ける」

「レディ・ローズは何が言いたい?」


 緩んでいた彼の騎士の部下たちは耐火魔法や鎮火魔法、妨害魔法を展開させる。

 アルバートは私を拘束したまま余裕そうにほほ笑んだ。


「私は炎から生まれた。嫉妬の炎、恋情の炎、憤怒の炎。この際なんでもいいです。このあなたへの燃え上がった殺意、あなたを殺すまで治まりそうにありません」


 ふわり、と突然に炎の嵐にまぎれて別の魔力が近づいてくる。彼の騎士も気が付いたようだが、遠く離れているため気にした様子がない。


「ならば私はあなたのその炎までも凍らせてあげましょう。かわいそうなレディ・ローズ、私が救って差し上げます」

「結構です」


 二度と会わないと思っていた。二度とこんな抑えきれない感情を抱くことはないと思っていた。


「決着をつけましょう」


 感情から、過去、実力すべてに。

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