N・Sの内情
「ああ、ヴィトン卿! ヴィトン卿!」
「ちくしょう!!」
ユルフェの通信が切られてからこちらから何も繋がらなくなった。
ユルフェは依存先の幼く可憐なヴィトン家当主のローズモンドの安否がわからなくなってから恐慌状態。引きちぎられた時点で相手が相当の使い手だとわかってしまったのだろう。
「相手があのブライトマンかよ」
ローズモンドから目元と言われて初めて気が付いた。いつもはそれは見事な金髪に目が行ってしまうから気が付くのが遅れた。
コリスカ現王の甥、アルバート・ブライトマン。雪月の騎士。コリスカ公国最高の騎士。
「落ち着けユルフェ!」
怒鳴ってしまった。ユルフェは驚いた顔をしたあとぽろぽろと涙を流しながら「はい」と短く返事をする。
まったく、クレージュナンバーワン騎士を泣かせられるのはお前だけだよローズ。
「聞いてたか、お前ら!」
俺は俺で他の帝下四族につなげていた通信ラインに向かって叫ぶ。
『ブライトマンをもってくるとはなかなかの気合の入れようだな』
ふふふ、と楽しそうな陛下。
『まあ、ローズモンドも焦ってはいないようだ。一度攫われてやりたいようにやるだろう』
静観の姿勢のブロウエル・グロリア。
『ああ、我が領でそんな大事を……』
頭を抱えるルカス・エンワイズ。
『我らの花を盗られたままでは、世界最強の国の名が泣くな』
それもこれもローズモンドがルシアンを贔屓しすぎるからだ。どうせあいつはルシアンにヴィトン家を継がせたいんだろう。手っ取り早い方法である結婚という手で逃げようとして、こんな世界大戦の幕開けみたいな状況だ。
「おい、ユルフェ」
「はい」
涙を拭きながら前を向く。
「お前、ローズモンド・ヴィトンと結婚しろ」
「え」
『ああ、いい案だ』
『うちのバカ長男が愚かしくも求愛中だが?』
「うるせえ、それが一番手っ取り早いだろう!」
ええっと、とあたふたとあからさまに混乱し始めるユルフェを微笑ましそうにブロウエルが眺めている。
『確かに、うちのバカ息子が望む前代未聞の帝下四族同士の結婚よりも実にまともだ。ユルフェ卿、貴殿にはわかるかね?』
「えっと、わかります。現在のヴィトン卿のお立場は芳しくありません。そこにこの誘拐事件、ヴィトン家の意義に関わります。私がヴィトン家に入れば、恐れ多くもクレージュ帝国最高の騎士の名がヴィトン家を帝下四族として踏みとどませることができると愚考しました」
サディ以外の全員が全員微笑ましいものを見るようにユルフェを見る。
「足りないな。今ヴィトン家とグロリア家が婚姻関係になれば貴族は嫌がる。こう考えることができる。グロリア家がヴィトン家を乗っ取るつもりだと。乗っ取った後はグロリア家がとびぬけることになるからな」
くすくすと楽しそうにサディは笑い、ユルフェが視線を下げる。
「しかし、私は元平民です。貴族……ましてや帝下四族の方と番うなんて……」
「最初は誰の子かわからないと批判されるだろうな。グロリア家と番えば。だが、お前と番えば話は変わる。お前は帝下四族を救った英雄。結婚は褒美。めでたしめでたしの美談のおとぎ話と一緒だ」
「……」
黙り込むユルフェにサディが肩を組む。
「簡単に他国に取られるわけにはいかないんだよ。俺たちの血は」
『ユルフェ、お前がちょうどいいんだ。わかってくれるだろう?』
真っ青になっていたユルフェに念押すように陛下がほほ笑む。ユルフェがこくりと頷けば楽し気に陛下が笑い声を上げた。




