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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
24/44

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 蠢く多数の見知らぬ魔力。洗練された魔力で無駄な放出をしている人はいない。統率され、訓練をしっかり受けた様子が伺える。

 無駄な音、無駄な抗争音が聞こえないことから相当に訓練されたみたい。


 しばらくするとバン、とけたたましい音を立てながら開けられたらしく「なんですか!? あなたたちは!」と叫んでいる先生の声が聞こえた。

 シャッと仕切りのカーテンが開けられる。ゆっくりと目を開けると私の前で跪いている、顔を隠した男がいる。先生は無様にも拘束されていて、私を脅すように先生に向け攻撃魔法展開の準備されている。


「ローズモンド・ヴィトン卿とお見受けする」

「はい」

「ご同行、お願い申し上げます」

「……体調が悪いので、連れて行ってくださると助かるのですが」


 嘘を並べ、うっすらとほほ笑みかける。男は黒いマスクで覆われた顔で、唯一出ている目を細め笑ったように感じた。

 そして、ゆっくりと手を掛布の中から男に向け差し出す。手を差し出した男は何も動揺せずに、しかしその男以外は警戒したように身構えている。「失礼」と、短く声をかけ私を掛布をそのままに抱き上げる。


「賢明な判断、感謝します」


 ああ、互いに相手の力量を探っている感覚がする。相手も相当な使い手でここで抵抗するのは分が悪すぎる。私の魔法は防衛市街戦では分が悪い。

 体つきからして、麗凱紀と同等かそれ以上。声はからして二十代。このエンワイズ領の場所と統率具合、魔力の質からして出される結論は――。


「コリスカ公国、ですか……」


 にこり、と笑みを浮かべられるだけで何も答えてはくれない。本当に厄介ごとばかりで頭が痛い。

 寄りかかる様に頭を寄せると、抱えなおされ外にあまり視線が向かなくなる。ただの善意のような抱え直しはこの人が女慣れしている騎士であることを示しているよう。


 中庭に集められた令嬢と教師たち。いくらかの名高い令嬢たちが人質のように男たちに拘束されているために、誰も動き出せない。

 私が最後のようで、悲鳴が上がる。泣き出す令嬢もいる様子。


「――目的は何ですか」


 鋭い声に、視線が集まる。声の主は魔法学校校長だった。凛々しい様子だが、私を抱えている人は意に介していない。


「引き上げる」


 決められた撤退ルートと順があるよう。順に撤退していく彼らを見る。


「お、お待ちになって!」


 引き留めるように上げられた声に私を抱えている人が顔を向ける。ああ、あれはピックルズ公爵令嬢、だったか。

 青い顔で、怯えながらも立ち上がっている。


「わ、私がローズモンド・ヴィトンです……! その者は関係なくってよ」


 あら、頑張るのねと感心してしまう。ほう? と言うように面白そうに興味を持った私を抱いている人。

 私は彼の服を軽く引っ張り口を開く。


「行くのでしたら早く。それとも戯言に時間を費やすのですか?」


 私の意を汲んでくれたようで構わずに撤退していく。鮮やかな撤退にほれぼれしてしまう。一瞬面白がるように止まっただけで、促したらあっさりと偽物から目を離すあたりこの男は私を随分知っているらしい。

 高速移動魔法で街の中を移動し、エンワイズ領の森の中へと入っていた。きっとルシアン達とは違う方角の森だろう。だいぶ奥まった森の中で止まり、中継拠点となっているんだろう。テントが張られている。かなりの距離を移動したのにも関わらず、誰一人息切れしていないあたり全員手練れ。


 黒い集団に囲まれながら「あれが帝下四族の一角とは……」という小さなざわめきを一心に受ける。私を抱えてた男は、私を下ろし目だけでほほ笑む。


「撤退準備」


 と短く言えば、男の部下はてきぱきとテントを片付け始める。


「私に一体何の御用で?」

「我が王があなたをご所望です」


 にっこりと、顔を出さないまま答えられる。


「どこの国? コリスカ? 麗?」


 にっこりと笑って答えない。ああ、めんどくさい。


「何で私が欲しいの?」

「麗帝国に奪われるぐらいなら、ですかね」


 ふふふ、と優し気な目。なんだか見覚えがある。


「――ねえ、ニコラス。私この人の目元を見たことがあるんだけど、あなた何か知らない?」


 あちら側からの音だけを回復させる。そうすれば笑い声と一緒に返答が返ってくる。


「ああ、そうか。お前が知っているとなると、そしたらコリスカの将軍。雪月の騎士アルバート・ブライトマンだな。お前との相性は最悪だな」

「なっ!? いつから!」


 ああ、アルバート・ブライトマン。一度会ったことがある。幼いころだ。私が当主になったとき、祝いに訪れてきた。雪、水、氷の三種の魔法にたけた騎士。


「あなたが来る前に所用で使っていたのです。僥倖でした」


 にこりと笑みを浮かべると、彼は直ぐに切り替えて驚いた顔を笑みに変える。

 彼の騎士は当時天才として名を馳せていたけれど、ただの見目のいい十代の騎士。何の勲章もなかったし、将軍でもなかった。私もわけもわからないままに当主にさせられた。


 そんな私たちに陛下が面白がって対戦させて、相性と場数の差で私が負けた相手。


「お久しぶりです、ブライトマン卿」

「息災のようで何よりです。レディ・ローズ」


 暑苦しそうな仮面を脱ぎ去り、爽やかで女受けが相当いいと他国でも噂になるほどの顔を晒す。にこりとほほ笑まれ、微笑み返す。

 見事な金髪。雪月の騎士、というよりも太陽の騎士と言った方がしっくりくる。甘く垂れた目に高い鼻、整いすぎた顔。天はこの人に一体いくつの才能を与えれば気が済むのでしょう?


 彼は魔力量という力業でユルフェの通信を断ち切り、私の前に跪く。


「共に来てくれますね?」


 彼に私が負けた故、ヴィトン家は地に堕ちたと言われるまでになった。


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