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「大変申し訳ございません! 俺に構わずお戻りください!」
「いいえ、抜け出すいい口実でしたよ」
どうぞ、お座りください、と私の手を引き彼と場所が入れ替わる。私の前に跪いている彼に「隣に座ってください」と言っても決して座らない。
「私はあなた様にどんなご無礼をしてしまったのでしょう……?」
「……しいて言うのでしたら、私がダンスの申し込みに是と答えたというのにあなたは失神してしまったということですね。とても驚きました」
真っ青になるフロイトさんになんだか可笑しくなってしまう。くすくすと笑ってしまったら困惑したように私を見ている。
「寮まで送ってくれたら許します」
「本当ですか!?」
「はい」
手を出せばフロイトさんはエスコートするように手を取り立ち上がる。
「レヴィ、送り狼にはなるなよ」
「……アルフレットもくればいいだろう? そんなに気にかけているのなら」
「行かないよ。頼まれない限り、帝下四族同士で噂になることはしない」
あとやりたいこと以外、と付け足す。
「俺は仕事に戻ろう。イーズ様に押し付けているしな」
「……」
フロイトさんは困ったように私を見る。本当に送り届けていいのか? と言うように見ているため「帰りましょう」と促す。
私の言葉に促されたフロイトさんは歩き出し、メイドや執事がいる廊下では何もしゃべらず建物から出たときにやっと声を出した。
「本当に、良かったのですか?」
「ええ、私は麗凱紀怒ってしまいました。戻りずらいのです」
しい、と言うように口に人差し指を当てる。
「久し振りに怒ってしまいました。収めどころもわからずに」
フロイトさんの前を歩く。フロイトさんは私との距離を一定に保ちながら後ろを歩いている。
「ヴィトン家は優しすぎるのです。他家はもっと傲慢と、貴族はもっと卑劣だと聞きました。ヴィトン家の献身に我らヴィトン領の民は救われています。もっと傲慢にあられてください」
「私はわがままですよ。今ヴィトン家一のわがままを通していますから」
ふふふ、と笑ってしまう。そうするとフロイトさんも楽しそうに笑いだす。
「幸せですか? ヴィトン卿」
「ええ、皆黙殺していますもの。放置が一番です」
寮につくと警備が薄い寮にフロイトさんは眉を顰めている。
「では、ここで。またお会いしましょう、フロイトさん」
「この警備で大丈夫なのですか?」
「ええ、私は強いですよ」
「……そうですか。そうですよね」
「どうされました?」
「いえ、不穏な噂を耳にしているもので……ああ、麗凱紀は関係がありませんが……」
不穏な噂? と首を傾げる。フロイトさんは首を押さえながら言い淀んでいる。
「なんでしょう?」
「エンワイズ領には今強力な魔法師がいないため、隣国のコリスカがエンワイズ領から狙っているのでは? と」
エンワイズ家当主は今帝都にいる。というよりも、帝下四族は私以外要職についているためそこにいる。
「噂に根拠はないんですよ。けれど、噂になっているときにヴィトン卿がここに来た、ということで戦争が近いのではないかと噂に下民の間ではなっています」
「……そんなんですね。私は聞かされていませんでした」
「お気を付けください」
しっかりと下げられた頭。フロイトさんは私がいなくなるまで頭を下げているつもりだろう。
「何かあったときはよろしくお願いいたします」
ぱたりとドアを締める。自室へと戻り、制服を脱ぎ捨てベッドへと飛び込む。何か不備があればきっとヴォルフラムが直しておいてくれる。そう信じて、目を閉じる。
疲れてしまった。




