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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
13/44

Lの内情

「若い、青いねぇ」


 はっはっは、と集団の中で一番若い男が笑い声を上げる。二階席で休み、監視する教師陣がいるように貴賓席に似合わない武骨な男達三人と線の細い美人一人。


「うちの若い兵士のほうがまだ使えるレベルだぞ」


 一番体格のいい男が生徒たちを品定めするように言う。


「いいや、帝下四族は魔法に対する反応速度が異常だ。我が国にこの場に入った瞬間から警戒できるやつがどれほどいる?」


 責任者と見られる壮年の男が否定をしながらじっと開場を見ている。


「視認できる距離、となりますと教師も含めて二十数名反応していましたね」


 くすくすと女は笑う。金の髪を揺らしながら女も同様に会場を見つめている。


「貴族の魔法師教育、の機関ですからね。兵士の育成ではありませんよ。しかし、まあ……あの、ルシアン・ヴィトンの反応の速さ、特定能力の速さは化け物級です」

「あの? 平民の?」

「ええ、平民の中から生まれた化け物です。あれはうちの乱蓮並みです」


 乱蓮、話には聞いたことがある。魔法師のいなかった村から出た、魔法から縁遠かった村だからこそ神とまで崇められた。二十二歳にして征東魔法大隊中隊長、気象の魔術師だったはず。


「……リズ、出てきなさい」

「はぁーい」


 物陰に隠れていたのがやはりばれた。流石は我が母だ。


「報告を」

「報告します。報告できるものはローズモンド様の魔法一部のみとなります。視た魔法は治癒魔法、遮断魔法、身体強化魔法、魅了系統魔法です。身体強化魔法は麗帝国の月隊魔法師団長程度」


 麗帝国は花鳥風月の順で大隊が分けられている。上から花組が一流、二流と下がってくる。一番下が月隊だ。

 私の言葉なんか耳半分ぐらい適当にみんな会場を見て笑っている。珍しくローズモンド様が本気で気分を損ねているようで、主様の存在はなかったものとされている。主様はダンスを誘おうとしているがローズモンド様は華麗に公爵子息に逃げている。


「ただし、身体強化は苦手なような印象に感じました」

「それでも、月と一緒か……」


 ふむ、と責任者っぽい人がうなる。私はこの四人のメンバーでは母と主様しか知らないし、知らさせることも知ろうとすることもない。


「治癒魔法、遮断魔法は宮廷魔法師の天藍様にお及ぶものかと判断いたしました。問題は魅了魔法です」

「なんだ?」

「初動もなければ魔力感知もできませんでした」

「なに!?」


 魔法には起動するとき特有の揺れがあり、起動中も空気中の魔力が揺れている。それを感じられる人はめったにいないし、現に母が指摘したように魔法教育機関として一流のここにも二十数名程度しかわからない程度にしかいない。


 私は感じられるからここにいるわけではあるけれども。


「第二皇子から牽制で言われました。近づきすぎると魅了にかかるぞ、と。現にかかっているがな、と」


 何、と言うように振り向いてくる。凱紀様はもうローズモンド様を諦めたようで、ダンスの輪から抜け教師陣のあいさつに対応している。


「華炎のヴィトン家。華、つまり魅了という意味だったのでしょう。時喰のグロリア家、雷帝のエンワイズ家、占領のブライド家も別の意味があるかと予想されます」


 帝下四族、アルフレット・グロリアはローズモンド様よりも優しい環境にいたせいか甘いところが目立つ。だが、アルフレット・グロリアは当主ではない。現在のグロリア家当主はブラウエル・グロリア、三十八歳。現行宰相だ。


 帝下四族の当主は要職に就くことが多い。グロリア家の宰相を筆頭にブライド家は代々魔法軍大将、エンワイズ家は国土交通省長官、ヴィトン家は貿易省長官。ヴィトン家は今欠けているが、ゆくゆくはローズモンド様も長官になるのだろう。

 華々しい経歴が約束されたあの人は、自由を知らないのか。


「私はこの情報と私が目にした魔法展開を基に、報告をいたします。……帝下四族は、麗帝国が長期間開発することができない最悪な生物兵器であると報告いたします」


 そう伝えれば、そこにいた人達は苦々しい顔をしていた。

 私も泣きたいのだ。私は麗帝国で天才だった。それなのに、この国では私はちょっと優秀なだけ。少しの魔法の授業だけで理解させられるほど、美しい魔法を一部の貴族は使うのだ。


 あの人たちには勝てない、と本能的に悟ってしまったのだ。この国の貴族は、特別な力を持っているからこそ貴族なのだと態度であるのだと私は理解させられたのだ。


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