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煌びやかで、一段と気合の入った料理と音楽。可能な範囲で着飾った令嬢、子息達が目に入る。
「私には縁遠い世界だわ……」
思惑渦巻く社交界なんて。いいように利用されて終わってしまうわ。ルシアンの服をきゅっと掴む。なんだか気持ちが悪い。ぐわんぐわんと揺れる船の中のよう。
「姉さんが縁遠かったらみんな縁遠いものになるよ」
私たちが最後のようにドアが閉まり、どこかの老執事が音もなく私たちに近づき飲み物を差し出してくる。ルシアンがブドウジュースを二つ取り、口を付けて毒見をしたほうを差し出してくる。
「ルシアン、そんな……やらなくていいのよ……」
「……姉さん、あなたは死んではいけない人だ。どんな手を使ってでも生きなきゃいけない人」
「どうしたの、ルシアン? どうしてそんなにピリピリしているの?」
ルシィを見上げればにこりと笑ってくれる。
「なんでもないよ」
そうルシィが答えると、バツンと照明が落ちステージにスポットライトがあたり、士官学校と魔法学校の校長二人が立っている。遠目からみても二人は非常に困惑している。パタパタと一人の教師が私を見つけて走りこんでくる。
「ヴィトン卿」
「何でしょう?」
耳元でささやく教師にルシアンが薄い防諜魔法を張る。本当に美しい魔法をルシアンは使う。その魔法に見とれながら耳を傾ける。
「麗帝国の方々が、挨拶をしたいと舞台袖に……」
「は?」
顔を歪めてしまい、ルシアンは自分の不機嫌さの原因を知ったようで少し納得したようだった。
「最低限の礼儀を知らないのか? いくら何でも早すぎる」
と、ルシアンが不機嫌そうに言う。確かにそうだ。
「わかりました。ありがとうございます」
ルシアンが魔法を解くと校長たちのあいさつが続いていた。そんな私たちというよりも、魔力の機微を見ると士官学校の校長は話しを切り上げ、魔法学校の校長が話し出した。
「皆さま、今年は特別な年になりますよ。なんと半年間、留学生として麗帝国の方がいらっしゃいました」
ニコニコと嬉しそうに紹介する魔法学校の校長。さっきまではあんなに困惑していたのに切り替えがやはり長として素晴らしい。
「麗帝国の麗凱紀様です。初めてのクレージュ帝国へ来られたということで皆さま、誇りをもって手助けお願いしますね。それでは挨拶をお願いします。麗凱紀様」
と、紹介した後校長たちは舞台をはけ、代わりに麗帝国のひらひらとした民族衣装を着た細い小柄な少年と印象だ。
そう、印象だけは。魔法で幻影を見せているようだ。一週間後ということだったのに情報が来た当日。何もかもなめすぎている。
「不愉快です」
呟いた言葉が思った以上に響き渡り、皆私のほうを向く。ステージの上の麗凱紀は楽しそうに口元をゆるめている。
手を伸ばして大げさに魔法を使う。幻影魔法の反魔法。小さな魔法のはじける光がしてから溶けるようにその姿が現れ、会場全体が息をのむ。彼の人の魔法を消したおかげか気分の悪さが無くなる。
立ち姿だけでも迫力がある。細い小柄な姿はみじんもなく身長も高く首も太く、筋肉が民族衣装をひらひらと何枚も着重ねていても隆々ということが遠目でもわかる。
――燃えるように印象的な赤髪。
「試してみてすまない。話に聞いたとおり、素晴らしい魔法師が多くこの国にはいるようで大変羨ましく思う」
じっと視線が合う感覚があった。相手は見定めるような目、こちらは拒絶の目で応戦する。あの人の周りだけ空気が違う。戦場を渡ってきた為に鋭く研ぎ澄まされた抜き身の刃のような威圧感。
ああ、陛下。私だけでやりあうには力不足です。良い様に丸め込まれないようにするのが精いっぱいかもしれません。
泣きたくなる気持ちをぐっと押さえてずっと彼の人を見つめている。
「我が国では優秀な魔法師が不足しており、この国の教育方法などを学びたいと思っている。よろしく頼む」
軽く礼をしてはけ、また士官学校の校長が出てくる。舞台袖から威圧感を振りまきながら麗凱紀が降りてきている。彼が目の端に移ったが無視をする。
士官学校の校長の言葉は終わり、音楽が鳴り始める。すぐに舞台袖から士官学校の校長が出てきてマダム・ティアラと開場の中心に行き踊りはじめ、魔法学校の校長と麗凱紀がダンスを誘い会場の中心へと行く。それを皮切りにどんどん一般教師と生徒たちが中心に加わる。
「行こうか、姉さん」
ダンスの輪に加わる。公の場での初めてのダンスで少し緊張するがルシィがいるから安心する。
「よろしくね、ルシィ」




