こっちを向いて子猫ちゃん。
予告通り、「私の周りが騒がしい」男の子サイド。
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↑読んでからを推奨です!(重要)
そうじゃないとただほっこり、「頑張れ若者よ〜」で終わります。
いつも以上に平坦でごめんなさい!!泣
皆さん、こんにちは。
俺の名前は菅原隼人。最近何故だか"残念"とか"ヘタレ"とか言われる、まぁ、ごく平凡な男子高校生です。
そんな俺には気になっている子がいます。俺の後ろの席に座る河村実夢ちゃん。通称みーちゃんです。
みーちゃんは絡まりやすそうな猫っ毛をした、小柄で大人しい女の子です。
クラス替えが終えてすぐの4月当初から、彼女はよく目立っていました。
ざわつく教室内で、1人静かに本を読む女の子。その陶器のように白い顔には表情らしい表情が浮かんでおらず、それがより一層彼女の神秘的な雰囲気を醸し出していました。気になるし、話しかけてみたいのに、話しかけられない。みーちゃんはそんな女の子だったのです。
新しくなったクラス、その時の最初の席順で、俺はみーちゃんの通路挟んだ斜め後ろの席でした。チラリと黒板から視線をズラせば、彼女の横顔と手元がほんのり見える、そんな席だったんです。
そこで俺は初めて、彼女の、綻ぶような幸せに満ち溢れた笑顔を目にしました。
教科書に隠すように握られた少し厚め文庫本。それを静かにめくる彼女はとても楽しそうで、嬉しそうで、期待に輝いた瞳でぐんぐん物語に引き込まれているようでした。キョロキョロと動く黒目がちの大きな瞳が、次は次はと、展開を追うごとに忙しく動くのです。時に目を丸くし驚き、時に不安そうに眉を下げ、時に怒ったように本をギュッと掴む。
普段は決して見られない彼女の表情が、授業中、誰にも見られていない間だけ、色鮮やかに喋り出すのです。
まるでその本が特別な魔法の本だというように、彼女はもちろん、それを盗み見た俺まで虜にしてしまったのです。
その日からこっそりと、彼女を観察するのが日課となりました。
みーちゃんを観察するにつれ、普段の彼女はわざと表情を抑えているのだと気がつきました。
休み時間、同じように本を読む彼女は時折不自由そうにその綺麗なカーブを描く眉を、そのつり目がちな大きな瞳がを、その真っ赤に染まる口元を、ピクリと動かすのです。
まるで素顔の自分を見せるのを恐れるように。
そして時折出してしまった表情を、ハッとした顔で隠すのです。周囲をキョロキョロと見回し、誰も見ていなかったことが確認できると、ほっとしてまた本へ視線を戻す。
その姿はまるで警戒心の強い猫のよう。
俺の感情が"可愛らしい表情をする彼女を見たい"から、"好きな女の子の可愛らしい表情をもっと知りたい"に変わるにはそう時間はかかりませんでした。
こう言っては照れくさいですが、初恋だったのです。
しかし、俺の初恋は思った以上に困難なものとなりました。
まず、みーちゃんはクラスの人というか他人と、必要以上に関わろうとしません。前に興味本位で話しかけた女子たちが「で、用はないんですか?」と冷たくあしらわれていたのを俺はよく知っています。俺がもしあのガラス玉のように透き通った瞳で同じことを言われたら、ショックすぎて家に引きこもってしまうでしょう。
それだけ俺は今まで、周囲に恵まれ、優しく接して貰っていたのです。
勉強も、部活であるサッカーも、そこそここなすくらいしかできない平凡な俺。そんな自分をみーちゃんがまともに相手してくれるのかという不安から、全く話しかけられませんでした。
それなのに俺の心は、見ていたいから話しかけたい、話しかけたいから仲良くなりたい、仲良くなりたいから触れてみたいへと、次々欲深くなっていく。
ぐるぐると渦巻く彼女の思いと己の葛藤に、耐えきれなくなった俺はとうとうひとりの友人にそれを打ち明けました。
「河村…って、あの何考えてるかよくわかんない、本読んでるの?」
俺の部屋のベッドで寝そべり、漫画を読み漁りながら、素っ気ない口調でそう聞いてきたのは俺の幼馴染であり、同じサッカー部の真島宏明。ぶっきらぼうだが口は堅いし頼りになる。俺の昔からの相談相手です。
宏明はどうでも良さそうに俺の話を聞きながら漫画を至極つまらなそうにペラペラとめくっています。
「何考えてるかよくわかんないってのは否定するけど、その子で合ってる!河村さん!!」
俺の食いつくような反応に、宏明は一瞬手を止めて俺を見た後、まためんどくさそうにページをめくります。
「普通に話せばいいだろ。」
「でもでも〜!話しかけても俺なんか相手にしてくれないかもしれないじゃんかぁ〜!!」
その言葉に宏明は大きくため息を吐き、床に座る俺へと向き合うように起き上がりました。
「…お前は誰かと話すとき、そいつの外面どうこうを気にして話すのか?」
「ううん、話してて面白いやつだな〜って思ったら話すし、俺からも話しかけたくなる。」
「じゃあ、お前の好きになった…あー、名前忘れたけど、その女は、そういうの見て話すかどうか決めるような女なのか?」
「…違う。」
彼女は、確かに人と話すのをめんどくさそうにはしてるけど、それでもその人の話に真摯に耳を傾ける、まっすぐで綺麗な女の子だとずっと見てきた俺は知っている。
「…なら、何が問題なの?」
宏明はそこまでいうと、また力なくぼふっと俺のベットに倒れ込みました。
宏明の言葉に勇気付けられ、元気を取り戻した俺には、宏明のマットレスに埋まったその一言を聞き逃してしまったことにも気がついてませんでした。
「お前と、お前の周りの煩さを彼女が許容できればだけど。」
そして現在。
2週間前の席替えで見事にみーちゃんの前を引き当てた俺は、毎日いそいそと彼女に話しかけています。
最初こそ何事かとあの透き通る目で俺を見て、小首を傾げてくれていた彼女も、こう毎日となれば面倒くさいとばかりに知らんぷり。
でも、俺は彼女がその腕に伏した状態で、僅かながら表情を移り変わらせることを知っています。隠すように組まれた腕を枕に、彼女は少しだけ顔を窓の方に傾けます。そこから覗く表情が、窓に反射して写るのです。
無関心、無反応のフリをして、俺の一挙一動に細やかに返事をする彼女の小さな変化が、堪らないほど愛おしいのです。
本人は見られてるとは思っていない彼女の行動を話せば、驚いたように目を見開き、眉を上げます。その日の他愛ない出来事に同意を求めれば、眉をひそめて考えるような素振りをします。何より、俺がちょっとその手に触れてみたり、彼女を困らせるようなことをいうと、その白い肌が耳まで真っ赤に染まるのは、もう抱きしめてしまいたくくらい可愛くてしょうがありません。
最初はみーちゃんに話しかけて何が面白いのかと言っていたクラスのみんなも、少しだけ彼女の反応のことを教えると、俺たちの様子を見守ってくれるようになりました。
男友達も、興味深そうにみーちゃんを眺めるのはちょっと気に入らないけど、彼女と話すのを邪魔されないのであれば我慢できるってものです。
そんな少し進展した今でも、変わらない日課が1つ。
窓を利用して、本に夢中になる子猫ちゃんを眺めること。
今日はどんな表情を見せてくれるのか、いつも期待に胸が踊ります。
あ〜、早く。その可愛い笑顔を正面から見てみたいなぁ〜。
ほんとお粗末様でした。
この後、なんやかんや押し問答しながら、押し負けて付き合うことになって、さらに結婚まで丸め込まれる運命が見える…
なんだかんだ言って、みーちゃん絶対、菅原くんの容姿好きそうだし。笑
タイトル思いつかなくて適当に付けたことをこっそり暴露しておきます。