5章ー20 怪物vs怪物
ようやく5章が終わりそうです笑
「あれがヴィンデル様なの・・?」
ルミリアは宙に浮かぶ優一の姿を見つめる。
あの翼は一体・・。
それに髪も肩まで伸びてるし、腕もまるで竜の様な鱗が生えている。
それよりもこれまでのヴィンデル様とは明らかに何かが違う・・。
「ヴィンデル様! 一体どうなされたのですか・・、ひっ!」
声に反応した優一の視線を受けたルミリアは、恐怖で一瞬にして体が動かなくなった。
なにこれ・・?
体の震えが止まらない・・・。
それによく見ると、ヴィンデル様の魔力がこれまでとは比べ物にならない位高まって・・。
「ウォォォォォォォ!!!!」
優一は前方に視線を戻すと、大気を震わせるほどの雄叫びを上げ、ゲヘナ・ザヘナへとてつもない速さで突撃を開始した。
『何じゃ!? 全く動きが見え・・、ぐあっ!!!』
ブシュッ!!! 優一はゲヘナ達の首の一つを掴むと、胴体から一気に引きちぎった。
『こ、この若造がぁぁぁぁ!!』
ゲヘナ達は首を瞬時に再生させると、全身から触手を発生させ優一を攻撃する。
ドンッ! ドンッ!! 放たれた触手が優一に突き刺さると、二撃、三撃とさらに触手が突き刺さり、優一は後方へと吹き飛ばされていった。
『ゲヘへへへへ、まだまだぁぁぁぁ!!!』
ゲヘナ達の身体を黒雷が纏い、触手を伝い優一の身体へと流れ込んでいく。
シュゥゥゥゥゥゥ・・・。
ゲヘナ達の攻撃は辺りの岩を砕き、地面が割れ、優一の姿は砂煙で全く見えなくなった。
「ヴィンデル様!!!」
ルミリアはリーナとジルを連れクレーターの外部へと下がると、攻撃音で戦場に目線を戻した。
なんとかヴィンデル様の手助けをしたいけど、次元が違いすぎる・・。
「ルミリア様! これは何事ですか!?」
ルミリアが振り返ると、息を切らす風精霊に肩を貸しながら歩いてくるガードナーの姿があった。
「それがジルさんが攻撃を受けて倒れる姿をみたヴィンデル様が突然・・・」
ドンッ!!!!
その瞬間、砂煙の中から優一が空へと舞い上がり、再びゲヘナ達へと笑みを浮かべる。
『あ、あり得ん!! あの攻撃を受けて無傷でおれる者など・・。』
「ガァァァァァァァ!!!」
優一は再び雄たけびを上げると、体を覆う鱗が形状を変え、それは更に体を覆い姿を変貌させていく。
「・・・魔力が暴走しよったか。」
優一の姿を見た風精霊が呟く。
「風精霊様、暴走とは一体・・?」
「強すぎる魔力は自らにも牙をむく。500年前の魔王がよい例じゃ。あの状態が長く続けば精神までもが変容し、二度と元には戻れなくなる・・。」
風精霊はルミリアに答えると、ついに膝を付いた。
「風精霊様?! 大丈夫ですか?!」
「大事ない・・。だがバルトールにはもうしばらく頑張ってもらわねば。最悪の場合は私があの者を滅さなければならんからな・・。」
風精霊は大きく息を吐くと、ゆっくりとその場に座り込んだ。
恐らく父上の身体も既に限界・・。少しでも力を温存するつもりなのね・・。
それよりさっきの話が本当なら、ヴィンデル様はもう・・。
ルミリアは優一の笑顔を思い出すと、溢れそうになる涙を拭う。
もしヴィンデル様がこの国に牙をむくというなら、王女として私がこの手で・・!
ルミリアは腰に掛ける剣を握りしめた。
「・・ッ!! ルミリア様!! こちらに!!」
ルミリアはその声に振り返ると、急ぎリーナの元に急いだ。
『これは我々の事を化け物とは既に言えんのぉ・・・。』
ゲヘナ達は優一の姿を見ると、笑い声を上げた。
そうか・・、あの外皮で先ほどの攻撃を防いだということか・・。
ならばほとんどの攻撃は奴には通じんだろう。
狙うはまだ鱗に覆われていない腹部と首中心かのぉ・・。
『・・ん? 何じゃ??』
ヴゥゥゥゥゥ・・。
優一は右手をゲヘナ達に向けると、その5本すべての指先が黒く光り始める。
ヒュッ!!!!
次の瞬間、閃光が走り何かが空を切り裂く音が響くと、ゲヘナ達の体を5本の光の矢が貫き、全ての個所から黒炎が噴き出す。
『ぐあぁぁぁぁ!!!』
『これは地獄炎の炎か?! だがあれはこんなに早くないはず。』
『いや、今はそれよりも燃える箇所を切り離さなければ・・!』
ブチブチッ・・。ゲヘナ達は燃えている個所から無事な箇所を分離すると、急ぎその場から離れた。
ぐっ・・。かなり燃やされたが、心臓が無事ならいくらでも再生することは出来る。
奴はまだそのことには気づいてないようだしのぉ・・。
「ガァァァァァ!!!!!」
シュッ!! しかしゲヘナ達が移動した先に優一が瞬く間に移動してくると、鋭い爪をその身体に食い込ませる。
『ぐあぁぁぁぁ!! 離せぇぇぇぇ!!!』
ブシュゥゥゥッ!! 優一はゲヘナ達に食い込ませた爪で体を引き裂くと、さらに続けて体を引き裂いていく。
ま、まずい・・!! 再生が追いつかん!!
それに奴に攻撃を受けた個所が次々と発火していく!
奴の手も地獄炎と同じ効果があるというのか・・!?
『ええい!! 黒き雷炎 (スバルト・フレイム)!!』
ドンッ!!! ゲヘナ達から放たれた黒炎と黒雷は合流すると、優一へと一気に降り注いだ。
「ガッ、ガァァ!!」
攻撃を受け優一の動きが止まると、ゲヘナ達はその場を離れさらに燃える体を切り離し再生を急ぐ。
はぁ、はぁ・・。これはわしらも覚悟を決めねばならんの・・。
「ガァァァァァァ!!!!」
ゲヘナ達の攻撃を振り払うと、優一の身体はさらに変化していく。
バキ、バキッ・・。 優一の口が徐々に大きく裂け、不気味な音と共に口の中が光り始める。
『ゲヘへへへへ、いいじゃろう。わしらも最強の魔法で受けてやるわ。』
再生を終えると、ゲヘナ達の背中が割れ、そこから第三の口が現れた。
『これで最後じゃ。 雷帝の黒雷 (トール・スバルト)。』
「ガァァァァァァ!!!」
ドンッ!!!!!!!
優一の口からは青白い炎が、ゲヘナ達の第三の口からは黒雷がそれぞれ放たれ、両者の中心で衝突しクレーターの内部には凄まじい爆風が吹き荒れる。
ゴォォォォォォ・・。 両者の攻撃は互角の威力なのか、衝突したまま微動だにしない。
『ぐっ・・。まさかこれほどとは・・。 だが、奴も限界の様だ・・。魂を媒介に異世界生物から魔力を得ているわしらの魔力が尽きることはない。』
『我慢比べならわしらの勝ちじゃ!!!』
ゲヘへへへへ・・。ゲヘナ達が大きく笑い声を上げた瞬間、衝撃音と共に黒雷が押し戻され始める。
「ガァァァァァァ!!!」
『ま、まさか・・! こんなことがあり得る訳がない!!』
優一は全身に炎を纏わせ、自ら黒雷の中に飛び込みゲヘナ達の攻撃を押し戻していた。
ありえない・・!
わしらは500年前の魔王にさえ負けぬ力を手に入れたはず・・!
なのにどうしてこんな若造なんかに!!!!
「・・・おのれぇぇぇぇぇ!!!!」
ドンッ!!! 黒雷が弾け飛ぶと、炎と一体となった優一がゲヘナ達へと迫り、心臓を移動させる間もなく全身が炎に包み込まれた。
パキンッ。 肉体が炎によって崩れていき、その中から赤い水晶のような心臓が現ると、優一の尻尾によって真っ二つにされ、ゲヘナ達の身体は再生することなく遂に消滅していった。
「ガ・・、アァ・・。」
シュゥゥゥゥゥ・・・。 しばらくして炎が燃え尽きると、そこには優一と人の姿に戻ったゲヘナ・ザヘナの姿があった。
「ひっ! 助けてくれ・・。」
「わしらはもう・・。」
ゲヘナ・ザヘナの姿はさらに痩せこけ、心臓を失ったことで魔力も尽き、およそアスティロン帝国の亡霊と言われた姿は残っていなかった。
「ガァァァ!!!」
優一は腕を振り上げると、怯える二人に振り下ろそうとする。
「ヴィ、ヴィンデル様! 待って!!!」
シュゥゥゥ・・・。 その言葉で優一の手はゲヘナ・ザヘナに当たる寸前で止まり、声の方向へと目線を向けた。
「・・・ッ!!!」
そこには腹部を抑えながらも優一へと歩いてくるジルの姿があった。
ジ、ジル・・! ぶじ、だったの、か・・。
な、なんだ・・? ジルの姿を見ると体を覆っていた焼けるような熱さが引いていく・・。
シュゥゥゥゥゥゥ・・。ジルの姿を見た優一の身体は蒸気を上げ、徐々に元の姿へと戻り始めた。
バタンッ。 しばらくして元の姿に戻った優一が倒れそうになると、ジルが駆け寄り体を支える。
「・・・よかった。無事だったんだな。」
「ええ。これもヴィンデル様のおかげですよ。」
ジルは優一から離れると、服の下に来ているものを見せる。
「これは・・!」
これは南洋国家連合で買った、魔鉱石で出来た鎖帷子・・。
そうか、これが触手が体に直接刺さるのを防いでくれたのか・・。
「ヴィンデル様は二度目の命の恩人ですね。」
ジルは笑顔で優一に答える。
「・・・・・。」
ガバッ!! 優一はジルに近寄ると、その身体を抱きしめた。
「ヴィ、ヴィンデル様?! ど、ど、どうされたんですか??」
「・・・本当に無事でよかった。」
ジルは優一に抱き着かれたことに顔を赤らめるが、次第に落ち着き笑みを浮かべると、それに応えた。
「ルミリア様、よろしいのですか?」
「・・・ふぅ、今回は仕方ないじゃない。あれを止めるほど私も無粋じゃないわ。」
ガードナーの言葉にルミリアは小さく笑いながら答えると、ガードナーも笑みを浮かべそれ以上は何も言わなかった。
「ヴィンデルとやら。今回は私の尻拭いをさせるような形になり真にすまなかった。」
「精霊界を代表して礼を言わせてもらう。」
優一の元に風精霊が近寄り頭を下げる。
「い、いえそのようなことは・・。頭をお上げください。」
「今回の礼として、このペンダントを送るとしよう。これから妖精族と交流するのなら、何かと便利だろう。」
風精霊は頭を上げると、手のひらから一つのペンダントを出現させた。
なんだこれ・・? 紐の先にあるのは金属・・なのかな。
不思議な模様だ・・。
「ヴィンデル様! それは風精霊様に認められた者だけが贈られるペンダントですよ!」
「妖精族の中では四大精霊に認められるのはとても名誉なことなんです!! 私にも見せてください!!」
「わ、私にもお見せ願いますか?!」
ルミリアとガードナーが優一の元に駆け寄り、ペンダントを見ようと詰め寄る。
「やれやれ、何をやってるんだ・・。」
「本当ですよ、父上。」
ハハハハハッ!!! 優一達の周りにはルーマスやクシュナーを始めアーリントン王国の兵士達が集まり始めていた。
「娘よ、名をなんと言う?」
「は、はい。ジルと申します!」
ジルの元に風精霊が近寄る。
「そうか。ジルよ、もしお主があのヴィンデルという者を守りたいと思うなら、あの者がペンダントを肌身離さぬように注意せよ。あれには魔力の暴走を防ぐ魔法を込めておいた。」
「今回は運よく元に戻れたが、過去自身の魔力に食い殺された者を何度も見てきた。そうならぬように私が先ほど言ったこと、よくよく心掛けよ。」
「・・・・・承知しました。」
ジルはしばらく考えた後、風精霊に頭を下げる。
「さて、そろそろ私も戻るとするか・・。魔族を気に掛けるとは私も年を取ったかの・・。」
ふっ・・。 風精霊が笑みを浮かべ翼を広げると、徐々にその姿は消えていった。
「・・・ゴホッ、はぁ、はぁ。」
風精霊が消え元の姿に戻ると、バルトールが目を覚す。
「バルトールさん!!」
優一の言葉でルミリア達もバルトールが元に戻ったことに気がつき、涙を浮かべ急ぎ傍に駆け寄った。
「ル、ルミリア。皆の前でよさぬか・・。」
「よかったです、お父様ー!!」
ルミリアは声を上げ、バルトールに抱き着く。
その姿をみた周りの兵士からは大きな笑い声が起こった。
「ふふふふっ。」
ジルはその光景に笑みを浮かべるが、風精霊に言われたことを思い出し、優一のあの姿に僅かな不安を抱かずにはいれなかった。
─王都 城壁内─
「おい! 戦いが終わったようだぞ!!」
「ああ! 俺達の大勝利だ!!!」
オォォォォ!! ゲヘナ・ザヘナに勝利した報が王都内にもたらされると、守備兵始め、全ての国民が喜びの声を上げた。
「マリサ様! ヴィンデル様達が勝ったみたいですよ!!」
「当たり前です! ヴィンデル様が簡単に負けるはずありません!!」
王都内に残り、魔道具の修復や、怪我人の手当てをしていたユーナとマリサは街のお祭り騒ぎに自分達が勝利したことを知る。
これでようやく岩窟族の国に行けるわね。
ふっ、ヴィンデル様も行く先々でよく厄介ごとに巻き込まれること。
まぁ、あのように何かあればほっとけない性格だからこそ皆が惹かれるのかもしれないわね。
マリサは優一のことを考え、笑みを浮かべる。
「それじゃあ、早速私達もヴィンデル様の元に・・」
ドンッ!! 突然衝撃と共にマリサの身体が硬直し、人型からスライムの姿に戻る。
な、何が・・。
マリサは薄れていく意識の中で背後を見ると、数人の男がユーナの口を押え連れ去ろうとしている姿が目に入った。
「おい! なんかスライムになっちまったぞ?!」
「知るか! 今はこの夢魔だけでいい。こんなとこに魔族がいるってことは、恐らくジルとかいう奴に違いない! これで懸賞金は俺たちのもんだ!!」
「そうだな! ジルはヴィンデル・ロ・ウードの腹心、この国で奴の姿が確認されているならこいつはジルに違いない!!」
あの姿は人間・・。それも恐らく冒険者。
不可視を使ってここまで侵入してきたのか・・!
くそ・・、早くこのことをヴィンデル様に知らせないと・・!
しかしマリサが意識を失うのと同時に、男達は魔法で姿を消していった。
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