1章ー4 進入
ザガ洞窟。
ここはリオン村より東に120kmに位置するフィンデル山脈にある巨大な洞窟である。
フィンデル山脈はリーディア大陸西部に位置し、南北に4000m級の山々が連なる山脈であり魔境と人種の住む土地の境界線となっている。
魔境から人種の土地に入るには、フィンデル山脈を超えるかその南に広がるノルド平野からのルートがあるが、ノルド平野は500年前の戦いの後に休戦条件として両勢力共に不干渉としたため事実上立ち入ることは出来ないことから人の往来は限りなく0に等しい。
しかし、休戦直後は人種の山脈を超えての侵攻にも備えるために武器や食料を備蓄する場所、要塞として山脈の麓に位置するザガ洞窟が利用された。
現在ではその機能は失われているがその要塞としても利用されていた堅牢さから小鬼と人食鬼の拠点として利用されている。
ザガ洞窟内部。
「ウオー、ウオー!!」
ゴブリンとオーガ達は祝杯をあげていた。その言動から知性はあまり感じることは出来ない。
戦利品として連れ帰られた夢魔は縄で縛られ一か所に集められていた。
ほとんどの者はリオン村からここまでの道を休憩なしで歩かされた疲れからか眠っている。
「野蛮人どもめ・・」
騒いでいる小鬼と人食鬼を睨みつけながらジルは呟いた。
このままこいつらの好き勝手にさせてなるものか・・。
捕らわれた者達全員で我らの故郷に帰るのだ!そのためにも隙をついて奴らの武器を奪う!
「ガガガ!一匹タノシモウゼ、、。」
そう言いながら何匹かの小鬼がジル達の方に向かい歩いてきた。
チャンスだ!
1匹の小鬼が寝ている夢魔の1人に手を伸ばしてきた瞬間、ジルは力の限りの体当たりを食らわした。
ゴガッ! 鈍い音と共に小鬼の意識はなくなる。
ジルはその小鬼が持っていた剣を縛られている手で掴むとすぐに縄を切る。
「ナ、ナンダ!!」
他の小鬼が自らの剣を構えるがそれよりも早くジルが動く。
シュッ!シュシュッ!シュ!!
目にも留まらぬ速さで空を切るジルの剣は小鬼たちに襲い掛かった。
一瞬にして残りの小鬼は切り伏せられた。
その音を聞き騒いでいた他の小鬼と人食鬼達は静まり返る。
しかしこちらに気づくと全員が武器を持ち雄たけびを上げながらジルに向かってくる。
ここからどうする??ここにいる敵は全部で20匹前後だ。ならこいつらを片付けるのは私一人でもたやすいだろう。
その後に皆を解放しこいつらの武器を手に一気に洞窟を抜けるしかない!
ジルは剣を強く握り直すと目の前の敵に対し突撃しようとした。
ドンッ!!! 強い衝撃がジルの腹部を襲う。
な、何がおこったんだ・・。ジルはその場に崩れ落ちた。
「ジル様!!!」
騒ぎに気付いた夢魔達が声を上げる。
「こいつらはニグル様のものだ!!今度勝手な真似をしたら潰すぞ」
突如現れた男はそう言うと小鬼を蹴り飛ばした。
いつの間に攻撃をされたんだ、まったく見えなかった。
ジルは薄れゆく意識の中で声の方向を見る。
(あれはまさか人鬼・・。なるほど知能の低い小鬼と人食鬼が何故大群で統率の取れた行動が取れていたのか不思議だった)
(人鬼が裏で操っていたのか・・。)
ジルの意識はここで途切れた。
ザガ洞窟入り口付近。
リオン村を出発して数時間。まだ夜明けまでにはかなり時間があるだろう。
洞窟の前には見張りと思われる小鬼が数匹立っている。
うーん、やっぱりこれは気づかれずに洞窟内に入るのは難しいか・・。
「どうかなさいましたか?」
夢魔の一人が優一に声をかける。
今話しかけてきた子の名はリーナだ。もう1人の名前はユーナといい双子で年は18歳らしい。
2人とも灰色に近い髪の色をしているのでワーグよりは魔力は低いのだろう。
双子というだけあって2人ともよく似ているがリーナの右目の下には泣きぼくろがあるので見分けるのはさほど困難ではない。
「いや、どう進入するか考えていたんだ。都合よく見張りが眠ってくれたらいいんだけどね」
「それでしたら広範囲で生物を眠らせる魔法を持っておりますので使用いたしましょうか?魔力をかなり消費するので一度しかつかえませんが・・。」
そんな魔法があるのか!さすがは精神魔法が得意な夢魔だ!
しかしかなり魔力を消費するならまだ温存しておくべきだろう。
「ありがとう。でも君たちにはいざという時のために魔力を温存しておいて欲しいんだ。俺はまだ魔法を使えないから頼りにしている。」
「は、はい!お任せください!!」
リーナは笑顔で答える。
か、可愛い・・。今更だがリーナとユーナはかなりの美形だ。まだ年相応に幼い顔つきだが体は出るところは出て締まるところは締まっている。村にいた人達も皆モデルのような容姿、体型だったので恐らく種族的なものなのだろう。
流石は夢魔!これが終わったらお礼にあんなことやこんなことを・・・
っと、いけない。話がそれてしまった。自重しなければいけないな・・。
話は戻るがここに向かう途中俺が魔法を使ったことがないことを2人に話した時はかなり驚かれた。
この見た目からしてかなりの魔法を使えると思っていたのだろう。
村に戻ったら当初の目的どうり魔法を教えてもらうことにしよう。
ガサガサッ!! 背後からした物音の方向を見ると偵察に出ていたワーグとユーナが帰ってきた。
「洞窟の内部がかなり慌ただしくなってきました。恐らく何かが起きたものと思われます。」
ワーグが優一に報告をする。
洞窟の入口に視線を戻すと見張りに立っていた小鬼達が慌てて洞窟の中に走っていく。
なるほど、確かに何かが起きたのだろう。今が洞窟に忍び込むチャンスだ!!
「このチャンスに洞窟名内部に侵入する!!」
『はっ!!!』
ワーグ、リーナ、ユーナは同時に返事をする。
慎重に洞窟の入口まで進むと大きな入口の中から争う声が聞こえてきた。
やはり何か起きているのは間違いないだろう。
急いでジルさん達を助けなければ!!
焦る気持ちを抑えながら優一達は小鬼の巣窟へと足を進めた。