5章ー6 内乱の始まり
ー数日後ー
「クソッ!! どうしてこうなった?!」
アッシュビ―は王宮で起こったことを思い出し、苛立ちを隠せないでいた。
万が一のために、アスティロン帝国から送られていた、ここカルマスト砦を転移先にした魔法紙を持っていたためあの場からは逃げることが出来た。
しかし父上の暗殺も失敗し、王位の簒奪にも失敗・・。
それもこれもあの魔族がこの国に来たからだ・・!!
「アッシュビ―様! 王宮の一件を聞きこちらに駆けつけた兵300名が砦に入る許可を求めてきています!」
アッシュビ―のいる部屋の扉が開くと、兵士が報告のために入ってくる。
「そうか。許可すると伝えよ。」
はっ!! その言葉に兵士は敬礼をすると走って部屋から出ていく。
兵士が出ていくとアッシュビ―は椅子に腰かけ、一度大きく息を吐いた。
いや、まだこれからだ・・。
魔族との同盟を快く思っていない者は多くいる。
王宮の一件が広まってからというもの、既に2000人を超える兵士がこちらに駆けつけた。
これはまだまだ増えるだろう・・。
かくなる上はアスティロン帝国とも連絡を取り、戦によって王位を奪う他ない!
「誰かおらぬか?!」
バンッ! アッシュビ―が声を上げると、兵士が部屋の中へと入ってきた。
「直ちに北方方面軍のダルタニアに連絡を取るのだ! 他にもこちらに味方すれば望み通りの褒美を約束すると各方面軍の将軍に伝えよ!」
「はい、直ちに!!」
兵士は敬礼をすると、魔通信を送るため通信室へと急いだ。
ダルタニアは幼少の頃より私の後見役。必ずこちらに味方するだろう・・。
他にも味方になる者もいるだろうが父上直属の中央軍は軍の4割を占めている。
まだこちらが数の上では不利・・。
「しかたない、か・・。」
アッシュビ―は引き出しの鍵を開けると、そこから水晶を取り出した。
「・・・私だ。」
魔力を込めると光り始めた水晶にアッシュビ―はしばらく話し続けた。
ー王宮内 玉座の間ー
「陛下! 各地で兵士達の脱走が相次いでおります!!」
ガードナーは玉座の間に入ってくると、報告書をバルトールに手渡した。
「そうか・・。やはりダルタニア率いる北方方面軍はアッシュビ―に付いたか。」
バルトールは報告書に目を通しながらため息をついた。
ダルタニア・・。確かアスティロン帝国に近い人だったよな・・。
優一は客将として作戦会議にも参加している。
「アッシュビ―は愚直な性格からか、一部の兵士達からの信頼は厚い。これからも脱走は増えるかもしれぬな。」
バルトールはそう言うと、小さく笑った。
「しかしそうなればこちらにとっても良いことではないのではないでしょうか?」
「その通りですが、彼我の戦力差は圧倒的です。たとえ北方方面軍や一部の兵士がアッシュビ―に付いたとしても負けることはありませんよ!」
優一の言葉にバルトールは笑いながら答えた。
確かに資料によると北方方面軍は3000人と書いてあった。アッシュビ―の元々の兵力と脱走兵が合わさっても7~8000人程度だろう。
こちらは中央軍だけでも1万を超えているらしい。数の上では負けることはないだろうけど・・。
「しかしお父様。問題はアスティロン帝国がどう動くかです。アッシュビ-お兄様は必ず援軍を求めるはずです!」
二人の話を聞いていたルミリアが口を開く。
「私もルミリア様に同感です。このような好機をアスティロン帝国が見逃すはずがありません。」
ルミリアの言葉にガードナーも同意する。
「お前達の懸念はもっともだ。しかし、アスティロン帝国との国境には精鋭の西方方面軍が守っておる。それにアスティロン帝国の動きは掴んでいる。」
パン、パン。バルトールが手を二回叩くと、一人の初老の男性が玉座の間へと入ってきた。
「あなたはマルネス議長?! お父様! 議長はアスティロン帝国と通じているのでは?!」
男性の顔を確認したルミリアは険しい表情でバルトールに対し、声を荒げる。
「落ち着けルミリア。マルネスは親アスティロン帝国派と言われているが、実際は私の命でその内情を調べてもらっている。そのためにも今までは王族と敵対しているように装っていたのだ。」
バルトールの言葉を聞いたマルネスはルミリアに頭を下げる。
「ルミリア様。アスティロン帝国に内通者と信用されるためには表立って王族の皆様と対立しなければならなかったのです。申し訳ございません。」
「そ、そうだったのか・・。いや、こちらこそ事情を知らなかったとはいえこれまで数々の失礼なことを・・。」
真相を知ったルミリアは申し訳なさそうに頭を下げた。
流石はバルトールさんだ。こういった強かさを俺も学ばないといけないな・・。
「バルトールさん。つまりはマルネス議長からアスティロン帝国の動きは知らされているということですね?」
「その通りですヴィンデル殿。マルネスからアスティロン帝国軍に動きがないことは確認済みです。であるならば短期の内にアッシュビ―を制圧する必要があります。」
「なのでで私達は直ちにカルマスト砦に出撃します。そこでぜひともヴィンデル殿のお力をお借り出来ないでしょうか??」
バルトールは立ち上がると優一の前まで進み、その手を取り頭を下げた。
「バルトールさん、頭を上げてください! 今回のことには少なからず私との同盟が関係しています。喜んで協力させていただきますよ。」
「ありがとうございます、ヴィンデル殿。」
バルトールは頭を上げると、優一を掴んでいる自らの手に更に力を込めた。
「それにヴィンデル様は将来私と結婚しますしね! お父様に恩を売っておくのは悪いことではないですよ!」
ルミリアは優一の腕に掴まるとバルトールの方を見ながら話す。
「何と!? そういう関係だったのか? これはヴィンデル殿、あなたも隅に置けませんな!!」
「しかし親の私が言うのも何ですが、ルミリアには苦労いたしますぞ??」
ハハハハッ! ルミリアの言葉にバルトールは豪快に笑いながら答える。
「お父様! 流石に怒りますよ?!」
ルミリアは頬を膨らませながらバルトールを睨みつけた。
「すまんすまん。しかしそうなるとヴィンデル殿にはお父さんと呼ばれることになるのか。おぉ、悪くないな!! これで孫の顔を見れるというものよ。」
バルトールさらに大きく笑い声を上げる。
おいおい・・。親なんだからそんな軽く決めるなよ・・。
それに結婚なんてする気ないぞ??
はぁ、ルミリアさんの自由奔放な性格は父親譲りだな。
「はぁ・・。ジルがいなくて良かった・・。」
優一はまた一つ増えた厄介ごとに頭を悩ませるのだった。
ー2日後ー
「陛下! 準備が整いました!!」
王都の城壁の外には1万を超える兵士達が隊列を組んでいる。
「そうか。ではこれよりカルマスト砦を占拠している反乱軍の討伐に出発する!!」
おぉぉぉー!! 黄金の鎧に身を包んだバルトールが剣を抜き、それを天に掲げると兵士達は声を上げ進軍を開始した。
「よし、それじゃあ俺達も行こうか。」
優一達も進軍に合わせて動き始める。
「ヴィンデル殿、やはり私が付いていくのは止めた方がいいのでは・・。」
その言葉に振り返ると、ランドが心配そうに優一を見つめていた。
「確かにあなたの正体がバレれば内通を疑われるかもしれません。でも私はランドさんを信じています。今回もしアスティロン帝国が出てくるようなことになれば内情をよく知る人の助言が必要になるかもしれません。あなたに自分の国を裏切れとは言いません。しかしそれでも助けていただけるというのであれば・・。」
優一の言葉にランドはしばらく考えた後答える。
「・・・・分かりました。まだお約束はできませんが、それでも良ければお供をさせていただきます。」
ランドはそう言うと、少し笑顔を浮かべながら頭を下げた。
アスティロン帝国にはまだ動きがないとバルトールさんは言っていたけどやっぱりこのままというのは考えられない。
これまでのことを考えても必ず何らかの動きがあるはずだ・・。
優一は進軍を開始しながらも一抹の不安を抱えていた。
大陸歴1204年、妖精族の国 アーリントン王国で歴史上初めて国を二分する内乱が始まった。
ー王都 救護棟ー
「・・・ここは?」
リリアンはベッドの上で目を覚ました。
一体ここはどこなんだ??
見る限りアスティロン帝国の建物ではないようだが・・。
「ぐっ・・。」
リリアンは体を起こしたが全身の痛みに表情を歪める。
くそ、体が重い・・。
そうだ、確か私は召喚獣の攻撃を背中に受けて・・。
「あ、気が付いたか?」
バタン。 部屋の扉が開くと一人の男性が入ってきた。
「あなたは妖精族か?」
「ああ。あんたが国境近くで召喚獣に追われていたのを俺達の部隊が助けたんだ。何週間も眠り続けていたんだぞ?」
リリアンの言葉に男性が答える。
何週間も?!
まずい、それでは姫様からの親書が・・。
「それは本当か!? くそ、今すぐバルトール様に会わなければ・・!」
ドンッ! リリアンは立ち上がろうとするがベッドから床へ崩れ落ちる。
「おい、無理をするな! あんたの身体は弱り切っているんだ。それに陛下は今王都にはおられない。アッシュビ―様が反乱を起こされてその鎮圧に向かわれているのだ。」
なんだと?!
アッシュビ―様が反乱? くそ、私が意識を失っている間になんということに・・。
「・・・では一体どうすればいいのだ。」
リリアンは現在の状況に大きく肩を落とした。
「陛下に何か用があるのか?」
「ああ。ここでは言えないが至急渡さなければならない物があるんだ。」
リリアンの言葉に男性はしばらく考えた後答える。
「・・・よし、そういうことなら俺に任せろ。すぐに部下に馬車の手配をさせる。」
「・・・いいのか!?」
「ああ、困っている奴は助けるのが俺の信条だからな。」
男性は驚いているリリアンに笑顔で答えた。
「じゃあ早速準備をすることにしよう。すぐに陛下達を追いかければ2日で追いつけるだろうからな。」
「本当にすまない! この恩は必ず。それとあなたは・・。」
「恩なんてやめろ。俺の名前はルーマスだ。」
ルーマスは笑いながら答えると、部屋を後にした。
「変な奴だな・・。」
リリアンはルーマスが部屋から出ていくと笑顔を浮かべた。
しかしこれで何とか間に合うかもしれない。
〔あれ〕が使用されればこの国に住んでいる妖精族は・・。
リリアンは最悪の事態を想像し、その顔からは一筋の汗が流れ落ちた。




