1章ー3 到着
ワーグと優一が夢魔の村を目指して出発してから5日が経過した。
このナルソンの森というのは俺が思っている以上に広大な森林らしい。
「ワーグ、あまり無理はするなよ?」
「お気遣いありがとうございます!しかし心配には及びません!」
ワーグはこの5日間、1日1回の休憩以外日が昇っている間はずっと優一を乗せて走っている。
上位魔狼の体力はどうやらとてつもないのかもしれない、これはこれからの移動にも何かと役に立ちそうだ。
しかし、そろそろつかないだろうか・・
この5日の間ワーグが捕ってくる動物や木の実などしか食べておらずちゃんとしたご飯を食べたくなってきたし、長時間ワーグに乗ってるのでお尻が痛い・・
そう考えていると徐々に森が開けてきた。
「そろそろ村に到着致します!」
ついに到着か・・
さて、着くのはいいが問題は俺たちはすんなり村に受け入れられるのだろうか。
この世界に転生してから初めての文明との接触だ、これからのことを考えると是非友好関係を築きたい。
そして。
森の中に開けた場所が現れた。
木製の柵が辺りをぐるりと囲み、その内に石造りの家屋がいくつも建っている。
また村の中心には辺りの木々とは比べられないような大木が一本、村を見守るように生えていた。
「到着致しました。ここが夢魔の村、リオン村です!」
優一はワーグの背中からおりる。
ワーグの話では夢魔は魔族の中でも魔力が高くかなり上位の魔族らしい。
精神魔法を得意とするらしいので注意が必要だろう。
「さあ、行こうか。」
優一はワーグにそう声をかけると村に向かって歩みを進めた。
村の入り口には武装をしている女性が二人立っている。
よく見るといくつかの家に所々燃えたような跡がある。何かあったのだろうか?
「おい!止まれ!上位魔狼が我らの村に何用だ!!」
こちらに気づいた二人が手に持つ槍をこちらに向け警戒を強めている。
やっぱりワーグは村の外に置いてきた方がよかっただろうか、、。
見た目明らかに悪役だもんな・・。
「槍を下げよ、無礼者どもが!今回は主がそなたらに用があるゆえこの村に赴いたのだ!我はこの村に危害を加えに来たのではない。」
ワーグの言葉を聞き、2人は少しの安堵の表情と共に警戒を緩める。
「して、その主とは・・?」
2人はこちらに視線を向ける。
これは挨拶をするべきだな。
「私の配下がご無礼を働き申し訳ありません。私は・・」
二人は優一の姿を見るや膝をつき頭を下げた。
「これは失礼致しました!まさかこの目で銀の髪を持つお方を見ることが出来るとは!」
はあ・・。またこれか。
どうやら俺の銀髪は想像以上に魔族には効果があるらしい。
「あ、頭を上げてください!それよりかなりの家屋に燃えたような跡がありますが何かあったのですか?」
二人は顔を上げ立ち上がるとこの村に起きたことを話し始めた。
「数日前このリオン村に小鬼と人食鬼が襲撃をかけてきたのです。1対1であればゴブリンもオーガも敵ではありませんが、奴らの数は膨大で多くの仲間が倒れました。」
なるほど。だから多くの家屋が燃えたのか。
「そして残った者たちを逃がすため我らの長であるジル様は1人で奴らと対峙しましたがついに力尽き捕らわれてしまいました。」
「なんと!あのジル殿が捕らわれたのか!」
ワーグが驚嘆の声を上げる。
「ワーグはその人のことを知っているのか?」
「はい。ジル殿は・・・」
ジルという人物は桁外れの魔力量を誇り、1人で100人を相手にしても負けることはない魔境では知らないものはいないとまで言われる人物らしい。
しかしそれだけの人物のいる村に襲撃をするものだろうか?
「なるほど。しかしなぜ小鬼と人食鬼は負ける可能性もある相手のいる村を襲ったんだろうか?もしかすると敵の多さからすると最初からジルさんを狙っていたんじゃ・・。」
すると夢魔の一人が口を開いた。
「恐らくはそうだと思います。夢魔から生まれる子はその魔力を強く受け継ぎます。小鬼や人食鬼は相手が魔族であれば子を作れるので魔力の強いジル様に子を産ませ高魔力を持つ仲間を作るのが目的だと思います。」
そういうことか。俺は別に聖人でもないがこういう話を聞くと胸糞が悪くなる。
「あの・・・」
ん・・?なんだ?
「いきなりこのようなことお願いするのはご無礼だとは承知しておりますが、どうかジル様をお助けしてはいただけないでしょうか?お礼はいかなるものも差し上げまする!」
二人はまた膝をつき優一に懇願する。
ええー・・。どうすればいいんだこれ。
いきなりこんなことを言われても答えれない。
ワーグに相談しようにもこちらに羨望の眼差しを向けている。そんな目で見ないでくれ・・。
それに魔力が強いと言われても俺自身は全く実感がない。
そんな状態で小鬼や人食鬼の大群と戦えるのだろうか。
しかしあんな話を聞かされては助けないわけにはいかないし・・。
くそ!ええいままよ!分かった、助ればいいんだろ!
「・・・分かりました。ジルさんお助けしましょう。」
サキュバスの2人は優一の答えを聞き喜びの涙を浮かべる。
こんな顔されたら断れないよな、うん。
「ではゴブリンとオーガのいる場所を教えていただけますか?先ほどの話だと一刻も早く助けたほうがよさそうだ。あと色々準備もしたいので」
「ありがとうございます!では村の中にご案内いたします。武器や食料も好きなだけお持ちください!」
面倒臭いことになったなあ・・。
優一は2人に促され村の中に入っていく。
その日の夜。
優一とワーグは話を聞いた多くの村人の見送りの中、村を後にしようとしていた。
「どうかジル様のことをよろしくお願いします!」
村人たちが優一に声をかける。
おいおい、そんなに期待しないでくれ・・。
優一は村で調達したフード付きのマントに身を包み、腰には剣を身に着けている。
剣なんか使ったことないけど無いよりはましだろう。
「それじゃあワーグ、行こうか。」
「は!どこへでもお供いたします。」
「我らもご迷惑にならぬよう精一杯励みます!」
最初に出会った2人は今回の救出に付いてくる。
食料などを持ってくれるのはありがたい。何しろワーグの食べる量はかなり、、いや引く程多い・・。
食料の量も必然的に多くなる。
優一は髪の色を隠すためフードを深く被るとワーグのお腹を軽く蹴る。
その合図と同時にワーグは一気に走り出す。よし、他の2人もきちんと付いてきているな。
優一とその一行はゴブリンとオーガの拠点となっているザガ洞窟へと向かうため漆黒の森の中へと消えていった。