4章ー9 侵攻の影
南洋国家連合との同盟が決まってから1週間が経過した。
「それでは、皆さんも賛成してくれるんですね?」
優一は魔通信の水晶でガルエンからの報告を受けていた。
「はい。南洋国家連合、妖精族、双方との同盟のこと会議の議題として話し合いましたが全員賛成とのことです。それに南洋国家連合が支援してくれるのは我々貧乏人からすればありがたいですしね!」
ガルエンは笑いながら答える。
これで正式に同盟の成立をザディアスさん達に伝えることが出来るな。
「ありがとうございます! では早速そのことを伝えに行ってきますね。」
優一が魔通信を切ろうとすると、ガルエンが少し待つように伝えてきた。
「ヴィンデル様。少しお伝えしたいことがあるのですが・・。」
なんだ・・? ガルエンさんの顔色が少し・・。
「なんでしょうか??」
「はい。同盟は我々にとっては嬉しいことです。しかし、ノルド平野を見張っているカッツ殿から少し気になる報告が入っておりまして。」
気になる報告か・・。 一体なんだ?
「気になる報告ですか?」
「ええ。なんでもノルド平野のアスティロン帝国側の兵がいなくなっているようなのです。単純に我らへの攻撃を諦めたとも取れますが、これまでのアスティロン帝国からはそれは考えにくい。」
「そうなると考えられるのは、新たな軍事行動を行うために兵士を動かした可能性があります。」
ガルエンはそこまで言うと口を閉ざした。
新たな軍事行動・・。俺達の同盟がアスティロン帝国に気づかれたのか?
いや、ザディアスさんは同盟のことは極僅かの者しかまだ知らないと言っていた。
そうなると、妖精族に対する攻撃・・。
「分かりました。ガルエンさん、こちらも少し動いてみます。そちらのことは任せっきりになってしまいますが、どうかよろしくお願いします。」
優一が頭を下げると、ガルエンはいつものように大きく笑う。
「ハハハッ! お任せください! ヴィンデル殿は無事にウード王国に無事戻ってもらえるだけで我々は嬉しいのです。それと何か土産でもあればより嬉しいですがね。」
「分かりました。ガルエンさんが食べたこともないような美味しいものを持って帰りますよ。」
「それでは、これで失礼しますね。」
優一は笑いながら答えると、魔通信を終了した。
ガルエンさんの報告はザディアスとルミリアさんに伝えた方がいいだろうな。
今から最高院に行ってみるか・・。
ドンッ、ドンッ! 扉を叩く音がした後、ジルが部屋に入ってきた。
「ヴィンデル様。先ほどルミリア様とザディアス様の使いの者が参りました。お部屋に通してもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。通してくれ。」
優一の言葉にジルは頭を下げると、部屋を後にする。
ガチャ。しばらくすると扉が開き、ジルの後ろからルミリア達が部屋に入ってきた。
「ルミリアさん。どうしたんですか? こんな朝早くに。」
「申し訳ありません。先ほどザディアス様の使いの者が私の元に参りまして、すぐに最高院まで来て欲しいと言われました。ヴィンデル様にも伝えに行くというので、こうして一緒に尋ねた次第です。」
ルミリアは頭を下げながら答える。
「そうなんですね。私も今から最高院に伺おうと思っていたので、すぐに準備をしますね。ジル、頼む。」
優一の言葉に、ジルは準備のため部屋を後にする。
ザディアスさんが急ぎの用・・。まさかガルエンさんが言っていたことか・・?
優一は一抹の不安を抱えながら、最高院へと急いだ。
─最高院 連合元首執務室─
「ザディアス様、お二人をお連れしました。」
優一とルミリアが使いの魚人の後ろから執務室に入る。
「ヴィンデル殿、ルミリア様。突然お呼びたてして申し訳ありません。どうぞおかけになってください。」
ザディアスの言葉で二人は部屋の中央にあるソファーへと腰かける。
「それで一体何があったのですか?」
優一の言葉にザディアスも椅子に腰かけると、答え始める。
「先ほどアスティロン帝国との間の海を監視している兵からこちらに大艦隊が向かってきていると報告がありました。恐らく我々の同盟が知られたものと思います。」
ザディアスの言葉にルミリアが勢いよく立ち上がる。
「そんな!! いくら何でも早すぎる!! まさか密告した者がいるのでは・・・。」
ルミリアの言葉にザディアスも頷く。
「私もその可能性が高いと思います。しかし、アスティロン帝国と既に対立しているあなた方から漏れるとは考えにくい。考えたくはありませんが南洋国家連合から漏れたと思うのが妥当でしょうね・・。」
ザディアスは目線を伏せる。
確かに俺達が密告するメリットはない。
そうなると同盟を知っているあの会議の場にいたザディアスさんを含める5人と一部の軍人の誰かが密告したと考えるのが普通か・・。
「ヴィンデル殿はあまり驚かれていないようですね。」
ザディアスが優一の表情を見て尋ねる。
「そんなことはありませんが、今朝、本国からアスティロン帝国が新たな軍事行動を起こす可能性があると報告を受けていたので・・。そのことで今日はザディアスさんの元を訪ねようと思っていたんです。」
南洋国家連合に攻めてくるというのは想定外だったけど・・。
「なるほど・・。ヴィンデル殿には優秀な配下が大勢いるようで羨ましいですな。」
ザディアスは笑いながら答える。
「しかしアスティロン帝国が攻めてくるというのでは、一刻も早く迎撃態勢を取らないと・・。」
ルミリアの言葉にザディアスはまた笑い声を上げる。
「確かにそうですが、我ら魚人が海戦で敗れるなどあり得ません! この国に攻めて来たことをアスティロン帝国に後悔させてやります!!」
ハハハハハッ! ガルエンの笑い声が部屋に響き渡る。
確かに魚人は海中では敵なしだろう。でもそれをアスティロン帝国が知らないはずがない・・。
何かある気がする・・・。
「ザディアスさん! 我々も微力ながらお手伝いさせていただきます!」
「わ、私達 妖精族もです!! この国には100人の兵士が駐留しています。少ないですがご加勢させていただきます!」
優一に続き、ルミリアもザディアスに申し出る。
「ありがとうございます。ぜひ協力をお願いする!」
ザディアスは2人に頭を下げると、部下に将軍達を呼ぶように伝えた。
その後3人に数人の将軍が加わり、アスティロン帝国迎撃の作戦案が練られていった。
─南洋国家連合 近海─
「良い眺めだな・・。」
アスティロン南方方面軍司令官 バイエル・ガードは目の前を埋め尽くす艦船を眺めながら呟いた。
これだけの大艦隊。帝国の歴史上でも初めてのものだろう・・。
そのような名誉な作戦の司令官に皇帝は私を指名してくれた。
その期待に応えねば・・!!
「将軍! いかがなさいましたか?」
副司令官のルイが尋ねる。
「いや、これほどの艦隊を見ていると我が帝国の強大さが身に染みてな・・。南洋国家連合が滅ぼされるのは自業自得だが、この大艦隊を敵にすると思うと、少し可愛そうにも思える・・。」
ハハハ・・。バイエルは少し笑いながら答えた。
「確かにそうですね。しかし我らは皇帝の命に従うだけです。」
ルイは表情を変えずに答える。
「お前は相変わらず真面目だな。しかしその通りだ。皇帝の期待に応え、敵を滅ぼす。サマルドの二の舞にならぬようにせねば・・。」
「ところで、私に何か用があったのでは?」
ルイが何の用もなく持ち場を離れるとは考えにくい・・。
「はい。先ほど南洋国家連合の偵察隊とみられる兵士を数人捕えました。何か情報を持っているかもしれませんので、司令官にご報告をと。」
ルイは姿勢を正すと、バイエルに報告をする。
「なんだと? あの魚人を捕らえたのか? 奴らは海中を自在に動き回る・・、一体どのようにして・・。」
「それは勝手ながら例の新兵器を試させていただきました。流石にこちらにも数隻の小型船に被害が出ましたが人的被害はなく、あれはかなり有効的な兵器と実証されました。」
ルイは独断で兵器を使用したことを謝罪すると、兵器使用の報告所をバイエルに手渡した。
「そうか。いや、お前が私益で行動するとは思わん。謝罪の必要はない。しかしここまでの成果が出るとは驚きだ。」
バイエルは報告書に目を通しながらルイに答えた。
「よし、では捕えた魚人を尋問するとしようか。」
バイエルは報告書をルイに返すと、魚人の元へ歩き始めた。
「ここか・・。」
ガチャ。先頭のルイが部屋の扉を開けると、数人の魚人がロープで拘束されていた。
これが魚人・・。直接見るのは初めてだな。
「お前達は南洋国家連合の兵士だと思うが、これだけの大軍で攻められれば南洋国家連合も終わりだろう。そこでだ。今のうちにこちらに寝返れ。そうすればお前達とその家族の命は保証しよう。」
バイエルの言葉に、魚人たちは笑みを浮かべる。
「そのようなこと信じると思うか? なんの通達もなく他国に攻め入るような奴らだ。それに我らを舐めると痛い目にあうぞ?」
魚人の一人が笑いながら答える。
「そうか・・。状況を見極めることもできないとは愚かだな。分かった、では望み通りにしてやろう。」
バイエルはそう言うと部屋から出ていく。
「将軍。あの者たちはいかがしますか?」
後に続くルイがバイエルに尋ねる。
「奴らの首は刎ねよ。その首は敵に見えるように掲げ、我らに歯向かえばどうなるか警告するのだ。」
その言葉にルイは頭を下げると、先ほどの部屋に戻っていった。
「将軍! 陸地が見えて参りました!」
しばらくすると一人の兵士が報告に現れ、バイエルは甲板に急ぐ。
「ついに到着したか・・・。よし、全軍攻撃準備!!」
おぉー! バイエルの言葉に兵士達は攻撃の準備を始める。
ここにアスティロン帝国と南洋国家連合との戦いが始まろうとしていた。




