4章-3 ノルド平野の戦い
今回は序章で書いていたものです。
少し変わっていますが、大目に見ていただけるとありがたいです(;^ω^)
「凄い数だな・・。」
優一はノルド平野を見渡せる丘の上に本陣を構えると、目の前のアスティロン軍の数に驚いていた。
敵はざっと見て6~7万ってところか・・。
こっちはほぼ全軍で来たがそれでも3万がやっとだ。
「ヴィンデル様!」
空から翼竜に乗ったウーデルトが降りてくる。
ウーデルトさんは竜騎兵隊を率いて先に戦場に向かっていたんだよな・・。
「ウーデルトさん。お疲れではありませんか?」
「いえいえ! 竜人はこの程度では疲れませんよ!」
ウーデルトは笑いながら答える。
「それにしてもすごい数ですね。こちらの倍はいるんじゃないですか?」
「そうですね。最初はもう少し少なかったのですが、2日前に岩窟族の援軍5000余りが到着致しました。あの右翼の部隊ですね。」
ウーデルトの指の先には、他とは違う美しく光る鎧に身を包んだ部隊が見えた。
岩窟族か・・。流石に綺麗な武具だな。
確か解放同盟には妖精族もいたと思うが来ていないか・・。
少し残念だな・・。
いや、こんな時に何考えているんだ俺。
「なるほど。確かアスティロン帝国は岩窟族にも服従を迫っているんですよね? なら今回もあまり戦意は高くないのではないでしょうか?」
「確かにそうかもしれませんね。しかし出来れば彼らを責めるのは避けたいものです。」
ウーデルトは少し笑いながら答える。
そうだよな・・。
彼らは関係ない、俺もできれば攻撃をするのを避けたいが・・。
「ヴィンデル様。そろそろ・・。」
ジルが優一を呼びに来る。
「そうだね。ウーデルトさんもどうぞ。」
優一達は振り返ると、後ろの天幕の中へと入っていった。
─アスティロン帝国軍 本陣─
「敵の数はおよそ3万! 我らの正面約3ギル(1km)の位置に陣を構えています!」
報告の兵士は頭を下げると、本陣から出ていく。
「3万か・・。数だけは集めたな。」
サマルドは目の前にある布陣図を見ながら呟く。
「しかしこちらは岩窟族と本国からの援軍を合わせると合計7万を超えています。ここは一気に魔族共を踏みつぶしましょう!!」
おぉぉぉぉ!! その言葉に本陣の中の戦意は一気に高揚する。
「先日も行ったが、敵を侮るのは禁物だ。パロ将軍はこの戦いどう見ますかな?」
サマルドの目線の先には岩窟族の司令官パロがいる。
「そうですな。敵には翼竜もおります。しかしこちらには航空戦力はない。これでは空から狙い撃ちにしろと言っているようなものです。」
パロは長い髭を触りながら答える。
「うむ・・、私も同じ考えだ。しかしそれは防御魔法を張れば何とかなるのではないか?」
「確かにそうですが翼竜の吐く火は強力です。持ちこたえれるかどうか・・。」
「我々の魔導士部隊は精鋭揃いです! 必ず期待に応えてくれるでしょう!」
二人の間に周りの兵士が口を挟む。
「確かにそうだ。パロ将軍もそれでよろしいか?」
兵士の言葉に気をよくしたサマルドはパロに目線を戻す。
「・・・サマルド将軍がお決めになったことに我々は従います。では準備にとりかかりたいのでこれにて。」
パロは頭を下げると足早に本陣を後にした。
あのような作戦、無駄に味方の命を増やすだけだ・・。
しかし我々にはアスティロン帝国に反抗するだけの力はない。
解放同盟と言えば聞こえはいいが実際はアスティロン帝国の属国のようなもの。
500年前の人種の繁栄を守るという理念はどこにいってしまったのか・・。
パロは自らの行く末を考えながら、岩窟族軍へと戻っていった。
「それでは作戦会議を始めます。」
ゴースは全員が揃ったのを確認すると口を開いた。
「敵の数は我らの2倍以上です。正面からぶつかれば敗れるかもしれません。そこで各個撃破を行いたいと思います。」
ゴースは優一の許可を求める。
なるほど。敵は4つに軍を分けている。その間は遠くはないが距離がある。その一つ一つを潰していこうってことか・・。
「確かにいい作戦だと思います。しかし各個撃破に手間取ると、こちらが包囲されませんか?」
優一の言葉にゴースは頷く。
「確かにその通りです。ですが少ない兵力で大軍を破るにはこれしかありません。」
リスクを取らないと成果は得られない、か・・。
会社でもよく言われたなー。
ゆとりの俺にはいまいち響かなかったけど。
「・・・分かりました! その作戦で行きましょう!!」
「ではカッツさんにはウーデルトさん達竜騎兵隊を含めた魔導士部隊の指揮をお願いします!」
「分かりました!」
「その他の部隊はゴースさんとモルグさんにそれぞれお願いします」
優一の言葉にゴースとモルグが頭を下げる。
「ではお願いします!!」
『はい!!』
返事をするとその場にいた者は本陣を後にし、それぞれの持ち場についていった。
ヒュゥゥゥゥ・・。両軍の間に冷たい風が吹き抜ける。
双方が相手の出方を警戒し、長い時間睨み合いが続いていた。
「動かないな・・。」
優一は本陣から戦場を眺めている。
ワァァァァ!! しびれを切らしたアスティロン軍の攻撃により戦端が開いた。
「来たぞ!! 竜騎兵隊、前進!!」
カッツの言葉で翼竜は飛び上がり、最初の目標である敵左翼へと進んでいく。
翼竜の背中には竜人だけでなく魔導士の姿もある。
恐らくカッツさんの策だろう。
「魔族共を滅ぼせ!!」
アスティロン軍は声を上げながら迫ってくる。
「竜騎兵隊、攻撃を開始せよ! 魔導士隊も各自攻撃を開始!」
カッツから魔通信で命令が入り、翼竜はアスティロン軍の頭上まで来ると一斉に火の雨を降らした。
ドオォォォン!! しかしそれはアスティロン軍の魔導士部隊が展開した防御魔法によって阻まれる。
「くそ、防御魔法か! 全員俺の合図で同時に火弾を放つんだ! いくぞ! 3,2,1、今だ!!」
合図と共に同時に放たれた火弾は一つの巨大な火の玉になり、アスティロン軍に襲い掛かる。
あれは俺やジル達の合わせ技みたいなものか! 流石はカッツさんだ。
ドンッ!! 防御魔法は攻撃に耐え切れず、砕け散り火の雨がアスティロン軍を襲う。
「今だ、全軍突撃!!」
混乱する左翼に対しゴース率いる本体がとどめを刺しにかかる。
シュッ!! ゴース達は次々と敵を切り倒していった。
「た、退却!!」
アスティロン軍はたまらず敵中央軍に向かい退却を開始した。
「深追いはするな! こちらも態勢を立て直す。」
ゴースの言葉で兵士達は追撃を止めると隊列を組みなおす。
「くそ! このまま奴らの好きにさせるな!!」
アスティロン軍の中央に布陣していた二つの軍がゴース達に迫る。
あれだと流石に数が違いすぎる。ここは俺も出るべきか・・?
優一が立ち上がろうとするとジルがそれを止めた。
「あちらをご覧ください。」
ジルの指さす先にはモルグ率いる半人馬を中心に獣人達で構成された部隊が敵の背後から迫っている。
これなら挟み撃ちに出来る! ゴースさん達はここまで作戦を練っていたのか。
「後ろからも敵だ!!」
「くそ、岩窟族は一体何をしているんだ!!」
アスティロン軍はモルグの部隊の登場で混乱にさらに拍車がかかる。
「お前達何をしている!! 矢を放て! 魔法で防御を張りながら攻撃するんだ!」
アスティロン軍はサマルドの言葉で少しずつ統率を取り戻し始めると、防御魔法の中から矢で攻撃を始めた。
「ぐあっ!!」
矢を受け、前衛の魔族が倒れていく。
「流石に混乱から立ち直り始めたか・・。」
被害が大きくなっていくのを見て、ゴースは部隊に一時後退を命じた。
「空の翼竜にも矢を放ち、動きが小さくなったところを魔法で撃ち落とせ!」
サマルドの言葉で矢による集中攻撃を受け魔法の範囲内まで誘い込まれた翼竜の何体かが撃ち落とされテいく。
「くそ・・。竜騎兵隊も一旦下がるんだ!」
カッツは後方でゴースと一度合流すると作戦を練り直し、追撃をしてくるアスティロン軍に再び攻撃を開始した。
「魔導士隊! 前方に火壁を発動させよ!」
魔導士隊はすぐにいくつもの火壁を発動させると、それらは合わさり巨大な炎の壁になった。
あれはもしかして・・・!!
「ヴィンデル様、技をお借りします!」
「獄炎鳥!!!」
カッツの拳から放たれた獄炎鳥は火壁の炎を巻き込むと巨大な火の鳥に姿を変えた。
「な、なんだあれは!!」
サマルドの額から迫りくる炎に冷や汗が流れ落ちる。
この私が恐れを抱いたというのか・・。
いや、そんなはずはない!
しかし先ほどの火の玉といい、こいつらの魔法はなんなんだ!!
「防御魔法を張るのだ!!」
魔導士達は慌てて防御魔法を使用したが、獄炎鳥はそれらを突き破ると、アスティロン軍に直撃、爆発を起こした。
「ぐあぁぁぁぁ・・!!」
アスティロン軍の叫び声が辺りに響き渡る。
シュゥゥゥ・・。炎が消えると多くの兵士が既に戦闘が出来なくなっていた。
「とどめだ!!」
そこにゴースとモルグ率いる本隊が突撃、アスティロン軍にとどめを刺しにかかった。
アスティロン軍も必死に防戦するが、1対1では人間には勝ち目はなく1人、また1人と倒れていく。
「報告!! 敵本隊はこちらの攻撃で壊滅、敗走を開始しました!!」
優一の元に兵士が報告にやってくる。
「ようやく終わったか・・。」
魔族を守るためとはいえ、一体何人の人が死んだんだろう・・。
いや、これも覚悟の上だ!!
優一が本陣から出ると、兵士達が声を上げている。
「ヴィンデル様万歳!」
「魔王様万歳! 魔族に栄光あれ!!」
その声に手を上げ答えた後、優一は後ろにいるジルへと向きを変えると、口を開いた。
「ジル。生き残っているアスティロン兵はすぐに手当てをしてやるんだ。こちらの兵と同じように・・。」
「それでよろしいのですか?」
ジルは何も言わない優一の顔をしばらく見つめた後、頭を下げその場から立ち去った。
大陸歴1203年、ノルド平野で起こったこの戦闘は、ウード王国側1200、アスティロン帝国側1万の死傷者を出し終結した。またアスティロン帝国側の捕虜は2万人を越えたことで、アスティロン帝国内では皇帝批判の動きが大きくなり、ノルド平野への再出兵は見送られることになった。




