1章ー2 考察
転生してから1日が経過した。ワーグからの情報によりこの世界の事は少しずつではあるが分かってきた。
まずこの世界はリーディア大陸という巨大大陸を中心に大小様々な島から成り立っているらしい。そしてここはリーディア大陸西部[魔境]と呼ばれる魔族が住む世界、その中でも特に魔力の高い魔族が多く住むナルソンの森と呼ばれる森林だという。はあ、転生するならもっと安全なところにしてくれよ・・
「魔境は魔族が住んでると言ったけど、魔境以外には住んでいないのか?」
今は配下に敬語はやめてくれというワーグの願いにより普通に喋ることにしている。
「はい。現在魔族は大陸中央にあるアスティロン帝国を中心とする人間、妖精族、岩窟族などの人種によって構成される解放同盟と今は休戦をしていますが偶発的な衝突も多く実質500年以上の戦争状態にあります。そのこともあって魔境以外にも魔族はおりますが人種による迫害、討伐の対象になっておりその数はごくわずかであると聞き及んでおります。」
やっぱり人種と魔族は仲が悪いのか、、ゲームやアニメそのままだな。
「どうして魔族と人種はそんなにいがみ合っているんだ?」
「それは500年前の魔王様が全ての魔族を率い人間に戦いを仕掛けたからです。その戦いにより多くの人間が殺される、あるいは食料として食われることになりました。」
げっ、魔族は人を食うのか・・・、それは確かに討伐されるよな・・。
「しかし窮地に陥った人間に妖精族、岩窟族などが加勢したことで魔族は徐々に劣勢になり、ついに人間の勇者ボルグド・アスティロンによって魔王様が打ち取られ魔族も魔境に追いやられました。」
そんな過去があったとは・・。あれ、ボルグド・アスティロンってことは、
「つまりアスティロン帝国って、、」
「はい。アスティロン帝国はボルグド・アスティロンが興した国です。今は子孫で17代皇帝ルード・アスティロンが帝位についております。アスティロン帝国は人間至上主義を掲げ、最近ではエルフやドワーフも支配下に入れようとしているとかで、、」
ワーグはそこまで言うと黙ってしまった。
なるほど。どこの世界にも差別や迫害はあるということか。
しかしそうなってくると俺は一体魔族と人種どっちなんだ?これは早めに確認しておかないとまずいことになりそうだ。
「なあワーグ、俺は魔族と人種どっちなんだ?」
こんな間抜けな質問もないだろうな。だがここには自らを見る鏡もなければ水もない。目の前のこいつに聞くしかないだろう。
「あなた様は魔族ではないのですか?その尻尾と銀の如く輝く髪を見て私は不敬にも襲い掛かったことを後悔致しました。」
「・・・・・・・」
ん???尻尾???銀髪???
こいつは何を言っているんだ?俺に尻尾なんかないんだけど。え、あるの??
恐る恐る腰に手を伸ばすと・・・。
ありました!!まごうことなき立派な尻尾が!!
はあ、、俺魔族に転生してしまったのか。これじゃ俺たち憧れのエルフとあんなことやこんなことができないじゃないか。
しかし、これで一層自分の姿が見てみたくなった。
「ワーグ、この辺りに水辺はないか?自分の姿が見てみたいんだ。」
「この近くには水辺はありませんがそういうことなら私があなた様を写す水面をつくりましょうぞ!」
いや、何言ってるんだこいつ・・。ついに頭がおかしくなったのか?
しかし、次の瞬間、、、
「我を守る壁となれ!水壁」
ワーグの足元が割れ大きな地響きとともに天高く水が噴き出し大きな水の壁を作り出した。
「どうぞ!鏡とまではいきませんが十分あなた様のお姿を写すことはできます!」
まさか魔法が使えるとは!この犬もしかしてかなり高位の魔物だったりするのか?、、
まあ今は自分の姿を確認するのが先だ。
「これが俺の姿か、、」
そこには見慣れた伊川優一の姿ではなく銀髪の青年が立っていた。
なるほど、年は17~8歳くらいだろうか、若く見える。顔つきも西洋に近い顔つきになっている、うん、悪くないな。問題の尻尾は意識すれば体内に引っ込めることが出来るのか、いったいどういう仕組みなんだ?気持ち悪いからそのままにしておこう。
「ありがとうワーグ。しかしこの世界には魔法があるんだな」
水壁の発動をやめたワーグが不思議そうにこちらを見つめる。
「何をおっしゃいますか!あなた様の魔力量なら通常魔法はおろか上位魔法、その上の極大魔法もたやすく使用できるでしょう」
ワーグは大声で笑っている。
「俺はそんなに魔力量が多いのか?」
「魔族の魔力量は髪の色に表れます。魔力量が多いほど銀に近くなり、低いほど黒に近くなります。私は完全な銀の髪を初めて見ました。」
だから髪が銀色だったことに驚いていたのか。納得だ。それなら白に近い毛をしているこいつもかなり魔力量が多いということか。
「ならこの髪はあまり人目にさらさない方がいいかもしれないな」
「いえ!魔族にとっては魔力は優劣を決める唯一の原理です!あなた様のお姿を見ただけで全ての魔族はひれ伏しましょう!」
いや、それが嫌なんだよ!人と接するの苦手だしそういう感じで来られるのが一番面倒くさいんだよ。インドア舐めんじゃねえ!
ここはもっともらしく言うことにしよう。
「俺は魔力量が絶対だとは思わない。だからそれだけで近寄る者を信用できないんだ。全ての者に得て不得手はあるし俺はそういうところを見極めていく。お前も配下になりたいなら俺の考えを分かって欲しい!」
「・・・・・・」
あれ?これ言っちゃまずかったのか?ワーグが何も喋らない。
「・・・ウ、ウ」
え・・・?
「私はあなたのような素晴らしい主にお使いすることが出来て幸せです!確かに魔力だけで優劣を決めるなど愚の骨頂!目が覚める思いです!私今感動の涙で前が見えません!」
泣いてただけかい!こいつ想像以上にちょろいのかもしれないな、、。
「わ、分かってくれたならいいんだよ。でもそうなると髪を隠せるものを探さないといけないな」
「それでしたらこの森の中に夢魔の村があったはずです。魔法も多く扱う種族なので魔法も習得してはいかがでしょう?」
おお!まさかここで夢魔が出てくるとは・・。
これはテンションが上がる!!
「そうだな、そうすることにしよう。ワーグそこまで案内頼めるか?」
「もちろんです!そこまでと言わずどこへでもあなた様を乗せて走りましょう!さあ、どうぞお乗りください!」
ワーグは姿勢を低くする。よし、ではお言葉に甘えることにしよう。
こ、これはなんて手触りがいいんだ!乗り心地も最高ではないか!今まで小バカにしてきてごめんな。
ワーグは俺を乗せると大きな雄たけびを一つすると一気に走り出した!
は、早い!自動車並みの速さではないだろうか。これならかなり早く到着するだろう。
いざ行かん!夢魔の村へ!!