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私の主は魔法使い  作者: 七島さなり
第一部 時女神の森と妖精の姫

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「この森は止まっているのです」


 目覚め草の薬湯によって目を覚ました姫君といくつかの言葉を交わした後、彼女は私を見据えてそう言いました。


 それで森を陣の形にしても問題のない理由がわかりました。


「この森は世界と隔絶されています。きっと、世界から外れた貴女を受け入れてくれるはずです」


 姫君の目は真剣です。


「神は貴女が世界にもたらす影響を気にしています。しかし、この森にいればその心配もありません。どうか、わたくし達と共にこの森で暮らしてはいただけませんか?」


 私は言葉に詰まりました。


 姫君が今にも泣き出しそうな顔でこちらを見ているからです。泣きそうで、切実で、私のことを真っ直ぐに見つめてくるのです。


 はっきりいってしまうと、私はその申し出を受けることは出来ません。


 ひかるさんの傍に居たいのです。


 私は自分と好きな人の命の選択を迫られたら迷わず後者を選べます。


 けれど見知らぬ誰か大勢と自分の命の選択をせまられたら迷わず自分を選べる人間です。


「ごめんなさい」


 私は姫君の小さな手を握りました。


 それ以外にも、ここに居られない理由があるのです。


「みことは、私が止めなきゃならないんです」


 姫君の目が僅かに見開かれました。


「彼女を止めない限り、私はこの森の中で隠居なんて出来ません。私の世界のためにも」


 ごめんなさい、と深く下げた頭をその細くしなやかな手に撫でられます。


「わかりました。そういうことなら、わたくしはあなたを応援いたします」


 そういった姫君の声は清々しく、そうなることはわかっていた、と言っているように感じました。


「彼女もまた、世界に大きな影響を与える存在です。彼女はもはや人の域を超えています。わたくし達ではもうどうすることも出来ません」


 悔しげに姫君は言いました。


「ねえ、わたくしの世界も、あなたに預けてよろしいでしょうか?」


 咄嗟に、私は答えられませんでした。


「任せろ」


 代わりにそう言ったのはひかるさんです。


「ありがとう、ございます」


 姫君はひかるさんを見て一瞬だけ驚いた顔をしてから、花のように顔を綻ばせました。


 その後、姫君達といくつか話をして別れの挨拶を済ませます。


 どうやら彼らはもっと森の奥へ身を隠すようです。


 ひかるさんはその護衛にエリネンスを起用しました。


「頼んだぞ」


「任された」


 姫君達を背に乗せてエリネンスは言います。


 これが終われば、エリネンスはまたみことを探すための旅に出るのでしょう。


「ごめんなさい、お姉さん」


「僕からもー、ごめんなさい」


 去り際に、こわがりさんとふくよかさんが仰りました。


「いえ」


 私は笑って首を横に振ります。


「また、会えますか?」


 聞くと、お二人はきょとんとした顔をしてから、


「当たり前、だよ」


「また会おうねー」


 と言ってくれました。


「……行くぞ」


 エリネンスが短く言い、高く舞い上がります。


 遥か彼方に登ったエリネンスから、何か光るものが落ちてきました。それをひかるさんが片手でキャッチします。


 それは、『妖精の涙』でした。


「これ……」


「タリス様に会うことが出来たら、貴女にかかった呪いを解く方法がわかるかもしれません!」


 空を見上げた私に姫様が言います。


「また、会いましょう!」


 私は遠くなっていく姿を見つめながら手を振ります。


 その姿が見えなくなってから私はそっと囁きました。


「……手がかりが掴めましたね」


「ん」


 しかしひかるさんはどこか上の空です。


 どうやら『妖精の涙』を見ているようです。


 そこでようやく二人になったということに気付き、私は若干の気まずさを覚えました。


 何せ、助けてもらってからお礼も謝罪もしていません。忘れてたわけではないのですが、言うタイミングを逃したというかなんというか。


「帰るか」


 と、突然ひかるさんが言います。


「っ、は、はい!」


 思わずびくっとしてしまいました。


 後ろを向いてどんどん先に進んでいってしまう背中を見つめます。どうやらあまり機嫌はよろしくないようです。


 一瞬迷いましたが私は小走りでひかるさんに追いついて、どんどん進んで行ってしまわないように服の裾を掴みました。


「あ?」


 突然掴んだからか、ひかるさんは不思議そうにこちらを見ます。


「あ、の」


 その目を見た途端に私の中でふくれた衝動がみるみる萎んでいくのがわかりました。


「どうした?」


 何から言おうとかと視線を彷徨わせていると、いらついた声が急かすように問いかけてきます。


 私はしばらく迷ってから、意を決して勢いよく顔を上げました。


「ご心配をおかけしてすいませんでした。助けてくださってありがとうございます!」


 勢いよく言うとひかるさんは呆気にとられたような顔で私を見下ろしてきました。


「あと、黙っていなくなってごめんなさい……。助けに来てくれて、すごく嬉しかったです」


 視線が痛くてだんだんとしどろもどろになってしまいましたが、言いたい事は全て言えました


 後はひかるさんに怒られるだけです。


「あー……」


 しかし、なぜか向きを直して唸り始めるひかるさん。今度は私が首を傾げる番でした。


「なあ」


 顔は逸らしたまま、ひかるさんは言います。


「はい?」


「今から俺の手が届かなくなる範囲に行くの禁止な」


「へ?」


 まさかひかるさんの口からそんな言葉が出るなんて。私は呆然としながらもう一度お願いします、という意味を込めてもう一度「へ?」と言いました。


「帰るぞ」


 しかし、ひかるさんは二度同じことを言う気はないらしく、そのまますたすたと歩き出してしまいます。


 その手は私の手をしっかりと握り締めていました。


 顔が熱くて堪りません。今だけはひかるさんが前を歩いてくれて良かったと心の底から思いました。


「あの、ひかるさん。もしあそこで私が残るって言ったら、ひかるさんどうしました?」


 照れ隠しに意地悪のつもりで聞いてみました。


「あ? 望みどおり置いてってやるよ」


 それは簡単にあしらわれてしまいます。


「え!? 酷いです!」


「冗談だ」


 私が慌てふためくのを見て、彼は楽しそうに笑いました。


 私の大好きな、太陽みたいな笑顔で。

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