在庫一掃セールの準備をします
「その通りです。競合店も見てきた上での判断ですが、アレク武器店は女性や普通の庶民が買い物を楽しめるお店を目指したらどうでしょう?」
「…なるほどのぅ。財布を握っているのはおなごじゃからなぁ」
「その方向から今の在庫を見直すと、どうしても置く余地のない商品がかなりあるんじゃないかなって」
「うむむ…確かに、職人に言われるままに買ったものもたくさんあるでな…」
なるほど、やはり武器は職人から直接仕入れているのか。
どう見ても工業化社会ではないから、武器が大量生産されているということはなさそうだと思っていた。
元の世界のような大量生産・大量消費の時代であれば、職人と店の間に、いわゆる「問屋」が介在する余地が出てくるが、今はまだそこまで産業が進んでいないということだ。
とすると、武器職人との関係も改善の余地がありそうだが、まずは店内整理が優先だ。
何事も同時並行にやると中途半端に終わりやすい。
人間の体は1つしかないのだから、「一意専心」でひとつひとつ丁寧に潰していくほうがいいだろう。
「あくまでど素人の俺の思いつきなので、アレクさんがいいなと思ったらやってみるってことで」
「…頼む、いや、頼みます」
深々と頭を下げられてしまい、俺はびっくりする。
「そんな頭を下げないでください。感謝するのは俺ですよ。雇ってもらえただけでもありがたいのに、生意気な意見まで聞いてもらっちゃって」
「いや、サコンよ。さっきも言ったが、あんたはワシにもう一度夢を与えてくれた。ワシもな、若い頃はこれでも頑張っておったんじゃ…店もそれなりに繁盛していたのだが。」
確かに、これだけの品揃えをまがりなりにも維持できているということは、かつてはかなりの売上があったはずだ。
店も自前のようだし、あれだけ閑古鳥が鳴いていても食っていけるだけの蓄えも作れたということだろう。
「じゃが…妻が逝ってから段々いろんなことが億劫になってしまってな。だから、色々と意見をもらって目が覚めた気がするよ」
「…わかりました。改めて、よろしくお願いします」
「こちらこそ、な」
俺とじいさんはがっしりと握手を交わした。
理解のある上司、やりがいのある仕事、これからさらに発展の余地がある業界。
これ以上、コンサルティングに適した状態があるだろうか!いや、ない。
許可を得たので、商品の分類に取りかかる前に、新しい配置の構想を練ってみる。
まずはお店の外だ。
ここは、店内に客を呼び込むための大事なディスプレイのひとつなので、売れ筋商品や目を引きそうな物を並べたい。
今日の売れ行きを見るに、庶民からの需要が高そうな短剣や、特価品などが良さそうだ。
次に、店の中。
店の構造は横長の長方形なので、真ん中に倉庫で眠っていた大きめの平台を置いてみる。
この台を中心に、お客さんがお店の中をぐるぐると回遊できる構造にすることで、滞在時間を長くできるはずだ。
もっとも注目を集めるこの中央の台は催事コーナーにして、その時々でテーマを決めて特集したり、新商品などを並べて、とにかく「来るたびに変わる」ようにする。
お店の運営で大切なことは、ほどよい「変化」を持たせることだ。
しょっちゅう変わりすぎても、それはそれでお客さんに居心地の悪さを与えることになる。
「いつものお店」という安心感と、「いつ行っても目新しい」というワクワク感の両立。
難しい課題だが、それでこそやりがいがあるというものだ。
並べる商品はじいさんとも相談し、比較的安定した需要が見込める長剣、短剣、短槍、長槍、短弓、長弓、斧の7種類に絞ることにした。
絞った上で現状の在庫を確認し、明らかに尖りすぎたデザインのもの、特殊性が強過ぎるものは割引特価品として一まとめにしていく。
逆に、大剣やポールアックスなど特殊な武器であっても、優れたデザインで人目を惹くものは、処分せずに「その他」コーナーに賑やかしとして置くことにする。
汎用性の高いものばかりの方が在庫リスクは低いが、そればかり追求しては店の楽しさが損なわれる。
その辺りのバランスの見極めは、今後の売れ行きも分析して長期的に行っていく必要があるだろう。