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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

孤独

作者: 遙夏

彼女はいつも独りだった。

何をしていても独りな彼女。けれど、みんな彼女に近づこうとはしなかった。

それは。

彼女がバケモノだから。世界を滅ぼすことだって簡単にできてしまうバケモノ。一体誰が好んで近づくだろう。

彼女がみんなの前に姿を現した時はみんな一斉にそそくさとその場を離れていく。彼女もそれを見て何も言わない。

きっと、察しているのだろう。

みんながなぜ逃げるのか。なぜ恐れているのか。なぜ独りなのか。

彼女は怒りもせず、表情を変えずに歩いていく。それはみんなに期待など抱いていないという気持ちの表れだった。

彼女は独りで寂しくはなかったのだろうか。

そんなはずはない。

彼女はとても寂しく、そして悲しかった。彼女はとても優しい心を持つ子でとても賢い子だった。

彼女はみんなが恐れている事をすぐに気づき自らみんなと距離をとった。

けれど、それはとても悲しい事だった。話す人はいない。周りには誰もいなかった。

何度泣いたことだろう。そんな彼女の涙さえみんなは知ることもない。

みんながどこかへ行ってしまえ、消えてしまえ、死んでしまえ。など思っている事は知っていた。だが、彼女はこの場所を離れる事はできなかった。

彼女がまだ幼い少女だった時、彼女にはまだ両親がいた。

働き者で顔も広かった両親はみんなに好かれていて、そして彼女に優しい良い両親だった。その時はまだ彼女もみんなから恐れられる事も、嫌われる事もなく、ただ普通の少女として暮らしていた。

しかし。

ある時、彼女の両親が本当は彼女を売るためだけに育てていたという事がわかった。優しく好かれていた両親は表の顔で、裏は性根の腐った人間達だった。彼女はいち早くその事に気づき、どうにかしようと試みた。

だが、みんなに言っても誰も信じようとしない。

ー…まさか。そんな事あるわけないじゃないか。喧嘩でもしたのかい?…ー

ー…あんなに優しい人達が?ありえないよ。何を言ってるんだい?…ー

この為に優しく、みんなに好かれるようにしていたのだ。

誰かが気づいた時のために。

みんなには頼れない。自分で何とかしなくては。

彼女は必死に考えた。自分が助かる方法を。

その日の夜、彼女は夢を見た。

ー…力を発揮するのです。あなたの秘められた力を…ー

そして、彼女はある武器をつくり出した。いとも簡単に。まるで、何度もそのようなものを作っているかのように。

その武器は彼女を守り、両親を死に追いやった。

彼女はそこまで望んでいなかった。その日、彼女は涙が枯れるほどに泣いた。

ただ彼女は両親が心から自分を愛してくれないか、自分が売られないようにしたかっただけなのに。

両親を殺したその日から、みんなは彼女を恐れ近づかないようになっていった。

それでも、そばにいてくれる者に彼女はその者の欲しいものを全てつくり、与えた。

彼女は何でも作る事ができる。それは世界を滅ぼすことさえできる古代兵器や核兵器まで。何でもつくれた。

そばにいた者も遂には彼女を徐々に恐れ始め、彼女は誰からも寄り付かれぬよう自ら距離を置き始めた。

そして、彼女は独りになった。

ただ自分を守るために行った行為が仇となり、彼女は今、独りだ。

一体何が間違っていたのか?

もし、彼女が全てを受け入れ両親に売られていれば、彼女はまだ幸せだったのだろうか。

一体彼女はどうすればよかったのか。

バケモノとも言える人間離れの能力を持つ彼女が悪いのか。

答えなんてきっとない。

けれど、唯一彼女の楽しかった思い出がある場所だから。

彼女はこの場所を離れられずにいる。

みんなが何と言おうと、彼女はここに居続けるのだろう。

孤独というのは徐々に身体を蝕んでいく。それは時間が経つごとに大きくなっていく。

そして、自分が何の為に生き、存在しているのか。それまでもよくわからなくなっていく。

誰かに必要とされたい。誰かに存在を認められたい。一度で良いから、誰かの目に映りたい。

そういった渇きが増していく。

彼女もそうだった。

彼女はその渇きを見て見ぬ振りをして、自分が渇きに気づかぬようにしていた。そのまま独りの時間を過ごし、遂に彼女は自分を見失っていた。

無意識に身体は存在を求めている。潤いを求めている。

しかし、彼女は自ら距離を置き皆はそのまま彼女の元へ近づく事さえしない。

彼女の心はもう戻れないほどに壊れてしまっていた。

なぜ、必要とされない?

なぜ、存在を認められない?

なぜ、渇きは収まらない?

どうすれば良い?

ソウカ、アイツラガイルカライケナインダ。

アイツラガシネバ、コノカワキハウルオウンダ。

そして、彼女は世界を滅ぼす兵器をつくりあげた。

サア、ミンナミンナコロシチャエ。

その答えに応じるように、兵器は皆を殺していった。

彼女は狂ったように高笑いし、血を求め、血を飲んだ。

血が潤いを与えてくれると思い込んで。

しかし、いくら血を飲んでも渇きは収まらない。飲んでも飲んでもただ渇きが増していくだけ。

彼女がまだ、普通の人だったら。

なぜ満たされないのかわかっただろう。血などで心が満たされるはずなんてない事に。

だが、彼女はもう壊れたバケモノだ。

なぜ満たされないのか不思議でたまらない。どうにかして満たしたかった。空っぽの壊れた心を。

彼女は叫んだ。誰にも届かない哀しい叫び声が世界に響き渡った。

もう、永遠に彼女が独りから解放される事はない。

彼女が、彼女の身体を着たバケモノが、心も人も皆。全てを壊してしまったから。

ほら、彼女の叫び声が聞こえた。哀しい哀しい叫び声。

きっと彼女は永遠に独りで叫び続けるのだろう。

そう、永遠に。

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