コスプレ祭
蓮達は、大人の花音に案内され、ジャックナイフのアジトである総本部に辿り着いた。
先程のスカイタワーより然程遠くない距離だ。
街は微睡んでいるのか、滅んでいるのかわからないくらい静かで、月明かりが水面に映る。
総本部の門には、数人の厳ついジャックナイフの一員が、警戒にあたっていた。
「正面突破は難しいぞ。裏口を探すんだ」
蓮は、その警戒に危険を感じ、花音達に戻り裏口を探すように促した。
蓮の判断は正しかった。
例えザコだろうど、体力が消耗した花音達では、さすがにキツいだろうし、攻撃力を維持するだけの妄想も足りないと踏んだからだ。
「あっちだ、あっちなら手緩いぞ。ちょっとその前に、皆の衣装を考えないとな……これが、最後になるかも知れない、妄想のリクエストに答えよう……」
蓮の言葉に花音達は、切ない気持ちに――――なるはずもなく、あれがいいとか、これがいいとか、終いには何にも関係ないガールズトークに発展した。
「あ、あの……君達?」
「ちょっとお兄様静かにしてよ。大体ね、お兄様はセンスがなさすぎ!」
――ガーーン――
ここに来て、突如毒を吐く大人の花音。
それに賛同するように、花音達も乗っかる。
「……でね、その子がね。……だったのよ」
「え~、意外~」
「見えな~い」
完全に蓮は、シャットアウトされ、蚊帳の外だ。
しょんぼりと、路肩に座り込み空を見上げた。
空なんて、見上げても星なんて見えないのに……。
「くそ~、敵は目の前だと言うのに……」
たまには、シリアスにいきたいと願う蓮ではあったが、それさえも出来なかった。
「いいよ、もう。お前ら好きにしろ! 俺はもう知らん」
花音達は、ようやく事態を把握し、蓮に駆け寄った。
「お兄様……ごめんなさい。私達をぶって……お願い……」
四人が四人とも、潤んだ瞳と、艶のある唇をプルンとさせ、蓮を誘惑した。
少しでも動けば唇と唇が触れてしまいそうな距離だ。
更には、四人の吐息が耳元を刺激する。
崩壊寸前だった。
「わかった、やればいいんだろ? んで、リクエストは?」
蓮は、吸えもしない煙草を加え込み、やり手のスカウトマンのような風貌をして見せた。
まず最初にリクエストを言ったのは、綾香だ。
「私は、スクール水着がいいですわ。シンプルだけど、飽きのこないデザインが素敵ですもの」
「スクール水着だな」
――さすが綾香ちゃんだ。男子のハートをしっかりキャッチしている。ふぬぬ――
綾香は寒空の下、季節外れのスクール水着姿になった。
僅かに食い込んだ水着は、現役の学生ならではのものだ。
蓮は、思わず『うん、うん』と首を縦に振った。
次に名乗りを上げたのは、舞だ。
舞が志願した衣装は、ゴスロリだ。
一部のマニアにしか受けないのではと懸念したが、これが意外とハマっていて、絶対領域から覗かず太ももは、何とも言えないエロさがあった。
「ファンタスティック!」
思わず蓮が声を張り上げてしまうほどだ。
そして、大人の花音。
彼女は、レースクイーンを選んだ。
こんな子が、本当にレースクイーンなら、レースどころじゃないだろうと言うくらいの、色っぽさだ。
そして……
花音はまだ決められないでいた。
「決めた。私は普通でいいの。やっぱり、制服でいいわ」
花音の切実な思いに、蓮は胸が傷んだ。
――そうだ、俺が妹を欲しいと願って、現れた花音が普段纏っていたのがこの制服。それこそが、俺の妄想の原点――
蓮は、目頭が熱くなると同時に、股間も熱くした。
「皆、ありがとう。よし、世界を救うんだ」
見張りの手薄だった裏口の階段から、蓮達は総本部内を目指した。