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プロローグ

 ――「フレン、ボクがこの小説『王太子殿下に婚約破棄されたので、華麗にざまあいたしますわ!』に出てくる、悪い王太子になったら、そのときはざまあしてくれる?」


 ――「はい。もしも、フリッツさまがこの小説に出てくるような王太子になったら、そのときはわたしが全力でざまあしますね!」

 


 フレンは、婚約者であるアーデル王国王太子フリッツとの、幼き日のやり取りを思い出していた。

 なぜなら、十八歳になったフリッツはパーティーの最中、フレンを呼びつけ、高らかにこう告げたからだ。


「リース公爵令嬢、フレン。お前との婚約を破棄する! お前と過ごす時間は、本当に退屈だったよ。とんだハズレ令嬢だった」


「でも、王家と公爵家の結びつきはどうなさるのですか? この婚約は、王家の地位を盤石にするために、陛下が決められたものと聞いております」


「そんなの、どうとでもなるさ。俺は、ここにいるマリガと、エスタ二人を正妃にしようと思っている。二人が力を合わせれば、フレン、お前なんかよりも、よっぽど優れた王太子妃になるだろう」



 ここは王宮の大広間、大勢の貴族たちがフレンとフリッツを遠巻きにしている。

 時刻は夜更けだが、天井からつる下がったシャンデリアと、無数の燭台によって、辺りは昼間のように明るい。


 季節は春真っ盛り、広間は温かいはずなのに、貴族たちの表情は凍えているかのようだ。


 金茶の髪に琥珀色の瞳を持つフリッツは、派手な赤いジャケットと、ズボンを身にまとっている。


 一部を残して、淡い栗色の髪を結い上げたフレンは、将来の王太子妃として身を慎むために、地味な紺色のドレスを着ていた。


 フリッツは、傍に五人の人物を従えている。いずれも悪い意味で、社交会で名高い者たちだ。

 貴族たちがつけた二つ名も含めて呼べば、こうなる。


 まずは、フリッツの両隣で得意げに胸を反らせている女性が二人。妖艶な「魅惑の蝶マリガ」と、可愛らしい「狙い系天然エスタ」だ。


 その横に立っている三人の男性は、「大酒飲みのアンガス」「ギャンブラーリオン」「女遊びのテオ」である。


 五人は、十七歳であるフレンよりも少しばかり年上だったはずだ。


 フリッツは、口の端を上げる。


「こいつらと過ごしているとな、俺は楽しくて仕方がないんだ。いずれ国王に即位しても、うまくいくに決まっている」


 ふむ、とフレンは考え込んだ。


 ――一人ひとりの評判はよくなくても、五人も仲間がいれば、協力し合って、フリッツさまはいい王太子になれるかもしれないわ。


「分かりました。では最後に、フリッツさまとの約束を果たしますね!」


「はあ? お前と約束なんてしたことがない。そもそも、婚約を破棄すれば、お前とはなんの関係もなくなるんだ」


 うんうん。フレンは頷いた。十年以上前の約束だ。フリッツが忘れていたとしても、無理はない。でも当時の彼に、フレンは頼まれたのだ。その願いは、叶えてあげなければ。


「あの日のフリッツさまのお望みを、わたしはちゃんと覚えていますよ。楽しみにしていてくださいね!」


 フレンは、フリッツと五人の仲間たちに向かって膝を落とし、カーテシーをした。


 フリッツに恋心を抱いていたわけではなかったが、彼とは十年以上婚約をしていたのだ。

 幼い頃は仲が良く、毎日のようにともに過ごした。寂しい気持ちがないわけではない。


 それでも、落ち込んでいる暇はなかった。


 ――フリッツさまの期待通りに、全力でざまあしてあげなくちゃ!


 兜をかぶった全身鎧の姿で、いつもフレンを見守ってくれる騎士に会釈をしつつ、フレンはパーティー会場をあとにしたのだった。


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