届くことのない手紙
僕から君へ書いた、
決して届くことのない手紙。
拝啓
初夏……と言うべきか、最近季節感のない、温暖化の影響なのかなんなのか、今年も早くに気温が上がったり、逆に急に下がったりと、体調を崩してしまいそうな日が続きますね。
ふと、この手紙を書こうと思ったのは、何故か君が夢に出てきたからです。出てきたと言っても、とてもとても前のことなので、顔は朧げだし、むしろ君は僕のことなんてとうの昔に忘れていることでしょう。そんな事なので突然の手紙で、何事かと驚くことはありません。
僕はあの頃はとても若かった。若いだけなら良かったですが、とても傲慢で、いや今でも決して褒められるような成長はしていませんが、あの頃は今よりも更に様々な事に対して、良くなかったと思います。
悪さをしていた、というわけではありませんが、どうしても若さゆえの過ちというか、年若くで結婚したこともあり、遊び足りないような、そういうこともあったと思います。
でも、君のことを思う気持ちや、大切に思う気持ちは、嘘偽りではなく。本当に心の底から愛していました。
君が公園を走りながらはしゃぐ姿や、ボール遊びをしている時、無邪気に笑う君に癒されていました。
一緒に電車に乗っている時も、僕はなんとなく誇らしげで。別に特別なことをしているわけではないのですが、君と一緒に電車に乗っているだけでも、嬉しかった。
最後のお別れの時に、君が言葉もなく泣いていたことが、これだけの年月が経った今でも覚えています。それはきっと、僕がいつまでも負い目を感じているからでしょう。
一番いいことは、君がすでに僕のことを綺麗さっぱり忘れていることです。やはり、いつまでも人を憎んで過ごすのは辛いと思うし、せっかくであれば、これからの人生を楽しんでほしいと思うからです。
例えば、その憎しみが生きる原動力になるのであればそれもまた良いかもしれませんが、だいたいが憎しみと言うのは連鎖してあまり良くないものを生み出してしまいます。
だから、どうか。こんな手紙を送りつけておいて、忘れていてくれたらと言うのもおかしな話ですが、僕のような人間がいたことさえも、できれば忘れていてくれたらと、切に願います。
僕が君に対して言える資格はないのかもしれないですが、これから大人になって、社会に出ていき、何かしら仕事をするようになったら。いや、もうすでにされているとは思いますが。これからも様々な分かれ道が、分岐点があり、その都度に選択を迫られる時がくると思います。
その時は、どうか君が望む道を歩んでいけますように。いや、望む道ではなかったとしても、君自身が君の考えで選ぶ道でありますように。
ほんの一言のつもりで書いた手紙でしたが、少し長くなってしまいました。
君と僕がこの先出会うことは、おそらく無いと思いますが。もし何処かでたまたますれ違った時は、そんな時は。君が前を向いて、意気揚々と歩いていることを願っています。
敬具
※フィクションです。




