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弱くて、臆病で、仲間に助けられながら紡ぐ最後の英雄譚  作者: だんご


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32/49

最後の英雄

一旦物語の前半部分の終了です 

ここまで見てくれた人ありがとうございます

これから見てくれる人は面白い作品を作るのでぜひブクマして、続きを待っていただけると嬉しいです



 バッシュの背中が、燃えていた。


 比喩ではなかった。英雄の身体から立ち昇る炎が、外套を焼き、肌の上を這い、髪の一本一本を赤く照らしている。それなのに焼けていない。服も肌も髪も、炎の中にありながら無傷だった。炎が主人を害することはない。バッシュの炎はバッシュの一部だった。


 ルシファーが六つの目でバッシュを見ている。


 さっきまでのアスに向けた目とは違った。虫を見る目ではない。認識している。脅威として。六つの瞳のうち三つが僅かに細まった。表情が変わった。初めて。大罪の悪魔の完成された美貌に、微かな警戒の影が差した。


 7英雄の力を知っている。かつて天にいた者として。あるいは——かつて英雄たちと戦った記憶として。


「立てるか」


 バッシュが背中越しに聞いた。振り返らない。目はルシファーに向けたまま。


「……立てます」


「ならそこにいろ」


 短い。いつものバッシュだった。必要なことだけを、必要な分だけ。


 バッシュが一歩踏み出した。


 地面が溶けた。


 足が石畳に触れた瞬間、接地面から放射状に熱が走り、石が赤く変色して液体になった。一歩の衝撃ではない。バッシュの存在が放つ熱量が、地面の耐久を超えている。英雄の身体とは、もうそういう次元にあるのだ。


 ルシファーの六枚の翼が広がった。黒い羽が扇状に展開し、その一枚一枚から闇の粒子が舞い散る。地面に落ちた粒子が、石畳を腐食させていく。二つの存在が生み出す破壊が、両側から通りを侵食していく。炎と闇。その間に立つアスの足元だけが、かろうじて元の石畳のまま残っていた。


 バッシュが右手を上げた。


 掌から炎が生まれた。ただの炎ではなかった。密度が桁違いだった。アスが全力で生み出す炎を百倍に圧縮したような、白熱する球体。空気が悲鳴を上げている。酸素が焼き尽くされ、球体の周囲に真空の層ができている。


 投げた。


 球体がルシファーに向かって飛んだ。音速を超えた。衝撃波が円錐状に広がり、通りの両側の建物の壁が吹き飛んだ。アスの身体が風圧で後方に押し戻される。


 ルシファーが片手を振った。


 闇が壁になった。球体が闇の壁に衝突し——爆発した。白熱の光が夜を昼に変えた。熱波が街を駆け抜け、三ブロック先の窓ガラスが全て砕け散った。


 煙が晴れた。ルシファーは立っていた。闇の壁は砕けていたが、本体は無傷だった。


 バッシュも立っていた。そして——笑っていた。


 笑っているのではない。口角が僅かに上がっただけだ。けれどこの男が戦闘中に表情を変えるのを、アスは初めて見た。


「消えないだろう」


 バッシュが呟いた。


 アスは意味がわからなかった。何が消えないのか。けれど次の瞬間、気づいた。ルシファーの闇の壁があった場所——砕けたはずの壁の残骸に、炎がまだ燃えていた。消えていない。バッシュの炎が、闇の壁の破片にこびりつくように燃え続けている。


 ルシファーも気づいた。六つの目のうち二つが、燃え続ける炎を見た。手を振った。闇の粒子が炎を覆おうとした。


 消えなかった。


 闇が炎を消せない。ルシファーの闇を被せても、バッシュの炎は燃え続けている。一度灯った火が、永遠に消えない。


 不撓不屈。


 これがバッシュのスキルだと、アスが理解するのはもう少し先のことだった。今はただ、消えない炎という現象だけが目に焼きついた。


 バッシュが二歩目を踏み出した。溶けた石畳が足元で波打つ。三歩目。四歩目。歩くたびに、周囲の空気の温度が上がっていく。十歩分の距離を詰めたとき、通りの両側の建物の木材が自然発火した。バッシュが近づくだけで、可燃物が耐えられなくなる。


 ルシファーが動いた。


 六枚の翼が一斉にはためき、闇の刃が六方向から同時に飛んだ。剣のような。槍のような。形を持たない闇が、鋭い切断力を持って空間を切り裂いていく。


 バッシュの身体が炎に包まれた。全身を覆う火の鎧。闇の刃が炎に触れた瞬間、蒸発した。蒸発、という表現が正しいかわからない。闇が炎に触れると、溶けるように消えていく。火が闇を焼いている。物理を超えた、属性の相克。


 バッシュが拳を握った。


 炎が拳に集中した。圧縮される。限界まで。限界を超えて。拳の周囲の空気が歪み、光が曲がっている。重力すら歪めるほどの熱量が、片手に集約されている。


 踏み込んだ。地面が爆ぜた。溶けた石畳が噴水のように飛び散り、バッシュの巨体が砲弾のようにルシファーに向かった。


 拳がルシファーの胸に触れた。


 世界が白くなった。


 爆発。衝撃。熱。音。全てが一瞬に凝縮されて弾けた。通りが消し飛んだ。百歩分の石畳が蒸発し、その下の土が溶けてガラス質に変わった。両側の建物が根元から吹き飛び、瓦礫が空高く舞い上がった。


 アスは吹き飛ばされていた。ロイドが咄嗟に身体を覆ってくれなければ、衝撃波だけで死んでいたかもしれない。二人で瓦礫の中に転がり、埃が晴れるのを待った。


 バッシュが立っていた。拳を突き出した姿勢のまま。


 ルシファーも立っていた。胸に拳の跡。黒い衣——闇の衣が、拳の周囲だけ焼け落ちている。露出した肌は白く、そこに——赤い痕がついていた。火傷。大罪の悪魔の肌に、火傷の痕。


 消えていなかった。バッシュの炎が、ルシファーの胸に灯り続けている。小さな火だった。けれど消えない。ルシファーが闇を被せても、手で払おうとしても、一度ついた炎は消えない。


 ルシファーの六つの目が全て開いた。六色の瞳が同時にバッシュを見た。


 怒り——ではなかった。もっと冷たいもの。理解。この人間の力の本質を理解した目。そして——排除の決定。


 ルシファーの両手が上がった。


 闇が集まった。周囲の空間から。地面から。空から。壊れた建物の影から。全ての闇がルシファーの掌に集束していく。密度が上がっていく。光が曲がる。空間が歪む。重力が乱れて瓦礫が浮かび上がる。


 放った。


 闇の奔流がバッシュに向かって叩きつけられた。通りの幅を超える巨大な闇の波。触れたものを侵食し、腐食させ、存在ごと消し去る力。


 バッシュが両手を広げた。


 炎の壁が立った。通りの幅いっぱいに。天まで届く巨大な火の壁。闇の奔流が炎の壁に衝突し、二つの力がぶつかり合った。闇が炎を食おうとする。炎が闇を焼こうとする。接触面から蒸気のようなものが噴き上がり、空が紫と赤に染まった。


 押し合いが始まった。


 バッシュの足が地面にめり込んでいく。踏ん張っている。炎の壁を維持しながら、闇の圧力に耐えている。巨体が押されている。一歩。二歩。バッシュが後退した。


 初めて見た。この男が押される場面を。


 闇の奔流が炎の壁を削っていく。炎が消えることはない。消えないが、薄くなっていく。ルシファーの出力がバッシュの出力を上回り始めている。一度出した炎の維持にコストはない。けれど新たな炎を生み出すための魔力は有限だ。バッシュの魔力が、ルシファーの底なしの闇に削られていく。


 押されている。英雄が。炎の英雄が。


 バッシュの顔を見た。歯を食いしばっている。額に血管が浮いている。全身の筋肉が膨れ上がり、足元の溶けた地面がさらに深く沈んでいく。


 アスの胸が締まった。あの背中が押されている。助けなければ。けれど——どうやって。あの次元の戦いに、自分が何を足せる。


「アス」


 バッシュの声が聞こえた。押されながら。闇の奔流に耐えながら。


 振り返りもしなかった。目はルシファーに向けたまま。けれど声だけがアスに向いていた。


「お前の炎を使う」


 意味がわからなかった。一瞬だけ。次の瞬間——バッシュの炎の一部がアスに向かって飛んだ。攻撃ではなかった。温かい光の粒が、アスの身体に触れた。


 剣に、何かが宿った。


 アスの炎が——変わった。


 手の中の剣に灯っていた橙色の炎が、内側から膨れ上がるように変質していく。色が深くなった。温度が上がった。けれどそれだけではない。炎の性質そのものが変わっている。密度が跳ね上がっている。アスの魔力では絶対に到達できない純度の炎が、剣の上で燃えている。


 バッシュの力がアスの炎に乗った。エンチャント。バッシュの不撓不屈が、アスの炎を強化している。一度かけた強化は維持にコストがかからない。つまり——永続する。


 身体の中が熱かった。炎が変わっただけではない。身体そのものが底上げされている。筋肉の出力が上がっている。反射速度が上がっている。魔力の流れが滑らかになっている。バッシュのエンチャントが炎だけでなく、身体全体を強化している。


 そしてその強化と——ナイトブロウが、融合し始めていた。


 守りたいという意志が、強化された炎と混じり合っていく。白銀の光が橙色の炎の芯に溶け込み、両方の性質を併せ持つ新しい光が生まれていく。今まで感じたことのない力が、手の中で脈打っている。


「来い」


 バッシュが言った。背中越しに。まだ闇の奔流に耐えている。壁が薄くなっていく。もう長くは持たない。


「お前の一撃で隙を作れ。俺がそこに全部叩き込む」


 全部。その言葉の意味がわかった。バッシュは——残りの全てをこの一戦に使い切るつもりだ。


「行きます」


 アスが走った。


 炎の壁の横を駆け抜け、闇の奔流の外側を回り込む。バッシュが正面で耐えている間に、側面から。


 ルシファーが気づいた。六つの目のうち二つがアスに向いた。片手が上がり、闇の刃がアスに向かって飛んだ。


 避けなかった。剣で受けた。強化された炎がバッシュの力を帯びて、闇の刃を焼き消した。さっきまで一切通じなかった攻撃が——通った。エンチャントが、次元を一つ上げていた。


 ルシファーの虚空の目が動いた。認識が変わっている。さっきまでの塵ではない。何かが変わったと、あの存在が判断した。


 アスが踏み込んだ。


 全力で。強化された炎とナイトブロウが融合した力の全てを、剣に乗せて。守りたいという意志が、今この瞬間に在る。仲間が。街が。あの子供が。逃げ遅れた人たちが。全部が手のひらの中にあって、全部を守るためにこの一撃がある。


 白銀と橙の混じった光が、剣から溢れた。


 ルシファーの胸に——直撃した。


 さっきナイトブロウが「触れた」場所。バッシュの拳が火傷を刻んだ場所。同じ場所に、強化された一撃が叩き込まれた。


 ルシファーの身体が——揺れた。


 大罪の悪魔が、体勢を崩した。


 一歩、後退した。


 アスの一撃で。


 六つの目が全て見開かれた。驚きではない。もっと根源的な反応。痛み。この存在が、痛みを感じた。


 ルシファーの闇の奔流が——一瞬だけ、途切れた。


「——今だ」


 バッシュの声が轟いた。


 炎の壁が弾けた。維持を止めたのではない。壁を構成していた全ての炎を、攻撃に転換した。守りを全て捨てた。


 バッシュの両手が天を向いた。


 空を見上げた。


 空に——何かが生まれていた。


 赤い光点。最初は星のように小さかった。それが急速に膨れ上がっていく。熱が上空から降り注ぎ始めた。空気が焦げる匂いがした。光点が球体になり、球体が巨大化していく。雲を突き抜けて。空を覆い尽くして。


 隕石だった。


 炎で編まれた隕石。空の半分を覆うほどの巨大な火球が、ルシファーに向かって落ちてくる。バッシュが生み出した全ての炎——炎の壁も、身体を覆っていた火の鎧も、エンチャントの余剰分も、残りの魔力の一滴に至るまで。全部を注ぎ込んだ最後の一撃。


 維持にコストがかからないスキル。一度生み出した炎は消えない。バッシュがこれまでの戦闘で生み出した全ての炎——消えずに残り続けていた全ての火が、空の一点に集約され、一つの巨大な塊になっている。


 ルシファーが上を見た。六つの目が隕石を捉えた。


 両手を上げた。闇を集めようとした。防ごうとした。


 遅かった。アスの一撃で体勢を崩した一瞬が致命的だった。闇が集まりきる前に——


 隕石が落ちた。


 音が消えた。


 光が全てを呑み込んだ。赤い光。白い光。街の全てが一瞬だけ昼よりも明るくなり、影が消え、色が消え、世界が白に染まった。


 衝撃波が来た。音の壁を超えた轟音が遅れてやってきて、街全体を揺さぶった。立っている者は一人もいなかった。全員が地面に叩きつけられた。


 光が薄れていく。


 白が消えていく。


 赤い残光の中に、焦土が広がっていた。ルシファーが立っていた場所を中心に、半径二百歩の円形の焦土。石畳が蒸発し、地面がガラス質に変わり、建物の残骸すら灰になっている。


 その中心に——ルシファーが立っていた。


 立っていた。まだ。


 けれど——崩れかけていた。


 六枚の翼のうち四枚が焼け落ちていた。黒い羽が灰になって散っていく。残った二枚も炎に侵されている。バッシュの炎。消えない炎。大罪の悪魔の翼の上で、まだ燃えている。


 白い肌が焼けていた。完成された美貌が崩れていた。六つの目のうち三つが光を失っている。残った三つの瞳——金と赤と虚空が、バッシュを見ていた。


 ルシファーの口が開いた。何かを言おうとした。言葉にならなかった。声の代わりに、黒い粒子が口から溢れた。存在が崩壊し始めている。


 膝が折れた。


 大罪の悪魔が、膝をついた。


 残った翼が散った。炎に焼かれて、灰になって、闇の中に消えていった。六つの目が一つずつ閉じていく。金が消え。赤が消え。最後に残った虚空の瞳が——何かを映した。何を見ていたのかは、誰にもわからなかった。


 ルシファーの身体が光に変わった。堕天使が消えるときと同じだった。内側から崩壊し、光の粒になって散っていく。けれど堕天使のときの白い光ではなかった。黒い光。闇が光になって散る。矛盾した現象。けれどそれが、この存在の最期の形だった。


 最後の粒子が消えた。


 焦土の中心に、何もなくなった。


 静寂が降りた。街全体を覆う、重い静寂。遠くで戦っていた堕天使たちの気配が——揺らいだ。主を失った配下が動揺している。英雄たちの光が勢いを増していく。


 ルシファーが消えた。


 大罪の悪魔が、一体。この世界から消えた。


        *


 バッシュが立っていた。


 焦土の端。溶けた地面の上。両手を下ろし、前を向いたまま。


 炎が消えていた。あれほど燃え盛っていた炎が、一片も残っていない。バッシュの身体から、熱が消えている。英雄の存在が放っていた圧倒的な熱量が、空っぽになっていた。


 全部を使い切ったのだ。


 バッシュの膝が震えた。揺れた。大きな身体が前に傾き——膝をついた。


 アスが走った。駆け寄って、崩れかけるバッシュの身体を支えた。重かった。巨体が全体重をかけてアスの肩に乗った。支えきれない。けれど手を離さなかった。


「バッシュさん——」


「……大丈夫だ」


 大丈夫ではなかった。声が掠れている。呼吸が浅い。目の焦点が合っていない。魔力を全て使い切った反動が、身体を蝕んでいる。


 バッシュの手が上がった。アスの肩を掴もうとして——途中で力が抜けた。腕が垂れ下がった。


「座らせてくれ」


 アスがゆっくりとバッシュを地面に下ろした。焦土の縁の、まだ石畳が残っている場所に。バッシュの大きな身体が壁にもたれかかった。


 目が合った。


 バッシュの茶色い瞳が、アスを見ていた。焦点が戻っている。最後の力で、こちらを見ている。


「アリアドネから聞いていた」


 声が小さかった。バッシュの声が、こんなに小さいのを聞いたのは初めてだった。あの大きな身体から出る声が、今は囁きほどしかない。


「最後の英雄が現れると」


 最後の英雄。


 その言葉が、アスの胸に落ちた。意味がわからなかった。最後の英雄。誰のことだ。


「自分の目で見極めたかった」


 バッシュの目がアスを捉えていた。値踏みの目ではなかった。もうそんな段階はとうに過ぎている。確認の目だった。何かを確かめ終えた目。


 少し間を置いた。呼吸が一つ分。


「本物だった」


 それだけだった。


 アスは言葉を失った。


 本物。何が。自分が。最後の英雄が。何のことかわからない。わからないのに、バッシュの声の温度だけが胸に残った。あの寡黙な男が、最後の力で伝えようとした言葉。冗談でも追従でもない。バッシュは嘘をつかない。事実しか言わない。その男が、「本物だった」と。


「バッシュさん——まだ——」


「もう動けん」


 淡々としていた。自分の身体の状態を、事実として述べている。


「ルシファーは消えた。堕天使たちも長くは持たない。あとは——」


 言葉が途切れた。バッシュの目が閉じかけた。踏みとどまった。もう一度開いた。


「お前に、任せる」


 目が閉じた。


 呼吸は続いていた。浅く、微かに、けれど確かに。死んではいない。けれど戦える状態ではなかった。魔力の枯渇。身体の限界。英雄としての力を全て絞り出した代償が、この男を戦場から退場させた。


 アスはバッシュの横に座ったまま、動けなかった。


 大きな身体が壁にもたれている。あれほどの力を持っていた男が、今は呼吸をするのがやっとだ。全部を使い切った。ルシファーを倒すために。この街を守るために。


 最後の英雄。


 その言葉が、頭の中で反響していた。アリアドネから聞いていた。アリアドネが——バッシュに話していた。最後の英雄が現れると。


 自分のことなのか。わからなかった。わからないけれど、バッシュは自分の目で見て「本物だった」と言った。それだけが確かだった。


 アスは立ち上がった。


 膝が震えていた。エンチャントの効果はまだ残っている。バッシュの炎が剣の上でまだ燃えている。消えない炎。一度灯ったら消えない。バッシュが戦線を離脱しても、この炎は残る。最後の贈り物のように。


 遠くで光が見えた。英雄たちの光が堕天使たちを押し返している。サマエルの翼が散り始めている。アザゼルの鎖が砕けている。ムルムルの獅子が崩れていく。ルシファーが消えたことで、堕天使たちの力の源が絶たれたのだ。


 退き始めていた。堕天使たちが。裂け目の向こうに。


 終わりが見えた。


 アスは剣を握った。バッシュの炎が灯った剣を。消えない光を。


 「最後の英雄」。


 その意味はまだわからない。けれど今日、一つだけわかったことがある。自分の一撃が、ルシファーの体勢を崩した。バッシュの隕石を通すための隙を作ったのは、自分だった。英雄には届かない。堕天使にすら及ばない。それでも——必要とされた。この戦いの中で。


 バッシュの寝息が聞こえた。眠っている。戦い終えた男が、焦土の縁で眠っている。


 アスはその横に立ち、剣を握ったまま、空を見上げた。


 赤かった空が、少しずつ青を取り戻し始めていた。


おもろいよ

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