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弱くて、臆病で、仲間に助けられながら紡ぐ最後の英雄譚  作者: だんご


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25/43

黒い翼



 闇が濃くなっていた。


 灯りの範囲が狭まっている。さっきまで十歩先まで照らせていた光が、今は五歩で消える。空気が粘つき、呼吸のたびに舌の奥に鉄の味が残る。四人の足音すら吸い込まれて、自分が進んでいるのか止まっているのかわからなくなる。


 ロイドの足が速くなっていた。


 最初は四人の中で最も慎重に歩いていた男が、今は先頭を引き離すように進んでいる。獣人の耳が立ち、鼻先が空気を裂いている。匂いを追っている。何年も追い続けてきた匂いを。金色の瞳が闇の中で光り、その光自体がこの暗闇に抗っているように見えた。


「ロイドさん、速い——」


 アテネの声が掠れた。4層の空気は後衛にとって特に厳しい。魔力の密度が高すぎて、自分の魔力との境界が曖昧になる。腕輪が不規則に明滅していた。


「ロイド」


 アスが呼んだ。ロイドの足が——止まらなかった。聞こえているはずだ。聞こえていて、止まれない。追っているものが近い。何年分もの執念が、この男の足を押している。


「ロイド」


 もう一度。今度は強く。


 ロイドが足を緩めた。振り返りはしなかった。けれど歩幅が縮まり、三人が追いつく余地ができた。


 四人が並んだ。ミルが聴音器を外し、素の耳で前方の気配を探っている。クロから借りた聴音器は4層では完全に無力だった。代わりにミルは空気の流れを読んでいた。闇の中で何かが動けば、空気が歪む。その歪みを肌で感じ取る。アリアドネの「見えないものを読む訓練」の、最も過酷な実践。


「近い。百歩以内にいる」


 ミルが言った。声が低い。確信がある声だった。


 六十歩。五十歩。四十歩。


 足元の感触が変わった。柔らかい苔が消え、硬い何かに変わった。石ではない。骨だった。砕けた骨の破片が地面に散らばっている。何の骨かはわからない。悪魔のものか、かつてここに来た人間のものか。


 三十歩。二十歩。


 そこに、いた。


 闇の中に、闇とは別のものが立っていた。


 人の形をしていた。背丈はロイドと同じくらい。細身の体躯に、長い腕。顔は——人間の顔だった。整った造形。端正と言ってもいい顔立ち。けれど目が違った。瞳の色が白濁し、光を反射しない。見ているのに見ていない目。生きているのに死んでいる目。


 背中に翼があった。


 白かったのだろう。かつては。今は黒く腐食し、羽の一枚一枚が罅割れて、崩れかけている。折れ曲がった翼が背中から垂れ下がり、先端が地面を擦っていた。かつて空を飛んだであろうその翼は、もう飛べない形をしていた。


 堕天使。


 その存在が放つ圧は、3層で遠くから感じたものとは比較にならなかった。空気が歪んでいた。堕天使を中心に、半径数歩の空間が微かに揺らいでいる。重力すら曲げるような密度。立っているだけで、四人の全身に見えない手が押しつけられていた。


 通常の悪魔とは全く違った。悪魔は獣だ。知性はあっても、それは捕食者の知性だった。目の前の存在は違う。こちらを見ている目に、理解がある。四人が何者で、何を目的としてここに来たのか。それを把握した上で、見ている。


 アスは息を呑んだ。隣でアテネの呼吸が止まった。ミルの指先が震えていた。


 ロイドだけが、前に出た。


 一歩。二歩。三人より前に。大剣は抜いていない。拳が握られていた。全身の筋肉が浮き出るほどに。前腕が震えている。怒りだと思った。最初は。けれど違った。震えの質が違う。怒りだけなら、もっと鋭い震え方をする。ロイドの震えには——悲しみが混じっていた。


 長い時間を追い続けてきた相手が、目の前にいる。家族を奪った存在が。村を壊した存在が。それを見つけた瞬間に湧くのは、純粋な怒りではなかった。もっと複雑で、もっと深い。失ったものの重さが、全部ここに集まっている。


 堕天使が口を開いた。


「——久しいな、ロイド」


 声があった。


 それだけで四人が凍りついた。言葉を話す。悪魔の咆哮ではなく、人間の言語を。しかもロイドの名前を知っている。呼んでいる。馴れ馴れしいほど自然に。


 声は低く、滑らかだった。人間の声に近い。近いからこそ不気味だった。あの白濁した目から発せられる声が、人間の温度を持っている。


「大きくなった。あの日の子供が、よくここまで来た」


 あの日。


 ロイドの拳が白くなった。


「お前が村を焼いた日のことか」


 ロイドの声は静かだった。震えてはいなかった。拳は震えているのに、声だけが平坦だった。長い年月をかけてこの瞬間のために整えてきた声。感情を乗せたら崩れるとわかっているから、押し殺している。


「焼いた、か。そう見えたのだな」


 堕天使が首を僅かに傾げた。人間のような仕草。人間だった頃の名残が、身体に染みついている。


「私がかつてあの村を守っていたことを、お前は知らないのか」


 空気が止まった。


 守っていた。この存在が。ロイドの村を。


「……何を言っている」


「言葉の通りだ。私はかつて人の側にいた。あの村の近くの森に住み、悪魔を退け、人々を見守っていた。お前が生まれるよりずっと前の話だ」


 ロイドの目が揺れた。金色の瞳に、初めて困惑の色が浮かんだ。


「嘘をつくな」


「嘘は言わない。嘘をつく理由がない。私はかつて守る側にいた。そしてルシファーに堕とされた。意志ではない。力によって。守る者が壊す者に変えられた。それだけの話だ」


 堕天使の声に感情はなかった。けれどそこに——諦念があった。とうに受け入れた現実を、淡々と語る者の声。


「お前の家族を殺したのは私だ。それは事実だ。だが選択ではない」


「選択じゃないだと」


 ロイドの声が、初めて割れた。


「選択じゃないなら何だ。父は。母は。弟は。隣の家の子供たちは——お前の『選択じゃない』で死んだのか」


 声が震えていた。もう押し殺せなかった。何年分もの感情が、罅割れた声から溢れ出している。


 堕天使は黙った。白濁した目がロイドを見ている。答えなかった。答えないことが、答えだった。


「——お前を終わらせる」


 ロイドが言った。短く。低く。その一語に、全部を込めた。怒りも悲しみも、失ったものへの痛みも、追い続けた年月の重さも。全部をその一語に詰め込んで、吐き出した。


 大剣を抜いた。金属が擦れる音が、音のない空間に響いた。


        *


 ロイドが踏み込んだ。


 速かった。これまで見たロイドの動きの中で、最も速い。獣人の脚力が全開で地面を蹴り、大剣が弧を描いて堕天使の胴を薙ぐ。


 堕天使が片手を上げた。


 大剣が止まった。刃が堕天使の掌に触れ——動かなくなった。受け止めたのではない。止めたのだ。片手で。ロイドの全力の一撃を、片手の掌で。


 衝撃波が走った。風圧がアスたちを叩き、地面の骨片が吹き飛んだ。ロイドの腕が軋む。全力で押し込もうとしている。押し込めない。


 堕天使が手首を捻った。大剣の軌道がずれ、ロイドの体勢が崩れた。その隙に堕天使の反対の手が伸び、ロイドの胸を掌で押した。軽い動作だった。押した、というより触れただけに見えた。


 ロイドの身体が吹き飛んだ。


 三歩ではなかった。十歩以上。大きな身体が宙を舞い、地面に叩きつけられ、骨片を巻き上げて滑った。


「ロイド!」


 アスが叫んだ。駆け寄ろうとして——堕天使の目がこちらに向いた。白濁した瞳が、アスを捉えた。


 足が止まった。本能が止めた。あの目に見られた瞬間、身体が勝手に硬直する。3層で遠くから感じたものとは次元が違う。至近距離で受ける堕天使の圧は、呼吸すら奪った。


「——来い」


 ロイドの声が聞こえた。地面に倒れたまま、すでに起き上がっている。大剣を地面に突き立て、身体を引き起こしている。口の端から血が伝っていた。


「俺だけを見ろ」


 堕天使の視線がロイドに戻った。ロイドが再び踏み込む。大剣を振り上げ、上段から叩き下ろす。堕天使が横に動いた。僅かな動作で刃を避け、ロイドの横を通り過ぎざまに腕を伸ばす。


 ロイドが大剣の柄で弾いた。間一髪。けれど反動で足元がぶれた。堕天使が追撃する。黒い腐食した翼が広がり、その先端がロイドに向かって鞭のように振るわれた。


 金属音。アスの剣が翼の先端を弾いていた。


 いつ走ったのか、自分でもわからなかった。身体が動いていた。ロイドの横に立ち、剣を構えていた。炎が刃に灯っている。


「アス——」


「一人で行くなって言ったろ」


 短く言った。視線は堕天使に向けたまま。


 堕天使の白濁した目が、アスを見た。


「人間の子供か。火を使うのか」


 言葉で話しかけてくる。知性がある。戦いながら会話ができる余裕がある。それだけで格の違いがわかった。


 アスは答えなかった。答える代わりに踏み込んだ。炎を纏った斬撃を堕天使の左腕に叩きつける。刃が触れた瞬間、抵抗があった。皮膚ではない。魔力で編まれた防壁のようなものが堕天使の身体を覆っている。通常攻撃では届かない。


 けれど炎は通った。魔力の防壁を炎が焼き、その下の肉体に僅かに触れた。堕天使の眉が動いた。驚きではない。不快。虫に刺されたような。


 アスの一撃では、その程度だった。


 堕天使の腕がアスに伸びた。速い。避けられない——


 光が飛んだ。


 アテネの支援魔法が、アスの身体を包んだ。反応速度が跳ね上がる。伸びてきた腕を半身で避け、大きく後退する。アテネは二十歩後方にいた。走りながら術を放っている。4層の重い空気の中で、途切れない支援。腕輪が激しく明滅し、アテネの顔に汗が流れている。けれど足は止まらない。目は前を見ている。


「再生が始まってる」


 ミルの声が闇を切った。


 アスが斬りつけた箇所を見た。左腕の浅い傷が——塞がっていく。強化悪魔と同じ再生能力。いや、速度が桁違いだった。アスの炎で焼いた傷が、三秒で消えた。


「通常攻撃では再生に追いつけない。核を直接狙うしかない——けど」


 ミルが言い淀んだ。珍しいことだった。


「核が見つからない。体内のどこにあるのか、外から読めない。魔力の防壁が観測を遮ってる」


 核が見えない。位置がわからない。ガルム戦ではミルが甲殻の開閉タイミングから核の位置を推測した。強化悪魔戦ではアスの炎で内部を焼いて核を見つけた。けれど堕天使の防壁は、その手法すら遮断している。


「観測できないなら、防壁を壊す。壊すための手がかりを探す。時間を稼いで」


 ミルが走った。堕天使の周囲を大きく迂回しながら、異なる角度から観察を始めた。メモ帳は出さない。この暗闇では書けない。全てを頭に入れている。堕天使の動き、防壁の揺らぎ、攻撃時の魔力の流れ。目で見て、肌で感じて、脳で処理する。サポーターの戦いだった。武器を持たない者の、命懸けの分析。


 ロイドが再び正面から切り込んだ。大剣が唸りを上げ、堕天使の胴を薙ぐ。防壁に弾かれる。けれどロイドは退かなかった。弾かれた反動を利用して身体を回し、逆方向から二撃目。三撃目。四撃目。


 堕天使が後退した。一歩だけ。大剣の連撃を、防壁で受けながらも圧力に押されている。ロイドの攻撃は防壁を貫けていない。けれど力そのものは、堕天使に後退を強いるだけのものがある。


「……強くなったな、ロイド」


 堕天使が言った。戦闘の最中に。余裕があるのか、それとも——何かを確認しているのか。


「あの日の子供が、よくここまで」


「黙れ」


「お前の父は、最後まで立っていた。大した戦士だった。だが結局——」


「黙れと言っている」


 ロイドの声が震えた。大剣が乱れた。一瞬。感情が動きに出た一瞬。


 堕天使はそれを見逃さなかった。翼が伸びた。黒い翼の先端がロイドの脇腹を捉え、弾き飛ばす。ロイドが地面を転がった。


「お前の家族は苦しんで死んだ」


 堕天使の声が追いかけた。冷たい声だった。感情がない。事実を述べている。あるいは——意図的に揺さぶっている。知性がある存在だ。感情が武器になることを知っている。人間の側にいた経験が、人間の弱点を教えている。


「弟は泣いていた。母は叫んでいた。お前の名前を」


 ロイドの動きが止まった。


 地面に膝をついたまま、大剣の柄を握ったまま、動けなくなっていた。金色の瞳が見開かれている。呼吸が乱れている。揺さぶられている。何年分もの傷口に、塩を塗り込まれている。


 アスが走った。


 ロイドの前に立った。堕天使に背を向けて。ロイドの顔を見た。金色の目が焦点を失いかけている。過去に引きずり込まれかけている。


「ロイド」


 名前を呼んだ。


「一人じゃない」


 短く言った。それだけだった。気の利いた言葉は持ち合わせていない。感情を揺さぶる言葉の技術も知らない。ただ事実を言っただけだ。ここにいる。自分がここにいる。アテネがいる。ミルがいる。一人じゃない。


 ロイドの瞳に、焦点が戻った。


 金色の目がアスを見た。目の前に立っている少年を。堕天使に背中を晒して、自分を守るように立っている少年を。


 ロイドが立ち上がった。大剣を握り直した。


「……ああ」


 一語。それだけだった。けれどその一語の中に、堕天使の揺さぶりに対する答えがあった。お前の言葉では折れない。ここには仲間がいる。


 アスが振り返り、堕天使に向き直った。二人が並んで立つ。前衛が二枚。


「ミル——」


「わかった。見つけた」


 ミルの声が飛んだ。切迫した声だった。闇の中で走り回りながら、堕天使の防壁を観察し続けていたミルが、ようやく掴んだ。


「防壁に周期がある。攻撃を受けた直後に再構築するとき、背面の左肩あたりが一瞬薄くなる。そこから内部が見える可能性がある」


「一瞬って、どれくらい」


「一秒未満。攻撃は正面から。その衝撃で防壁が再構築に入る瞬間に、背面から核を探す。正面で受ける人が——耐えられれば」


 正面で堕天使の反撃を受けながら、攻撃し続ける役。それは——


「俺がやる」


 ロイドが言った。


「背面に回れるのは」


「アスさん。炎で核を焼けるのはアスさんだけです」


 ミルの指示が確定した。ロイドが正面。アスが背面。アテネが二人を支援。ミルが全体を見て合図を出す。四人全員の役割が噛み合う。


「アテネさん、ロイドさんに集中して。正面で堕天使の反撃を受け続ける。回復を切らしたら終わりです」


「わかりました」


 アテネの声に震えはなかった。腕輪が白く光る。全魔力をロイドに注ぐ準備。走りながら。途切れずに。


「行く」


 ロイドが踏み出した。正面から。堕天使に向かって。


 大剣が振り上げられた。渾身の一撃が防壁に叩きつけられる。衝撃波が走る。防壁が揺れた。ロイドが押し込む。もう一撃。もう一撃。


 堕天使が反撃した。翼が伸び、ロイドの肩を打つ。ロイドの身体が揺れた。倒れない。アテネの支援が身体を支えている。回復の光がロイドを包み、傷を癒しながら身体を強化する。あの日、ガルム戦でアスに全魔力を注いだのと同じ術式。けれど今のアテネは、あのときより遥かに上だった。走りながら。動きながら。途切れずに。


 アスは闇の中を走った。


 堕天使の背面に回り込む。音のない足取りで、気配を殺して。堕天使の注意はロイドに向いている。正面で猛攻を仕掛けるロイドが、全ての視線を引きつけている。


 背面に着いた。堕天使の背中が見える。黒く腐食した翼。その付け根の、左肩のあたり。


「——今!」


 ミルの声が飛んだ。ロイドの大剣が防壁を叩いた直後。再構築の一瞬。


 アスの目が見た。左肩の防壁が薄くなった。一秒にも満たない隙間。その向こうに——赤い光が見えた。微かな脈動。核だ。胸部ではない。左肩の奥、心臓の裏側。


「核は左肩の奥! 心臓の裏!」


 アスが叫んだ。叫びながら踏み込んだ。炎を最大に絞る。全力の一撃を、薄くなった防壁の隙間に突き入れる。


 刃が防壁を貫いた。薄くなっていた一瞬を突いて、炎が内側に流れ込む。堕天使の身体に刃が食い込み、炎が肉を焼く。


 核には届かなかった。深さが足りない。左肩の奥、心臓の裏側。あと数センチ。そこまで刃が届かない。


 けれど炎は届いた。核の表面を炎が舐め、赤い光が激しく明滅した。堕天使が——初めて声を上げた。苦痛の声。知性ある存在の、抑えきれない悲鳴。


 アスが弾き飛ばされた。防壁が全力で再構築され、その衝撃がアスの身体を吹き飛ばした。地面に叩きつけられ、骨片の中を滑る。全身が痛い。けれど致命傷ではない。アテネの支援が、衝撃を緩和していた。ロイドに集中しながらも、アスへの最低限の補助を維持していた。


「ロイド——今!」


 ミルが叫んだ。堕天使が苦痛に怯んだ一瞬。防壁が乱れている。再構築が間に合っていない。


 ロイドが来た。


 全身のばねを使い、地面を砕く勢いで踏み込んだ。大剣を両手で握り、渾身の力で振り下ろした。狙いは左肩。アスが見つけた核の位置。


 大剣が防壁を——突破した。


 乱れた防壁を力任せにこじ開け、刃が堕天使の左肩に食い込んだ。深く。肉を裂き、骨を砕き、核に向かって。


 赤い光が弾けた。核の表面に亀裂が走った。


 堕天使がよろめいた。白濁した目が見開かれ、初めて——焦りが浮かんだ。知性ある存在が、初めて自分の死を予感した瞬間の顔。


 ロイドの大剣が引き抜かれた。刃に赤い光の破片がこびりついている。核に深い傷を負わせた。けれど砕けてはいない。


 堕天使が後退した。三歩。五歩。翼を広げ、距離を取る。左肩から黒い体液が流れ、再生が始まっている。けれど核の傷は再生しなかった。核そのものの損傷は、通常の再生では修復できない。


 四人が息を整えた。全員が消耗していた。ロイドの身体は打撲だらけで、アスの背中に骨片が食い込んでいる。アテネの魔力は半分以下に落ち、ミルは走り続けた足が震えていた。


 けれど堕天使も無傷ではなかった。左肩を押さえ、白濁した目でこちらを見ている。その目に、さっきまでの余裕はなかった。


 まだ終わっていない。


 ロイドが大剣を構え直した。血を拭いもせず、息を整えもせず。ただ前を見ている。核の位置はわかった。届くこともわかった。あと一撃。あと一撃で、終わらせられる。


 堕天使の目がロイドを見ていた。追い続けてきた者と、追われ続けてきた者。その視線が、闇の中で交差していた。


おもろいよ

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