第3章 アルゴ進化への道 第30話 支配の正体
すべてを揃えたはずでした。
仲間も、力も、策も――
それでもなお、届かない存在がいる。
目の前にあるのは“敵”ではなく、
この空間そのものを支配する圧倒的な力。
ここから先は、これまでの戦いとはまったく違います。
限界のその先へ。
空間が、壊れた。
歪むどころじゃない。ねじれている。
重さが一気に増し、全身が地面に押し付けられる。呼吸が浅くなり、肺がうまく動かない。
修一は歯を食いしばった。
「……っ、なんだよこれ」
リオンが先に膝をついた。
「くそ……体が、動かねえ……」
ノクスの声が低く響く。
「来るぞ……」
その瞬間、床の魔法陣が暴走するように光り始めた。
中心から、何かが浮かび上がる。
人の形をしている。だが、輪郭が定まらない。存在そのものが揺れている。
アルゴが即座に反応した。
『未確認存在を検出』
『危険度、極大』
次の瞬間、それは消えた。
「――どこだ!?」
誰かの声が響くより早く。
カイゼルの体が宙を舞った。
「がっ……!!」
遠くの壁に叩きつけられる。鈍い音が響き、動かなくなる。
修一の心臓が強く鳴る。
「カイゼル!」
リオンが叫びながら風魔法を叩き込む。
だが、触れた瞬間に消えた。
「……は?」
信じられない表情のまま、次の瞬間にはリオンも地面に叩きつけられていた。
空気が抜ける音がして、そのまま動かない。
上級魔道士たちが一斉に魔法を放つ。
火、水、風、重ねがけされた強力な魔法。
それでも――すべて、消える。
まるで最初から存在しなかったかのように。
そして、一人、また一人と倒れていった。
圧倒的だった。
戦いにすらなっていない。
ノクスが前に出る。
「……っ!」
無効化が発動する。
空間が一瞬だけ揺らぐ。
だが、すぐに押し返される。
ノクスが膝をついた。
「はっ……くそ……」
呼吸が荒い。顔色が明らかに悪い。
「……持たない……!」
限界だった。
修一の中で、何かが崩れかける。
(終わる……のか)
その時だった。
アルゴが動く。
『戦闘継続』
人型アルゴが踏み込む。
高速の連撃。武術の動きが正確に再現される。
だが。
すべて、すり抜ける。
手応えがない。
次の瞬間、アルゴの体が弾き飛ばされた。
床を滑り、壁に叩きつけられる。
『損傷率、61%』
「アルゴ!」
修一が駆け寄る。
アルゴの動きが明らかに鈍い。
『……動作、低下』
ルーヴェンハイムの声が静かに響いた。
「理解できたかな」
「これは“存在”ではない」
「支配そのものだ」
絶望的だった。
触れない。
当たらない。
防げない。
仲間は倒れ、残っているのは自分と、限界寸前のアルゴだけ。
呼吸が荒くなる。
視界が揺れる。
足が震える。
(どうする……)
(どうすればいい……)
その時。
アルゴの声がかすかに響く。
『……解析中』
弱い、途切れそうな音。
『構造……検出』
修一の意識が戻る。
「構造……?」
『中心……存在』
その言葉で、思考が繋がる。
視線が魔法陣へ向く。
光の流れ。
その中に、一箇所だけ不自然な歪みがある。
「……あそこか」
その瞬間、ルーヴェンハイムの視線がわずかに動いた。
「気づいたか」
空気がさらに重くなる。
圧が増す。
完全に潰しにくる。
修一の膝が折れそうになる。
それでも――踏みとどまる。
「……まだだ」
震える足で、立つ。
後ろには倒れた仲間たち。
ここで終わるわけにはいかない。
アルゴがかすかに反応する。
『……指示を』
修一の目が変わる。
覚悟の目だった。
「突破するぞ」
「一点だ」
「全部、そこに叩き込む」
ルーヴェンハイムが笑う。
「できると思うか?」
修一は息を吐く。
「やるしかねえだろ」
極限の中、わずかな勝機が見えた。
それはあまりにも細い、一本の糸。
だが――
それでも掴むしかない。
戦いは、まだ終わっていない。
ほぼ全滅。
それでも、わずかに見えた“突破口”。
この戦いは、力ではなく「見抜けるかどうか」にかかっています。
アルゴの解析。
修一の判断。
そして、仲間たちの残された力。
すべてを一点に集められるか。
次回、反撃開始です。




