第1章 未開の地の冒険 第8話 少しだけ近づく距離
第8話です。
今回は少しゆったりとした日常回になります。
拠点での生活や食事を通して、少しずつ距離が縮まっていきます。
よろしければ、のんびりした気持ちで読んでいただけたら嬉しいです!
夕方。
拠点の周囲は、オレンジ色の光に包まれていた。
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川のせせらぎ。
水車の回る音。
ゴウン……ゴウン……
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神谷修一は、焚き火の前にしゃがみ込んでいた。
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串に刺した魚が、じゅうじゅうと音を立てる。
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カイゼルが少し離れたところから見ている。
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「……それは」
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修一
「今日の飯」
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軽く振り返る。
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「川で捕まえた」
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カイゼルは驚いたように目を見開く。
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「ご自身で……?」
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修一
「まあな」
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肩をすくめる。
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「大したもんじゃないけどな」
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アルゴが横から言う。
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「毒性なしを確認済み」
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修一
「それが一番重要」
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カイゼルは少し戸惑いながらも近づく。
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「このようなことまで……」
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修一
「生きるためにはな」
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焼き上がる。
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修一はそれを差し出す。
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「ほら」
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カイゼルは一瞬ためらう。
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だが、受け取る。
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「……いただきます」
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ゆっくりと口に運ぶ。
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一瞬、止まる。
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「……」
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修一
「どうだ?」
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カイゼルは小さくつぶやく。
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「……美味しい」
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その声には、驚きが混じっていた。
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「温かい……」
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修一は笑う。
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「焼いただけだけどな」
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カイゼルはもう一口食べる。
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「ですが……」
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少し考える。
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「初めてです」
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修一
「初めて?」
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カイゼル
「はい」
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「自分で得た食材を、そのまま食べるのは」
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修一は少しだけ目を細める。
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「貴族ってやつか」
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カイゼルはうなずく。
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「決められた食事を、決められた形で」
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修一
「面倒くさそうだな」
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カイゼルは、ほんの少しだけ笑う。
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「……そうかもしれません」
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焚き火の音。
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少しだけ、空気が柔らぐ。
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アルゴが近づく。
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「エネルギー供給 安定」
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修一
「それはさっき聞いた」
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アルゴ
「はい」
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少し間。
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「報告完了です」
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修一は苦笑する。
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「真面目すぎるだろ」
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カイゼルはその様子を見て言う。
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「……その存在は」
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「人のようです」
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アルゴ
「否定」
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修一
「そう見えるか?」
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カイゼル
「はい」
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アルゴはわずかに首をかしげる。
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「意味を理解できません」
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その様子に。
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カイゼルは、小さく笑った。
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夜。
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星が広がる。
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焚き火の光が、揺れる。
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修一は座り込む。
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「……静かだな」
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カイゼルも隣に立つ。
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「はい」
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少しの沈黙。
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カイゼルが言う。
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「……不思議です」
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修一
「何が?」
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カイゼル
「ここにいると」
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少し迷ってから。
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「落ち着きます」
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修一は軽く笑う。
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「そりゃよかった」
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カイゼルは空を見上げる。
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「本来なら」
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「このような場所には、いませんでした」
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修一
「後悔してるか?」
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少しの沈黙。
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そして――
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「……いいえ」
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修一
「ならいい」
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風が吹く。
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カイゼルはふと、修一を見る。
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「あなたは」
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「なぜ、あのとき助けたのですか」
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修一は少し考える。
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そして答える。
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「なんとなく」
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カイゼル
「……なんとなく?」
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修一
「放っておくのが嫌だった」
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それだけだった。
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カイゼルは、少しだけ目を見開く。
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そして――
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「……やはり」
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「変な人です」
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修一
「褒め言葉か?」
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カイゼル
「ええ、多分」
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少しだけ、距離が近づく。
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そのとき。
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アルゴの目が、一瞬だけ光る。
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ピッ――
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修一が振り向く。
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「……ん?」
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アルゴ
「問題ありません」
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だがその内部では
わずかな変化が進んでいた。
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まだ誰も知らない。
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それが、大きな進化の前触れだということを。
読んでいただきありがとうございます!
拠点での生活や食事を通して、
少しずつ関係が変わってきました。
こうした時間があることで、
この先の展開もより楽しんでいただけると思います。
そして、ほんのわずかですがアルゴにも変化の兆しが見え始めています。
面白いと思っていただけたら、
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次回は再び物語が動き出します。
ぜひ続きも読んでいただけたら嬉しいです!




