第2章 冴えないオッサン、魔法至上の世界へ 第10話 広げてはいけないもの
第10話です。
ここから少しずつ、世界との衝突が見えてきます。
これまでの流れとは少し違った空気を感じていただける回です。
どう受け止められるのか、
ぜひ読んでいただけたら嬉しいです。
ヴァルディアの一角。
そこには、人だかりができていた。
「こっちだ!」
「昨日のやつだ!」
ざわめきが波のように広がる。
中心にいるのは、神谷修一。
その周囲を囲む人々の目には、明確な期待があった。
修一は少し困った顔で立っている。
「……多いな」
アルゴが淡々と答える。
「想定以上」
一人の男が腕を差し出す。
「これ、見てくれ!」
修一は軽く手を上げる。
「順番に来い」
混乱を抑えるように声を出す。
アルゴの指示を受けながら、一人ずつ処置していく。
「洗って、押さえて……」
「そう、それでいい」
直接やるだけではない。
やり方を“見せている”。
それを見ている人間も増えていく。
ただの見物ではない。
理解しようとしている目。
「……俺でもできそうだ」
「魔法じゃなくても……」
空気が、確実に変わっていく。
それは広がりの兆しだった。
そのとき。
「そこまでだ」
低い声。
空気が一瞬で凍る。
ざわめきが止まる。
人々が自然と道を開ける。
現れたのは、数人の魔道士。
そして、その中央。
一人の男。
整った装い。
無駄のない動き。
ただ立っているだけで、周囲を支配するような存在感。
カイゼルが小さくつぶやく。
「……上級魔道士」
さらに続ける。
「ヴァルディア様の直属です」
修一は軽く目を細める。
「へえ」
男は静かに口を開く。
「ヴァルディア様の意向だ」
「その行為、即刻中止してもらう」
ざわめきが再び広がる。
だが、誰も声は上げない。
修一は落ち着いたまま聞く。
「理由は?」
男は迷いなく答える。
「秩序を乱す」
修一は少し笑う。
「助かってるだろ」
男の目が細くなる。
「それが問題だ」
空気が一気に冷える。
「力は管理されるべきものだ」
「無秩序な拡散は、混乱を招く」
修一は肩をすくめる。
「もうなってるぞ」
周囲のざわめきを示す。
男は一歩近づく。
圧が増す。
「……お前は何者だ」
修一は答える。
「ただの一般人」
「魔力もない」
その言葉に、周囲がわずかにざわつく。
男はじっと見つめる。
そして、低く言う。
「……なおさらだ」
「そのような者が“力”を広めることは許されない」
その瞬間。
エリシアが一歩前に出た。
「でも!」
全員の視線が集まる。
小さな体。
だが、はっきりとした声。
「助かってます!」
静寂。
その言葉だけが残る。
男はエリシアを見る。
一瞬だけ、ほんのわずかに目が揺れる。
だが――
何も言わない。
修一は静かに言う。
「やめろって言うならやめる」
周囲がざわつく。
「ただ」
一拍置く。
「その代わり、全部お前らでやれ」
沈黙。
誰も動かない。
修一は続ける。
「できるならな」
アルゴが補足する。
「論理矛盾を検出」
場の空気が変わる。
正論。
だが、それを否定できる者はいない。
男はしばらく黙る。
何かを考えるように。
そして――
「……今回は見逃す」
ざわめき。
安堵と不安が混ざる。
「だが」
男の声が低く響く。
「これ以上の拡散は認めない」
修一は肩をすくめる。
「そうか」
男は背を向ける。
「監視は続ける」
そのまま去っていく。
魔道士たちも後に続く。
張り詰めていた空気が、ゆっくりと戻る。
だが完全には戻らない。
何かが変わってしまった後の空気。
カイゼルが小さく言う。
「……大丈夫ですか」
修一は短く答える。
「さあな」
アルベルトが近づく。
「完全に目をつけられたな」
修一はうなずく。
「だろうな」
少しの沈黙。
エリシアが小さく言う。
「……なんで」
「ダメなんですか」
その問いは、まっすぐだった。
修一は少し考える。
そして答える。
「簡単だ」
「困るやつがいるからだ」
エリシアは黙る。
その言葉の意味を考える。
その目は、もう以前とは違っていた。
修一は空を見上げる。
変わらない空。
だが、その下の世界は確実に揺れている。
「……さて」
小さくつぶやく。
「どうするか」
それは選択だった。
戦うのか。
やめるのか。
それとも――
別の道を作るのか。
読んでいただきありがとうございます!
ついに、明確な「壁」が現れました。
この世界の仕組みと、修一のやろうとしていること。
どちらが正しいかではなく、
どう向き合っていくのかがこれからの焦点になります。
そして、まだ姿は見せていませんが、
“ヴァルディア”という存在の影も見えてきました。
ここから物語はさらに動いていきます。
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