第1章 未開の地の冒険 第2話 漂着者
第2話です。
ここからヒロインのカイゼルが登場します。
修一とアルゴとの関係も少しずつ動き出しますので、楽しんでいただけたら嬉しいです!
薄暗い研究室に、静寂が満ちていた。
外の世界とは切り離されたような空間。
壊れた機材。
崩れた壁。
そして、長い年月の痕跡。
神谷修一は、その中央に立っていた。
「……なんなんだよ、ここ」
手には一枚の設計図。
アルゴのものだ。
ありえないはずなのに――
読める。
理解できる。
まるで、最初から知っていたかのように。
「俺……こんなの作ったのか?」
自分で言って、寒気が走る。
アルゴは静かに答える。
「記録に不整合があります」
「詳細は不明です」
修一はため息をついた。
「まあいい……」
考えても答えは出ない。
それよりも――
「生き残る方が先だな」
そのときだった。
アルゴの目が赤く光る。
「生命反応を検知」
修一
「……また魔物か?」
アルゴ
「人間です」
一瞬、空気が変わる。
「複数確認」
「生命維持が困難な個体を含みます」
修一は顔を上げた。
「……助けられるか?」
アルゴは一拍置いて答える。
「成功率は低いです」
「しかし、行動しない場合」
「死亡率は極めて高いと推定されます」
修一は迷わなかった。
「行こう」
アルゴ
「危険です」
修一
「それでもだ」
短い沈黙。
そして――
「了解」
⸻
外は、相変わらず危険だった。
魔物の気配が、そこかしこにある。
だがアルゴが道を示す。
「このルートであれば接触確率を最小化できます」
修一
「頼むぞ……」
足音を殺す。
枝を踏まないように。
呼吸を抑えながら進む。
やがて、視界が開けた。
海だった。
荒れた海岸。
そして――
壊れた船。
「……マジか」
修一は駆け寄る。
倒れている人影。
鎧を着た男。
しかし、動かない。
「……ダメか」
視線を移す。
その隣に、ひとりの女性。
銀色の髪。
白い肌。
整った顔立ち。
ただ倒れているだけなのに、
どこか気品を感じさせる。
修一は思わず息をのむ。
「……すげえな」
アルゴ
「生命反応あり」
「ただし危険状態」
修一
「助けるぞ」
迷いはなかった。
女性を背負う。
思ったより軽い。
だが、体力は削られる。
「急ぐぞ!」
⸻
研究室へ戻る。
扉を閉める。
外界と完全に遮断される。
修一は女性をベッドに寝かせた。
アルゴが即座に分析を始める。
「高熱」
「脱水」
「栄養不足」
修一
「水だ!」
アルゴ
「こちらに」
修一は慎重に水を飲ませる。
少しずつ。
確実に。
喉が動く。
「……よし」
⸻
どれくらい時間が経ったのか。
女性のまぶたが、わずかに動いた。
「……ん」
ゆっくりと目が開く。
青い瞳。
ぼんやりと天井を見つめる。
「……ここは」
修一
「気がついた?」
女性はすぐに周囲を確認する。
状況を把握しようとしている。
その動きに無駄がない。
「あなたは……」
修一
「通りすがり」
女性は一瞬だけ黙る。
そして言う。
「……状況を説明してください」
声は弱い。
だが、芯がある。
修一は苦笑する。
「未開の地っぽい」
女性の表情がわずかに変わる。
「未開の地……」
記憶をたどる。
「嵐に……巻き込まれて」
修一
「嵐?」
女性
「制御不能の異常気象でした」
アルゴが補足する。
「この地域では高エネルギー干渉が確認されています」
女性の視線がアルゴに向く。
「……その存在は」
「使い魔ですか?」
修一
「違う」
「AI」
女性は理解できない顔をする。
「……人工知能?」
修一
「まあ、そんな感じ」
⸻
女性は一度、目を閉じた。
そして開く。
「カイゼル・ローレンです」
「北大陸の探索隊リーダー」
修一
「神谷修一」
カイゼルは修一をじっと見る。
そして気づく。
「……魔力がない?」
修一
「らしい」
普通ならありえない。
この世界では。
カイゼルは一瞬だけ言葉を失う。
だがすぐに立て直す。
「……それでも」
静かに言う。
「私を助けたのですね」
修一
「見つけただけだ」
カイゼルは小さく息を吐く。
そして
「ありがとうございます」
深く、頭を下げた。
⸻
数日後。
研究室の空気は変わっていた。
だが――
全員は助からなかった。
片隅に並べられた遺体。
静かに包まれている。
カイゼルはそれを見つめていた。
動かない。
ただ、立ち尽くす。
「……私の判断が」
声が震える。
「彼らを……」
修一は言った。
「違う」
カイゼル
「でも――」
修一
「生きてるだろ」
その言葉に、カイゼルの動きが止まる。
修一は続ける。
「生きてるやつが」
「次やればいい」
静かな言葉。
だが、重い。
カイゼルは何も言えなかった。
ただ――
涙がこぼれた。
静かに。
音もなく。
⸻
その夜。
カイゼルはひとり座っていた。
壊れた研究室。
だが、どこか温かい空間。
そして――
ひとりの男。
魔力を持たない。
なのに、人を助ける。
見返りも求めない。
「……変な人」
小さくつぶやく。
だがその声には、
わずかな温もりがあった。
読んでいただきありがとうございます!
カイゼルとの出会いで、物語が少しずつ動き始めます。
面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価をしていただけるととても励みになります!
次回は「灯り」。
この世界に小さな“文明”が生まれます。
ぜひ続きも読んでいただけたら嬉しいです!




