第6章 新生国家ジャポン編 第21話「夢の設計図」
第6章 第21話です。
ついに遊園地建設がスタートします。
とはいえ、この世界には“遊園地”という文化そのものがありません。
なので今回は、地球の映像を見たクロウたちの反応や、職人たちが未知の構造へ挑戦していく様子を中心に描いています。
少しずつ、“夢”が形になっていく回です。
朝早くから、アルカディアの中央広場は騒がしかった。
木材。
鉄材。
魔石。
大量の資材が次々と運び込まれていく。
何も知らない移住者たちは、不思議そうな顔をしていた。
「今度は何作るんだ?」
「また修一様の変な発明か?」
「いや、建物じゃないらしいぞ」
そんな声が飛び交う。
その中心で、修一は大きな紙を広げていた。
横ではクロウが腕を組み、露骨に嫌そうな顔をしている。
「で?」
「本当にやるのか」
修一は笑った。
「やる」
「遊園地だ」
クロウは頭を抱えた。
「だから、そのユウエンチって名前がまず意味わかんねぇんだよ」
アルゴが静かに前へ出る。
『映像投影開始』
空中へ立体映像が浮かび上がった。
巨大な観覧車。
回転木馬。
小型列車。
水の上を進むボート。
夜空を照らすイルミネーション。
昨日見た映像より、さらに細かい。
構造図まで表示されている。
周囲の職人たちがざわついた。
「なんだこれ……」
「城か?」
「いや、動いてるぞ」
クロウは観覧車を指差す。
「まず聞きたい」
「このデカい輪っか、本当に必要か?」
「必要だ」
修一は即答した。
「なんでだ」
「高い場所から景色見ると楽しい」
クロウは真顔になった。
「理解できねぇ」
周囲から笑いが起きる。
その時だった。
ノエルたち子ども組が広場へ走ってきた。
「始まるの!?」
「ゆうえんち!?」
「まだだよ」
修一が笑う。
だが子どもたちはもう大興奮だった。
アルゴが映像を切り替える。
今度は小さな遊具。
木製ブランコ。
滑り台。
回転遊具。
水遊び場。
ノエルの目が輝いた。
「すごい……」
ノルも目を丸くしている。
「こんなの作れんのか?」
クロウが低く唸る。
「作れなくはねぇ」
「だが問題がある」
修一が頷く。
「動力だろ?」
「ああ」
クロウは設計図を見る。
「回すだけならできる」
「だが毎回人力じゃ効率悪すぎる」
アルゴが即座に反応する。
『風魔法式補助回転機構を提案』
空中へ新しい設計図。
巨大な羽。
歯車。
魔石制御装置。
クロウの顔が少し変わる。
「……なるほど」
完全に職人の目だった。
「風魔法を回転へ変換するのか」
『可能です』
『さらに水車との連結も推奨』
クロウが図面を覗き込む。
「待て」
「これなら小型遊具全部まとめて動かせる」
修一がニヤリと笑う。
「楽しくなってきただろ?」
クロウは咳払いした。
「別に」
「構造が面白いだけだ」
ルミナが呆れた顔をする。
「昨日まで反対してた人とは思えないわね」
「うるせぇ」
だがルミナも、少し楽しそうだった。
子どもたちが映像を見て騒いでいる。
笑っている。
その光景を見ると、否定する気が薄れていく。
修一は広場を見渡した。
「まずは小さいものから作る」
「安全第一」
「それと、みんなで作りたい」
職人たちが顔を見合わせる。
修一は続けた。
「ジャポンの遊園地は、誰か一人のものじゃない」
「この街みんなで作る場所だ」
沈黙。
そのあと。
一人の大工が前へ出た。
「……面白そうじゃねぇか」
別の鍛冶師も笑う。
「こんな仕事、他じゃ絶対できねぇ」
「遊ぶためだけの施設とか、頭おかしいけどな!」
笑い声が広がる。
修一も笑った。
「褒め言葉として受け取っとく」
その日から建設が始まった。
街の外の広大な土地。
ノエルが「明るい色」と言った場所。
そこへ木材が運び込まれる。
杭打ち。
整地。
水路作り。
アルゴは空中へ設計図を映し続けていた。
職人たちは最初こそ戸惑っていたが、徐々に慣れていく。
「この歯車、もっと軽くした方がいい!」
「こっちの木材使え!」
「危ねぇ! そこ押さえろ!」
いつの間にか、みんな夢中になっていた。
修一はその光景を見て、小さく笑う。
そこへノルがやってきた。
木材を抱えている。
「これどこ置けばいい?」
「そっち頼む」
「おう!」
ノルは以前よりずっと表情が明るくなっていた。
ノエルも子どもたちと一緒に走り回っている。
時々立ち止まり、不思議そうに周囲を見る。
「ノエル?」
修一が声をかける。
ノエルは小さく空を見上げた。
「……明るい」
「何が?」
「色」
修一は少し黙る。
ノエルに見えるもの。
まだ完全には分からない。
だが、この場所に良い未来を感じているのは確かだった。
その頃。
クロウは巨大な木製構造物の前で唸っていた。
「おかしいな……」
修一が近づく。
「どうした?」
「回転軸がズレる」
アルゴが即座に分析する。
『中心重量誤差二・三パーセント』
クロウが舌打ちした。
「だから回らねぇのか」
修一は少し笑う。
「難しいな」
「当たり前だ」
クロウは真剣だった。
「こんな構造、この世界にねぇんだぞ」
だがその目は楽しそうだった。
完全に職人の顔だった。
夕方。
ようやく最初の遊具が完成する。
巨大ブランコ。
普通のものではない。
四人同時に乗れる大型構造。
風魔法補助付き。
子どもたちが集まる。
「乗っていいの!?」
「いいぞ」
修一が笑う。
最初にノエルが乗った。
ノルも隣へ座る。
他の子どもたちも並ぶ。
クロウが最後の調整をする。
「よし」
「飛ばすぞ」
ルミナが慌てる。
「飛ばしちゃ駄目!」
笑い声が起きた。
次の瞬間。
巨大ブランコがゆっくり動き始める。
風が吹く。
ブランコが高く上がる。
「わああああ!!」
歓声。
笑い声。
子どもたちの声が空へ響いた。
ノエルが笑っていた。
心の底から。
ノルも笑っていた。
修一はその光景を見つめる。
気づけば、自分も笑っていた。
クロウが隣へ来る。
「……悪くねぇな」
修一は頷く。
「ああ」
夕陽がアルカディアを照らす。
まだ遊園地とは呼べない。
完成には程遠い。
だが確かに今、この場所には“夢”があった。
ノエルがブランコから降り、修一のところへ走ってくる。
「もっと明るくなった!」
「色か?」
「うん!」
ノエルは嬉しそうに広場を見る。
「みんな笑ってる色!」
その言葉に、修一は静かに空を見上げた。
この世界では、生きることだけで精一杯の人が多い。
だからこそ。
笑える場所を作りたかった。
戦うだけじゃない。
助けるだけじゃない。
未来を楽しみにできる国。
それが修一の描く――新生国家ジャポンだった。
最初の遊具が完成しました。
まだ小さなブランコ。
ですが、子どもたちにとっては十分すぎるほど特別な場所だったと思います。
今回書きたかったのは、「遊ぶ」という文化です。
この世界では、生きるための施設はあっても、“笑うためだけの場所”はほとんど存在しません。
だからこそ、修一が作ろうとしているものは、ある意味かなり異常なことでもあります。
そしてクロウ。
最初は呆れていたのに、気づけば一番真剣に作っていました。
こういう職人タイプ、たぶん新しいものを作り始めると止まりません。
次回は、さらに本格的な遊具作りや、街へ広がっていく噂なども描いていけたらと思っています。




