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ポエマー冒険者は今日もダンジョンに潜る〜道化を演じる元英雄が、再び死地《ロスト》へ還るまで〜  作者: 馳せ参ず
第一章「ロストエンプティ」

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第一話『ポエマーは今日もダンジョンに潜る』

「おはよう、私。今日も高貴(エレガント)な一日が始まります……」


 パチリと薄暗い場所で目を覚ました男。

 黒い外套(がいとう)の隙間からは、何処か荘厳(そうごん)な服が覗き見える。右目は青く、左目は赤い──所謂(いわゆる)オッドアイというやつで、金色のモノクル(片眼鏡)からはチェーンが垂れ、一見探偵と見間違えるような外見だ。


 眠気など微塵も感じさせないような動作で鼻歌交じりに床に左手を伸ばす。そこには漆黒なだけの、特別目立つ点はない杖が置いてあって、男は杖を地面に押しつけながらゆったりと立ち上がる。


「ふむふむふむ、なるほど? 私の事を太陽と見間違えてしまったんですね……」


 己の事を光り輝く太陽と信じて疑わない男は、自らを取り囲む骸骨の群れを見て微笑む。


 そう、ここは迷宮(ダンジョン)

 数百年前に勇者が魔王を打ち倒す寸前、魔王が苦し紛れに放った呪いの箱なのだ。


 そして、そんな危険極まりない場所で寝ていた異常者の名前を──


「いいでしょう。この()()()がお相手します!」

「「「「グガギギギギャギャ!?」」」」


 ──ローレといった。

 

 「はっ!」


 一息。

 ローレの左手がブレた瞬間、愚かにもローレに挑んだ骸骨らはバラバラに斬り刻まれた。


 「はぁ、()のない相手ですね」


 左手の杖がくるくると舞い、地面にカツンと小気味のいい音をたてて着地した。


 そう、ローレの武器はこのオーダーメイドの杖。ローレが杖に魔力を流した瞬間、杖の中から銀光(またた)く長身の刃が姿を表すのだ。


 実用性皆無。

 中二病。

 ロマン。


 ──良いではないか!


 ローレはこの手の武器が大好きだった。

 ミステリアスで高貴(エレガント)な自分にしっくりくると、信じて疑わずにここまで歩んできたのだ。


 「私如きが作る魔法結界すら超えられないなんて、拍子抜けですねぇ。もっと下まで降りた方が良かったでしょうか?」


 迷宮(ダンジョン)で平気で寝泊まりをするローレは、今日も己の良さを広げるために迷宮(ダンジョン)を踏破していく。

 

 ローレが下層へと歩みを進めている迷宮(ダンジョン)の名は『ゲファールリッヒ』。冒険者ギルドが定める階位(クラス)中位(ミディアム)迷宮(ダンジョン)


 下から順に並べるとこうだ。

 低位(ロー)

 中位(ミディアム)

 高位(ハイ)

 夢位(ナイトメア)


 「さて、ボスの方はどうでしょう?」


 第四十階層。

 迷宮(ダンジョン)の主がいる証である、重厚な鉄扉を前にローレは微笑み、チョビ髭をつまんだ。


 錆びた甲高い音とともに開かれる扉。

 その先にはローレの体格とは比べ物にならないような、分かりやすく言えばローレ三人分の身長を誇るスケルトンジャイアントが(たたず)んでいた。


「グガギ?」


 ここ数週間ぶりの血肉の匂い。それも濃縮された旨味の塊のような、食欲を激しくノックするような匂いだ。

 スケルトンジャイアントは匂いの元を睨んだが、そこには何の影もない。扉は開いているのに、扉を開けた何者かがいないのだ。そうして混乱していると、背後から声が聞こえた。


「どうか、安らかにお眠り下さい」


 何の気配も無かった。

 その事実と、目を瞑って堂々と空間の隅で祈りを捧げる男の行為を挑発だと感じたのか、スケルトンジャイアントは激昂し、ローレへ向けて大弓を射た。


 数多の命を奪ってきた剛弓の一射。それも射た相手は、背中を晒す貧弱そうな男だ。殺せない道理などあるはずがない。

 

 数秒前までそう思っていたのだ、スケルトンジャイアントは。


「祈りを邪魔するとは、品性の欠片もない。少しでも期待した私が、どうやら馬鹿だったようです」

「グギャ?」


 ズルッと視界が傾いて、反転する。スケルトンジャイアントの首はローレの仕込み杖によって両断されていた。

 スケルトンジャイアントは生命活動を停止し、身体がさらさらと地面に崩れ落ちていく。その中心には拳程の青い魔石(ませき)が落ちていて、ローレは流れるような手つきでポイポイと袋に入れた。

 

「さて……行きますかね」


 ボスを倒した事によって、四角い空間の中心に円形の転移魔法陣が現れる。そこを踏めば迷宮(ダンジョン)の入口へ戻れるという訳だ。


 しかし、ローレは魔法陣をすぐには踏まずに、石造りの空間の角でしゃがむ。

 ローレは最後に、空間の隅に散らかる血の染み込んだ服や剣──つまり、スケルトンジャイアントに喰い殺されたであろう人々の遺物を袋に回収していたのだ。


 世界にはボックス(四次元収納)なんて便利なものもあるみたいだが、ローレからして言えばロマンにかける。


 自分で得た物は自分で持ってこそではないか?

 四次元なんていう不可解な空間に預けるぐらいなら自分で持つ。それが故人の物ともなれば、なおさらである。


「貴方達は幸運です。最後に私の美しい(エレガント)な顔を見て、幸せに成仏するのですから」


 柔らかに微笑んで転移魔法陣を踏むと、体がふっと浮いたような感覚の後に、見慣れた風景が目の前に広がった。

 

「二日でこれは上々、気分も上々、太陽も上昇……ん〜〜〜〜高貴(エレガント)!!」


 目を思わず細めるほどの()()に照らされながら、ローレは巻き舌で声をあげた。


 今日もポエマーは生きていく。

 これはそんな彼が引き起こす、波乱万丈な異世界放浪(ほうろう)記だ。


「…………!」


 そんな自己陶酔に夢中のローレは、背後の草木に潜む少女の存在に気づけなかった。これが後々面倒事を呼ぶのだが、それはまだ先のお話──

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