キンキン姉妹は闇深き…
あのキンキンちゃんが結婚した。
という噂はもう、地元ではかなり有名になっていた。
まぁあの地元の嫌われ者チャンピオンであるキンキンでも結婚できたということじたいが、地元民からすればホントに信じられない話だからだ。
いったい、どんな男が貧乏くじひいたのだろう?とわが商店街では本当にがん首揃えて、見に来たぐらいだ。
それで、顔からしてさえなくて自信なさげで気弱そうな男だと判ると、
「ああ、あれはあのキンキン声で押し切られた感じか。お気の毒にー。」
という感じで、誰もが納得していた。
そう曜子は、いくら美人でも地元一の問題児で有名だったから、誰も曜子のことを彼女にする者はいなかった。
要領がいい子は、曜子に目を付けられる前にさっさと家を出て行ってしまうか、栄太みたいに家を継ぐ子は、親が決めた相手とお見合いで決めるかしている子が結構いた。
ちなみにその栄太本人だけは、家は継いだもののいまだに独身らしい。
「まぁうちは旅館だからな。他とは違って手伝いは厳しいし、それが判ると誰も嫁になんか来ないんよ。」
確かに旅館の女将さんを継ぐとなるとそれなりの覚悟はいるってものだ。
曜子も一度は栄太に目を付けたらしいが、旅館の女将の仕事内容を聞いただけでも逃げていったらしい。
言われてみれば、私だってイヤだ。
一年中、自分の旅館の管理ばかりして、旅行や遠出なんか絶対に無理な環境って、やっぱり考えただけで厳しい思う。
「しっかし、あのキンキンちゃんが結婚したとなると、ホントホッとした。」
まぁホントにそうだ。曜子が出て行ったおかげで、私もこの町も平和に過ごせている。
で?
その曜子はどこへ行ったかといえば、二つほど町をまたいだ市に住むことになった。
理由としては…
昔、自分を受け入れてくれていた…
「藤原先生が住んでいる町に住みたい!」
と言い出したのである。
イヤイヤ、その藤原先生はあんたのことは、聞かん坊の泰幸よりも嫌いだと言っていたぐらいだぞ。
と言ってやりたかった。
「多分、そこに住めば簡単に藤原先生も見つかると思うの。」
とか、言っていた。
ああ藤原先生ご愁傷さま。
ホント今さらながら、そう思えます。
これもそれもうちの母が
「ああ、確か藤原先生なら、ここから二つ町をはさんだ千賀市に住んでいたはずだけど…」
と覚えてなくてもいいことまで、覚えていたせいでもあったけどね。
まぁここは藤原先生が引っ越していることを切に祈る。
「でもね。おかしいことにね。曜子がつとめた先も一応は千賀市だったのね。それなのに、一度も藤原先生の姿見かけたことないんだよ。
ここよりずっと田舎なはずなのに、一度も藤原先生を見かけたことがないし、地元の人は誰も藤原先生のことを知らないなんて、おかしい思わない?」
まぁいわれてみれば、田舎なら田舎ならではのネットワーク情報量はすさまじいと聞く。
ならば、結構簡単に情報を手に入れることはできるかと思うが、ここまでないとなると、田舎者の強いつながりで口止めになっていることもあり得るんかなとさえ思う。
何せ、曜子はどこへ行っても嫌われてきたのだから、こんな嫌われ者にあげる情報などないと、そこの市民は満願一致でそう思ってのだんまり行動かもしれないとさえも思えた。
ちなみに曜子はその職場も一年と持たずにやめて行ったとのこと。
原因は、本人曰く職場いじめだとか言っているが、単に嫌われて冷たい態度とられただけだと予想。
そしてこんな曜子ではあるが、あちらではうまくやっているのか?といえば…
やっぱり、そこまで印象はよくないらしい。
一応、時事会や地元行事や婦人会とかにも参加しているらしいが、気の合う自分と同世代の主婦はいないらしい。普通に構ってくれるのはおばあちゃんぐらい年の離れた人たちくらい。まぁ田舎ゆえにそれぐらいの世代の人がほとんどらしいので、それでいいかといえばいいのだが…数少ない同世代の主婦の人たちはやっぱり曜子のことは苦手らしく、同世代同士では曜子は浮いているとのことだ。
「みんないい人ばかりよ。でも、誰も藤原先生のことは知らないというの。違う学区だったのかな?」
同じ市内でも違う学区なら、誰も知らなくても当然だろう。
何せ、田舎と言われてる千賀市内でも小学校は5つ、中学は2つあるのだから、組み合わせが悪ければ知らない人ばかりでもおかしくはないのだから。
「すでに家を買ってしまったから、もう引っ越すことは難しいけど、多分同じ町にいればそのうち会えると曜子は信じてる。」
曜子は自分を最後まで受け入れてくれたと勝手に信じ込んでいる相手には、とことんのめり込んで追いかけるんだということか?
私はここで曜子がようやく少し離れた視点から、客観視することができた。
曜子がようやく自分から離れて行って、ようやく曜子の行動が読めてきたのであった。
藤原先生はある日突然、病気で職場にこなくなったと聞いて、曜子は勝手にショックを受けていた。
最後の最後まで、藤原先生は無理して曜子にも気を配っていたらしく、曜子はそんな藤原先生は自分のことを受け入れてくれていたと勘違いして今に至るということだ。
いや、あくまで藤原先生は、自分の飯の種のためだけにビジネスとして、曜子のことも適当に流して辛抱していただけでしかない。
こいつはやっぱり自分を一度でも普通に扱ってくれただけで、受け入れてくれたと勘違いしてしまうという生き物らしい。
一度でも曜子にそう認識されるとずっと曜子に追い回されることになるらしい。
何せ、私も曜子には何度「お前なんか嫌いだ!」といっても、聞き入れてもらえなかったのだからな。
今は、旦那や藤原先生のことを追いかける事に夢中な曜子なので、こちらは平和に過ごせているが、これで曜子の結婚生活が破綻したら、また大変なことになることは目に見えてるというわけだ。
「栄太」
「なに?」
「私、やっぱり地元出てくわ。」
「え?」
栄太は驚いている。
「出てくって、キンキンいないのにか?」
「今はいないけど、またいつあの子が出戻りになるか判らないでしょ?」
「まぁそうだな。それで今のうちに逃げるってわけか?」
「うん。」
「まぁそれが妥当だな。」
「今度こそは、自分がメディアに映らなくてもすむ。仕事選ぶよ。」
「せっかく、地元に帰ってきたのにホントに残念だ。」
「そうよね。」
なんだかんだ言って、住み慣れた地元は落ち着く場所でもあるのだけど、自分の身内が嫌いとなるとそうも言ってられない場所である。
「俺、実は星子のこと狙ってたんだぞ。」
栄太の口から、今までの付き合いからして信じられないことを聞いた。
「え?いつから?」
「まぁ大人になってからだけどな。」
マジか…
「一応キンキンが落ち着いてから考えようかと思ったけど、お前がここを出ていくといわれると俺はここを出られないから、そうも言ってられないのだよな。」
まぁそうなる。
「考え直さないか?」
とまで言われてしまった。
相手は栄太だ。
すごく気心は知れている。
さっきは旅館の女将なんか無理だとは思ったが、ここまで誠実に思っているなら…と
気持ちは揺らいだ…
…………
でも…
「…ごめん」
私には栄太の嫁になる権利はない。
「私にはもったいなすぎて…」
とだけここは言っておこう…
「もったいないって。それは俺のセリフだ。俺の方こそ、星子はもったいなさ過ぎる女だ。」
とまで言ってきた。
そんなんじゃない。
私は…、
当の昔の信じられない年齢で生娘を卒業していて、
その後、すぐぐらいに従妹に体を売られて、
その翌日に腹いせと口直しとエゴで同級生の純潔を奪って、
大学生では好きでもない男と付き合って関係まで結んで、
んでその好きでもない元カレを風俗嬢に押し付けて逃げて、
そのあとすぐ、自分の主である未成年である息子と子ども作ってその子どもを産んで、
更にその家と縁があった資産家に飼われていた画家に初めてまともに恋して、
学生最後の年にその画家のヌードモデルまでやってしまった。
そしてそのあと、就職先は表向きは女政治家の秘書を勤めていたが、
実は裏の顔はその女性政治家の百合の愛人の一人を勤めていた。
ついでに言うと、その女性政治家の障害を抱えた一人息子と籍だけの結婚して、4年目で離婚したバツイチで。
さらに年がたつと、今度はその主である女性政治家から、依頼された金持ちのヒヒ爺の愛人までやっていた。
それでさらに知らないうちにそのヒヒ爺の子供まで宿していて、曜子のせいで流産して子どもが望めない体になったという…
ここまで、めちゃくちゃな性的遍歴がひどい女がどこにいると?
おそらく、栄太の家的にはまた跡取りが欲しいと望んでいるであろう。
したがって
「ごめん…ほんとに無理…」
としか言えない…
さすがにこんな遍歴、誰にも言えない…
「なんでだよ?」
「栄太さ…私が誰だか判る…?」
「?」
「あの、キンキンの姉だよ?」
「だからって何だよ?」
「あのキンキンと身内になることって、耐えられる?」
「今更なんだよ!?」
栄太は私の手首をつかんできて
「!!?」
「そんなもん。何度でもうまいこと追い返してやるよ!」
「え…?」
「そんなこと気にせず、俺の嫁になれ!」
とまで言われてしまった…
ガシッと手首をつかまれてまでそこまで言われたとなると、もはや断るに断れないじゃん。
どうしよ…
ホントに困った…
「…本当にごめん…。私には資格ない…」
「なんでだよ…?」
やっぱり、このまま何も言わずに去るのは無理らしい…
「私ね…もう子供は望めない体なの…」
「…え?」
「栄太の家は跡取り必要でしょ?…だから無理なの…。ごめんね…。」
とまでは言えた。
少なくともこの情報だけは母さんにも告げてあることだから、なんとか言えた。
さすがに栄太もそれを聞いて顔をうつむいていた。
それでも栄太は私の手首を離してくれなかった。
「……んなこと…そんなこと……どーでもいいっ!」
「え?」
「お前さえ、そばにいてくれればそれでいいんだよっ!いいかげんわかってくれ!」
お前さえそばにいればそれでいい…
そういってくれて…
思わず涙が出てしまった…
ホントにうれしい…
ここまで言ってくれるなんて…
もう、この先の未来にここまで言ってくれる人なんて、この先現れないかもしれない…
このまま…ここにいてもいいの…?
私はこの申し出を受け入れていいの…?
「星子…俺と結婚してください…」
栄太はそこまで言い切った…
「ごめんなさい。」
私は栄太の手を振り切った。
「本当にごめんなさい。私じゃ栄太を幸せにはできない。
栄太。今までありがとう。」
私はその場に栄太を置いたまま、すごい勢いで走り去った。
ここまで本気な勢いで走ったのはもう、学生の時ぶりだった。
本当に栄太には申し訳ないが、これも栄太を幸せのためだ。
栄太。
もし、私がもっとまともな家庭に生まれて妹がいなかったら、私は素直にあんたに嫁いでいたかもしれない。たとえ旅館の女将という過酷な人生を歩まされたとしてもね。
そう思うと私だって悔しくてならないんだよ。
いろいろありすぎて、私は完全に汚れ切った女で、あんたにはふさわしくないのです。
あんたにはこの先には、あんたとお似合いな女の子が現れるはず。
だから、私はあんたの前から消えるね。
私と栄太の長いこと続いた関係は、いったんここでピリオドを打つこととなった。
こうして私は、再度東京へ戻ることになった。
東京に戻って、すぐに着た連絡が…
「星子ーーー。曜子ちゃんも子供ができないんだとー」
と聞いてびっくりした。
さらに詳しく聞いた話…
どうやら、曜子は一度堕胎手術をしていたらしい。
能丸の子か?と思ったら、実の叔父の子だったということだったので、仕方なくおろしたとのこと…。
そんな話。初耳だ。
体裁の悪い話だから、父と母と曜子だけで隠していたらしく、兄もこの事実はまだ知らないらしい。
でそればかりが原因ではなく、それに付け加え不摂生もたたったせいかまた激太りしたらしい。そして終いには、来週には朝日さんに内緒で子宮摘出手術を行う予定らしい。
マジかよ…
それに旦那に内緒で子宮摘出手術って?それあまりにも卑怯じゃないか?
やっぱり、父と母は曜子には甘すぎる…
私でも過去にいろいろありすぎて、栄太からのプロポーズ断ったばかりだというのに…
曜子は朝日さんと半ば強引に結婚した挙句、百貫デブに戻って、不摂生のせいか、子供おろしたせいか知らんけど、子宮とるはめになったって⁉
なんだそれ!?
じゃあ、デブでブスになって、子供も産めない、クッソ我儘な嫁をもらった朝日さんはいったい何得?なわけだ?おまけに子供をおろしたという経歴を持った女となれば、きれいな体ではないことは確定である。
とんだ貧乏くじを引かされたのでは!?
これでは朝日さんがあまりにもかわいそうすぎる…
私はもう、この話を聞いてあきれてものが言えなかった…
やっぱり、曜子と関わるとろくなことがない。
本当にあの後すぐに東京まで逃げてきて、正解だとつくづく思えた。




