キンキンちゃん再来
たいへんなことになってしまった…
すっかり忘れていたことだが、一瞬だけの撮影でドラマ出演していたことが原因で今、ネット上では「あのかわいこちゃんは誰だ?」と話題になっている。
ユキのことである。
ユキのことよりも先に一緒に映っていたのが先月号のkyunkyunに掲載されていた伊集院さんだということがまずバレた。それが原因でkyunkyun編集部には問い合わせが殺到してたいへんだったらしい。
そして、当の伊集院さんはあの時限りの契約だったので、本人だけは特にそこまで被害には合わなかったそうだが、そのモデルと一緒に映っていたあの子は誰だ?という話題でもちきりだった。
「なんか…こわいから…これからはダテメガネして、髪はまとめてベレー帽の中にしまうことにするわ…」
と本当に芸能人にでもなったかのよう変装をするようになった。
「実はもう学校の方では守の方が原因で、すっかりバレているのだけど…、別名番長こと生徒会長さんが全校生徒に無理やり口止めしてくれてて、本当に助かってる…。」
「口止めって…そんなことできるの?」
「まぁ家の学校は「番長の言うことは絶対!」でもあるからね。
実はね。今まで言わなかったけど「女子を傷つけた奴は消される」という暗黙のルールがあってね。」
「って、だから工業高校行ってても彼氏一人まともにできなかったわけ?」
「まぁそういうこと。
まぁ逆に女子から選ばれた存在だったら、仕方なく受け入れられてはいるものの、結構視線は痛いものあるね。」
なるほどね。
「基本「男子たるもの女子」を守るというのが、なぜか教師たちからのおまけの教訓でもある学校だったから、襲われたりすることがまずないから、本当に助かったけどね。」
「だから、一応学校側からでは守られているわけね。じゃあそれだと関われる相手は限られてくるわけだけど…」
「そこは大丈夫。普通に友人としてコミュニケーションとる分には問題ないし、付き合いたいなら、卒業間近とかであれば、あまり言われないとも聞く。」
となると…
こりゃ卒業間近が、ユキの最大のモテ期なのだろうか…
ユキは、少しテレビに出たぐらいのことで話題になるぐらいかわいいから、誰も放ってはおかないだろうな。
本当に3年前にいきなり工業高校に行くと言ってきた時には、工業高校なんて男ばかりの世界でこわいのでは?と思ったけど、こういう工業高校もあるものなのかと今更ながらユキの学校の詳細を知った。
「とりあえず、あと一年。」
「少なくともそれまでは無事に済ませないとね。」
と思っていた矢先だった…
なんとあの情報が曜子の耳にまで入ったのであった。
ユキがテレビに出て話題になっていたとなると、そのユキの隣にいたのは私…
あの画像が世間では出回ってはいたのだが、みんな話題はユキと伊集院さんのことばかりで、隣で写っている私は特に何も話題にもされなかったのだが、曜子は絶対に見逃さなかった。
「たいへんだよ。あんたの妹また来たよ。」
とサキさんから連絡が来た。
「一応、もう月城家から、出るには出たけど…今いる場所も判ってしまう感じですか?」
「んーまぁ当分は大丈夫だろうけど、時間の問題かもね…」
「あと一年…せめてあと8か月ぐらいはもちませんか?」
「あーなんか微妙だな…。なんで8か月?」
「せめてあと8か月すればユキも18歳で、この部屋の賃貸責任もギリギリとれるから…」
「あーね」
ここからユキだけおいて逃げるにしても借主の責任能力がないと受け継がせることはできない。
逃げる時にここの借主をユキにまわしてしまえば、その分面倒なことにはならないと思っていたからだ。
「ところで、あの画像明らかにユキだよね?」
「やっぱり判るか…」
「そりゃわかるよ。ユキに今の部屋を渡すのはいいけど、この先芸能デビューするなら、今の部屋のセキュリティではまずいのでは?」
「え?何の話ですか?あの子にそんな予定はありませんよ。」
「え?そうなの?私、てっきりデビューするとばかり思ってたわ…。それであんたの妹にユキが見つかった日には余計に大変なことになりそうかと心配で。」
なるほど、それでユキ一人を置いていくわけにもいかないわけだ。たとえ、あの子がデビューしなかったとしても、あのおしゃべり曜子にユキの居場所がバレたら、あっという間に世間にバレてもおかしくはない。
「でも、毎回思うのですが、いったい誰が曜子に情報与えているのでしょう…。」
「んー考えるとすれば、私のところ以外でも興信所を使っているとしか思えれないのよね。」
「って、うちってどんだけ、そんなムダ金があるんだよっ!?私になんか、学費ぐらいしか出してくれないくせに…曜子には…」
興信所の金すら出すなんて…
「もしかしたら、親御さんも星子さんのこと探しているのかもね。」
「いったい何のために?もういい年した大人なんだから、放っておいてほしいのに。」
「まぁ逆にうちは早いうちから働かせて、早いうちから外に出してとか、めちゃくちゃだけどね…。」
まぁ月城家も子育てに関しては大雑把すぎるというか無責任すぎるところがある。
「どちらにしても、あなたの親も正直なところ、妹さんを手が付けられなくて困っているのだろうね。」
「え?」
「だから、それを分散させるためにあなたにも妹さんのことを頼みたいのだと思うよ。」
「それって…」
「おそらく、あなたにも東京の学校に行かせるとかすごくお金を使っているわけよね。だから、その代償として妹の面倒を見てほしいと思っているようにも見えるね。」
「見えるねって…私の親にもあったんですか?」
「うん。あれはどう見ても、自分たちもこの子には手を焼きすぎていてつかれてるから、誰かに丸投げしたいって感じだったね。」
「それって…」
お前らが悪いんじゃん。
曜子のことを甘やかしすぎるから。
曜子のことを先生に丸投げしたりして、余計に一家ともども嫌われていたというのに、それすらいまだに気づいてないとか?ホントないわ!
「まぁ親が悪いね。」
「どうすればいいの?」
「あの子が完全に依存できる存在ができない限り、妹はあなたのところに来るでしょうね。」
果たして、曜子にそういう存在が現れるのだろうか?
絶対に無理に近い…
「まぁ一応、時間は稼いでみるけど、うまくいかなかったらごめん。
というかね。あなたが月城家から離れたことが、もう力になれない要因なんだよね。」
そうである。月城についていけば、守られはする。ただし、あの月城は25歳以上の女性雇用は拒んでいる。普通はありえないことであるが、月城本人がそういう考えなのである。だから、どちらにしても出て行かないと自分が困るだけというのが目に見えてわかるために早めに出て行っただけである。
「あの家から離れなければ、なんとかなるのだけど、まぁあのおっさん相手にそれが通用しないからなー。」
「また、あの月城さんに任せるというわけにもいかないですよね…」
「まぁ今はもうあなたとは関係ないから、そうやってまた頼るとあのおっさんなら、あっさりあなたの行き先をバラすことだって大いにあり得るんよね。」
それは困る。
「だから、今まで通り、私も親を頼ることができない。ごめんね。」
結局つまるのか…
何のために結婚してまで名字まで変えたのか?
意味が分からなくなってきた。
そして…夏にはほんとに大変なことが起きた…
曜子があのkyunkyunの編集部に押しかけてきたとのことだった。
そして図々しくも私と一緒に映っていた伊集院さんを紹介してほしいとのことだった。
もちろん、編集部の人たちはあの場限りのモデルである伊集院さんのことなど、よく知りもしなかった。
だから、誰もまともに答えられる人などいなかったが、曜子はしつこかった。おまけにあのキンキン声がいいかげん耳障りになってきてイライラしてきたらしく、編集部の人たちは本当に困って、しまいには警備員に外につまみ出すようにまでいって、おいだされたらしい。
そして…
「おねえちゃんなのよーーーっ!!」
とか意味が判らんことをビルの前で何回も大声でさけばれたらしい。
あのキンキンした大声で叫ばれて、さすがに気持ちが悪くなって警察に通報したとのこと。
それで身元受取人が誰もいなかったので、実家の父が呼び出されたらしいが、
「そんなもん。近場に住んでるその子のお姉ちゃん呼べばいいだろ!」
の一点張りで話がなかなか通らなかったらしい。
何度も連絡をしても私も番号を変えて通らなかったし、父もそれに気が付くのに遅くて曜子を受け取るまでにかなり時間がかかって、
「はっきり言って迷惑です!いくら成人してるとはいえ、ここまで迷惑をかけるような人に遠出をさせないようにしてください!」
と警察にまで、そこまで言われたとのこと。
もう、これはサキさんもこの先の依頼もまだ曜子から受けるかどうかについて考えたかったため、一応、曜子のことはずっと見はっていたとのこと。
「さすがにもう無理だわ」
という結論に至ったらしい。
「まぁ今回のことで懲りて、東京には来ないことを祈るわ。
もう私にはそれしかできない。」
「ありがとう。私もなんとか逃げ回ってみますわ。
実はもう琴金という名前ではないのでね。結構自由に動けている。」
「お、だれかに養子にもらってもらったの?」
「まぁそんなとこ」
「よかったねー。おめでとう。」
「ありがとう。」
「それなら、まぁなんとか3年ぐらいはもちそうかな。」
「って、そういえば、名字が変わった件、ユキには言ってなかった。」
「やっだー。それ早く言っておいた方がいいよ。同居人でも下手に口が滑ってしまうかもだから。」
「そうね。」
まさか、ちらっとテレビに出ただけで二次被害を食らうとは思わなかった。
迂闊にはもうテレビには出られないなということを思い知ったが…私はまた、テレビに映ってしまうことになってしまうのであった…
本当にその時はもう言い逃れができない状態となるのは、この時の私はまだ知る由もなかった。
ただそれはもっと先の未来であり…その時の私は…最も曜子や実家の家族には会いたくない時だったといえよう。




