来る者去る者 それぞれの事情
ごめんなさい。更新したと思ったら、なぜかされていませんでした。
「なるほどね…。それで延長したわけか…。」
月城の部屋の前を通り過ぎようとした時、聞こえてきた。
なんだろ?
誰だろ?
月城が何か話しているということは、だいたい何らかこの家の秘密が判ることがあるということ…。
「まぁいいだろう。」
「…」
「で?次の働き口は決まったのかね?」
「はい」
「で?もう住居は決まったのかね?」
「はい」
とりあえず、月城の話し相手の返事は聞こえてくる。
「んー。そうですか…。
もし、何も決まっていないのなら、君だったら、日渡家の召使に推薦状書いてあげたのに…惜しいものだ。」
ん?日渡って?あの洋生くんの家よね?
「日渡家だったら、安定してるし年齢制限もない。君にとってぴったりな移動先だと思うのだけどね。」
「恐縮です。実は私もこれまで長いことこちらで務めさせていただきましたが、他の分野でも活躍したいと思いまして。」
「ところでその君が活躍したい分野とは何だね?」
「はい、わたくしこのたび、心理カウンセラーの資格と取りまして…」
「ふむ、なるほど。
君はこっそり通信高校も卒業していたぐらいだ。どうも君は私が知らない間に心理カウンセラーの資格もだが、運転免許証、着付け師、情報処理技術者試験まで取っていたみたいだね…。」
「はい。
25歳定年制度とを早いうちに小耳にはさんだものですから、自分から何か動かないとここを出た後で生きていけないと思い、資格を取らせていただきました。」
なんか、この家って相原君以外にも勉学励んでいる人はやっぱりいるのですね。
実は私も相原くんから、「使用人への資格取得を援助」という月城の地味な投資システムを知ってから、自動二輪の免許を取得させていただきましたよ。
もちろん、身軽に曜子から逃げるための手段としてではあるけど…
それにしても、私と比べるとこの方の目的はおそらく私よりもはるかに目的がクリアでしっかりしているとは思う。
いったいだれなんだろ?
「君という人は…いったい誰から、私が使用人への資格取得投資をしているということを知ったのかね?」
「それは…」
さすがに言いにくいだろう…
「ずいぶん大昔なことなので、忘れてしまいました…」
まぁ妥当な答えだ。
誰がそういう情報を流しているかなんてこと言うとなるともうそれは告げ口でしかない。
「ほう…」
「おそらく、私よりも先輩たちだったと思いますので…」
まぁこれもまた妥当な答え方である。
すでにいない人のせいにすれば、誰もお咎めはない。
「まぁだいたい見当もつくけどな…
というか、そもそも君より長く勤めている人なんているの?
君、ここに来たのはいくつの時だね?」
「…あ……と…。
はい、私が就学する前に旦那様に引き取られました。」
「まぁあれはホントにたまたまだったとしか言いようがない出会いだったけど、たまたま出席した葬儀が君のご両親だったということだったね。」
「はいその節は、何も関係のない赤の他人の私を引き取ってくれると言われたときには感謝の言葉もございませんでした。」
「まぁ君に親戚たちが君を押し付けあってるのを見て、ほとんどそのまま君を買ったようなものなんだけど、それでも君はここでついてきてくれた。あとは自由に生きたまえ。ただ…」
「なんでしょう?」
「例の日渡家に移る件考えてはくれないか?」
「え?」
「そのカウンセラーとやらも、不安定な職だろうし最初はやっぱりうまくはいかないと思うよ。だから、慣れるまででいいから、週に2・3回のパートでもいいから、働いてみる気はないかね?
もし、カウンセラーの職でうまくいかなかったのなら、そのまままた住み込みで日渡家で働いてみるのもいいし。」
「…」
「どちらにしてもこの先、君は一応背負っていく生活があるのだから、ここを出るまでに一度それを考えた方がいいよ。」
「なぜ?ここを去っていく身である私にそこまで、面倒見てくださるのですか?」
「まぁ君は特別だよ。長年勤めたこともあり、君とはいろいろありすぎた。
いろんなメイドをここから送り出してきたが、君みたいに地道で努力家のメイドは今までに見たことがない。
だからこそ、君に対しての責任はやはり最後まで取りたい。」
うわ…あの月城がここまでできる思い入れのあるメイドっていったい誰なんだろう?
「ありがとうございます。その件に関しては検討させていただきます。」
と、ここまでは普通に仕事上での会話だが…
「あの…前から疑問でしたが…」
「なんだね?」
「大変聞きにくいことですが、その…三緑さんって…月城さんの子じゃありませんよね?」
「まぁ君も知っての通り、トキができた後に私は手術しているから、すでに不妊なことには違いない。」
え?マジで?月城さん。不妊手術受けていたわけ?
だから、あれだけ節操なしでも余裕そうでいられたんだ。
「って!そこ‼立ち聞きしてるのは判っている!誰だ!?」
え?バレてた!?
「槇原ーーーー!!立川ーーーー!!逃がすなーーーー!!」
いきなり大声で叫ばれた。
もうこれダメな奴じゃん。
「逃げませんよ」
もう、ここは諦めて月城の部屋に入っていった。
この年でユキみたいにおしりぺんぺんされることを言いわたされるなんて冗談じゃない!
それなら潔く現れて、すっきり謝ってしまおう。
部屋の中にいたメイドはララさんだった。
確か、ララさんは今年の3月まで、就職期間を延長していた。
なるほど…
でララさんはメイドでもあるが、月城の愛人の一人でもある。
それなら、特別待遇されてもおかしくはない。
「星子君かね?」
「すみません」
「旦那様、申し訳ございません。」
槇原達が来た。
「ホントに、見はっててくれなきゃ困るではないか?」
「はい申し訳ございません」
「逃がしてしまいました。」
「もういい。しばらく話す。立ち位置に戻れ。」
「はい」
槇原達は出て行った。
さてさて…
「あの…そもそもここ丸聞こえです…。もっと声を小さくするなり、場所を考えて喋っった方がいいかと思います。」
「あーそうだったな。じゃあ場所移す。」
移った場所は月城の部屋の奥にある隔離室だった。
もちろん月城の部屋の入り口も鍵をかけた。
まぁこれぐらいでようやく、盗み聞きも難しいであろう。
「正直に言いたまえ。君はどこから聞いていたのかね?」
って、え?どこからだろう?
「え…っと、ララさんの就職のことについて…。」
「まぁいい。三緑を生んだ後、自動二輪免許を取ってる君からすれば、君は全部知っていたことになるから、もう今さら何も言わないよ。」
まぁどちらにしても、私はほとんど新入りに近い。それに比べてララさんは女性の使用人の中では、一番古株であろう。まぁ私もこれで3年目で、早いことですでにほとんど中堅に入りかけているぐらいだ。ここは出入りが激しいので、よほど後がない人以外はすぐに出ていく。
「まぁちょうどいい。ここに三緑の生母がいる。
話してもいいよね?星子君。」
話してもいいって?私には拒否権などほぼないが、何でララさんに?という疑問はある?
「三緑についてですか?」
「ああ」
ララさんって、考え的に硬い人だ…。
正直なことを言うと怖い…。
「あの…三緑は誰の子であるかは申し上げにくいのですが、月城さんの子ではありません。」
「じゃあ…」
「あ、なぜに三緑に月城姓が付いているかですよね?
それは、私の名字が全国で3件しかないような名字で大変めずらしい名字で目立つもので、三緑には私の名字を名乗らせたくないと、私が主張したらこうなりました。
ということでよろしいでしょうか?」
「まぁ星子君曰く、正直な話。鈴木とか佐藤とかもっと平凡な名前な人に戸籍上の親になってほしかったとのことだけどね。
三緑が生まれてすぐに私がすぐ、勝手に決めてしまったがためにこうなっただけなのだよ。
そこは許しておくれ。」
「私も突然のことだったし、これ以上月城さんにわがまま言えなかったので…」
「ほとんど成り行きでこうなったわけね。」
「まぁ一応今のところは、私が三緑の戸籍上の父なわけで。」
「まぁいいわ。またこの件に関しては話し合いましょう。」
ララさんがいきなり妻の顔になっていた。
「じゃあもう一つ聞くわ。あなたは三緑くんをここに置いていくらしいけど、それはなぜ?」
それを聞かれてしまっては元も子もないが…
私は…
「あのですね。私も無責任に生むつもりはなかったですよ。
でも、いきなり「堕胎は許さない」といわれて無理だったんですよ。
それでいて「月城家に女の定年は25まで」みたいな定年制度の噂を聞いて、それとなるともう置いていくしか選択肢ありませんよね?
それに私、実家の家族から追われている身なんです。
私はね。言葉だけの説得では誰にも理解してもらえないかもしれないけど、あの強烈に非常識家族と三緑を関わらせたくないんです。
連れて行くにしてもあれだけ小さい子を連れて逃げるなんて絶対に無理です。
そんな状況下でなら、あなたならどうされますか?」
「え?なんなんですか?それ??」
「まぁ私も星子君の家族を一部だけ見たことあるけど、かなり強烈だったよ。
みなしごの君からすれば、家族がいるだけましだと思えるところはあるかもだけど、私でもああいうのが身内にいるとなると関わりたくないと思うぐらいだよ。」
この後、私だけ部屋から追い出されてしまった。そのあとは月城とララさんだけでいろいろ話し合っていたのかな…。
就職先なら、私も紹介してほしいものだとは思うが、月城系列のあの一族に関係あるところはイヤかなとは思うのでパスだ。
そんなことよりも…
私に関することで、逆に月城家に来る者もいた。
火口家よりくる、側 希実だ。
この人は二央のハトコ以上に遠い血筋の存在らしく、将来は火口家の…なんになろう?よく判らない存在だ。
火口家から来たことは、月城家の者たちには極秘らしい。特に二央には。
希実が来た時は…
メイドたちが希実に見とれていた。
「あー」
まず声をあげてしまったのがキキだ。
それで…
「だれだっけ?どこの家の子か忘れたけど、お墓参りいたよね?」
「確かパーティにもいたよね?」
「ん?いたかしら?」
ユキは覚えてなかったらしいが、しのぶまでもが覚えていた。
「あなたもここに来たのね?よろしくね。」
「たしか君、男の子よね?」
「え?そうなの?」
「うん、パーティでスーツ着てたもの。」
ユキの友達の伊集院さんといい…このこといい…性別不明に見える子って結構いるのね…。
私も希実に関しては性別は判らなかった。
と二人が希実にフランクに話している中、
どん
すごい勢いで、いきなり二人を押しのけるものがいた。
「ちょっとー二人ともなれなれしくてよー」
相手がイケメンの男の子と知っていきなり出しゃばってくる者…それは…
「はじめましてー。私、高原トキと言います。なかよくしましょうねー。」
「…」
「あなたのお名前は?」
「……よ…」
なんか言っているらしい?確か名前に「よ」は入ってなかったはずだ。
「え?なに?まぁいいわ。こちらへどうぞ。」
トキは希実の腕をつかんで、希実を案内しようとしていた。
その時だった。
「さわるなっ!!」
と希実はいきなりすごい物言いをした。
「…え……?」
トキは希実の態度にすごくびっくりしていた。
「え?どうしたの?いけなかった?」
さすがにいきなり、腕組しようとはなれなれしすぎだろ。
でも
「キーキーキーキー!うるっせぇんだよっ!!ブスっ!!」
その顔で、それを言いきってしまうともう誰も何も言えなかった。
「…」
その沈黙を破ったのが…
「坊ちゃま。そのようなお言葉はお控えください。」
希実のおつきの召使いが何とか諫めていた。
「あぁすまなかった。」
なるほどね…
育ちが悪いとかってこういうことか…
つまり、ここまでひどいので火口家で手を焼いていたわけか。
それでとてもじゃないけど、自分たちでは教育するのは難しいということで、この子をよそに投げ出したわけね。
どうやら、希実はこの人の言うことなら少しは聞くようだ。
「あの、わたくしたちはどちらに向かえばよろしいでしょうか?」
希実の召使がたずねると
「あ、こちらへどうぞ。」
といつも通り小野坂が案内していった。
「びえーーーーーーーんっ!!」
トキは情けないことにその場にへたり込んで、泣き出してしまった。
周囲はそんな時に構っている暇などなく、メイドたちは各自お出迎えが終わったら、すぐに仕事に移っていた。
私はそんな時を目にして…
いいよなーお前はー私はまたあんなわがまま小僧と向き合うことを思うと
かなり鬱だった…
どうも聞いた話…
希実はこっちでは学校へは行かず、
ずっとこの家で礼儀作法や家庭学習を学ぶらしい。
今までもろくに学校には行ってなかったらしく、学業に関しては何もできないらしく、運動神経もいいか悪いかもよくわからないという。そして、人としての一般常識はほとんどなってないという。
はっきり言って希実のとりえは顔だけらしい。
そんな野生児みたいな存在と主に向き合うのが私というのが何とも言えなかった。
これって、学年最下位だったユキの学力プロデュースするより、難しいのでは?とさえ思う。
「側 希実君だ。」
「よろしくお願いします」
一応、人前に出るときには定型文っぽい挨拶ぐらいはできるようだ。
ここに来て早々に、あんな激しい暴言を吐いてしまったゆえに、月城家の者の印象は悪い。
「希実君。
こちらが琴金星子先生。
君の家庭教師で、お勉強を教えてくれる人だ。」
「よろしく」
と一応お互いに挨拶をした。
希実も黙ったまま、軽く会釈をしてきた。
「そしてこちらが、上原由美子先生。
君のマナー講師の先生だ。」
「よろしくね。」
こちらもまた希実は軽い会釈をして挨拶を終えた。
一応、常識なかったとはいえ、ここまではなんとかできるようになってはいたようだ。
「あと皆にも紹介しておきます。
この方が今日より約一年、こちらで希実君の専属メイドを勤める関口美穂君だ。」
「関口です。よろしくお願いします。」
はっきり言って、希実が紹介された時より、すごい盛大な拍手をされていた。
やっぱり、火口家から来ただけあって、誰もが認めるほどの美人だった。
って、あれほどまでにおつきの人は年配でといったはずなのに若いではないか!?
聞いた話によれば、美穂は23…で同い年だ…。
いうまでもなく、美穂はあっさり月城の毒牙にかかってしまった。
そうなってしまった事情を私はまたずいぶん後で聞くはめになる…




