悪い連鎖は止まらない
結局…
3人とも丸坊主にされてしまった。
中途半端にまだらな髪を残すより、いっそ全部そり落としてしまった方が美しいからだ。
それにしても、なんも前触れもなく女が髪を勝手にそり落とされるなんて、誰もが想定できない出来事である。
こんな時、人がひどい目に遭っている時に限って、二央はただただ黙っているだけだ。
というか、よくここまで動揺一つした顔をせずに、静かに落ち着いていられるのか?かといって、喋る時はホントに饒舌なぐらい喋る。こうしてみると彼は彼なりにこんな家庭状況でもかなり上手に生きているように思える。
が、女性がいきなり髪を切られたり剃られたりする場面をさんざん目にしておいて、ここまで無表情に黙ってられる神経が信じられない。
帰りの車の中でユキはずっと泣いていた。
運転手は井上ではなく相原。車を二つに分けての行動だったので、車には私とユキと二央と運転手の相原しかいない。
「ほんとごめんな…。」
相原はずっと平謝りだった。
「情けない話。俺は雇われの身で、主の命令には背けれないからな…。」
まぁそりゃそうだ。
私だって同じ身分なのだから、それはイヤというほど判る。
でも…
「なぜ、私たちの髪を切ったのですか?」
「今ならいえるけど、あの尼寺に入る前に女性は髪の毛を少しでも提出しておかないと、丸坊主にされてしまうらしいから仕方なく切らせていただいた。」
「え?」
それを聞いて、ぞっとした。
当然、そんな事情を知ってしまったユキはさらに動揺していた。
「実は前にも月城さんから、さっきの尼寺に付き合わされたことがあったのだけど、一緒に来ていたうちの一人の女性から、それをすごい勢いで拒否られてしまったことがあってね。それでその時に…俺はすごい光景を目にした…。」
うわ…これ考えただけでも、想像はつくかも…
「今回は罪人の刑罰だったから、多少なりとも頷けるものあったけど、あの時は特に悪いことしたわけでもないのにいきなり丸坊主になってしまったのだからね…。」
なんか、今回私もユキも少しでも間違っていたら、自分が髪をそられていたかもしれないといわけだ。
「まぁあの場で、髪を切られた君らはこの先あの尼寺に世話になることはないよ。」
「え?」
「一応、そういう言い伝えがある尼寺らしいので。」
「でもあのお寺、罪を犯した人が来るとのことだったけど…、普通は罪を犯したし人は刑務所に入るのでは?」
「まぁ俺も詳しいことはよくわからないけど、正式に言えば、罪を犯しても法律では裁けない人や、法律の抜け穴でうまいこと逃げれた人に対して反省を促すためにある寺らしいんだよね。」
まぁ確かにあの3人は、かなり特殊な事情とはいえ人を殺している。
「まぁここまでくると判ると思うけど、月城家って闇深い一族だよね。」
そうだ、あの家はホント意味わからないところが多すぎだ。
「一応あの尼寺について調べた限りだと、全国で7つの一族が関係しているらしい。あの寺は主にその一族とその一族にゆかりのあった者によって支えられている寺らしいんだ。」
てことは私も相原もそれに関わってしまったというわけか。
「まぁその7つの一族は例外なく、裏罪人の子孫。つまり、いろいろな事情で通常では裁けない罪や特殊な身分が原因で罪が裁けなかった罪を背負い続けてきた一族らしくてな。」
「それって…」
闇深いとかそういう問題だけではない。
「それが原因で、これまで先祖の罪を償うため、子孫が寺を建てて先祖のしりぬぐいをするかのように、あの寺で奉仕するらしい。」
なるほど…
「まぁ奉仕というより生贄だな…。」
「生贄!?」
この言葉を聞いて、ようやくずっと沈黙を貫いていた二央が、私の声とハモった。
「各家庭で代々最低一人はあの尼寺に生贄を差し出さないといけないらしい。まぁそれははっきり言って誰でもいいが、それも罪を犯したものならなおの事ベストらしい。」
だからか…
「まぁ月城の旦那は血の問題とか言っていたが、血のつながりはあれば、ないよりかは一族の強い浄化につながるので、寺としては好まれるんだと。実際、その生贄に女子がいない場合、養子の子や嫁さんを差し出すとかもあるんだってさ…。」
って相原お前、よく判らんとか前置きしているくせにめちゃくちゃ詳しいじゃないか!!
「それも更にひどいパターンだと、使用人やそこでの雇われの身の存在もありだし、ただ単に一族に縁があっただけの一族のただの知人とかでも、一応可能らしいから、ホント恐ろしいものだよなー。」
「ちょっとそれって…」
「直に血がつながってるユキちゃんは当たり前のように候補者だったし、月城の旦那の愛人だったマチ子さんでも十分あり得たし、ただの雇われ身の星子さんでも、そうなる可能性はあったということだよ。」
「こわ…」
「とにかく、あの寺に行く女性は何らか、その一族と関係があった人しかたどり着けない場所なんだよね。」
はっきり言って帰宅もなかったよ。こんなとこ…。
「前に俺が同行した土取家は主の愛人を連れて行って、その中で寺に入る前に髪を切ることを拒否した女が生贄になる方式だったということにはホント驚いたよ。」
うわ…他の家には他の家の闇はとんでもなかった…。
他の一族もまた、それぞれの世代に必ず二人養女に取り、ある程度育ったら、どちらかを生贄に出すとかあるという話も聞いた…。
「それで俺は月城の旦那に付き添って、だいたいどの家にも参列してきたのね。でも、不思議なことに結局どこの一族でも、生贄以外の女で寺に入るまでに自身の髪を提出できなかった者は、だいたい過去に何らか罪があった者だったということが、後にバレるんだと。」
これまたすごい話である。
そして相原曰く、月城の家で生まれて、今の時点でこの尼寺とは完全に無関係で免除されているのは、小野坂と朝美の息子である匠君のみらしい。
この話を聞いてしまった今、私は三緑を産んだことで、それがよかったのかどうか正直判らなくなってきた。確かに私自身だけのことはうまいこと回避できた。そして三緑も一応男の子なので、三緑自身も少なくとも尼寺には入らなくて済むが、それ以降のことは私には責任が取れないからだ。もし、三緑の子が女の子だったら、その子を差し出さないといけなくなることだってあるのだから。
今回の代はあの3人が生贄に確定したから、今回の代においては何も考えなくてもいいかもだけど、三緑の代以降はどうなるのやらということである。
私はとんでもない一族と関わってしまった…。
そうです。
せめて私も相原くんの彼女になっていれば、変なことに巻き込まれずに済んだかもしれません。
でもまぁ相原君がそれを申し出てきた時には、すでに三緑がお腹にいたわけで、どちらにしても私は、月城家に巻き込まれることは避けられなかったであろう。
そして…このお寺の件はさておき…
月城家ではもう一人、人生の岐路に立たされていた者がいた。
実は一番末っ子のトキだが、4年生になった今でもまだこの月城の家に居着いている。
どうもトキは、一応冬休みに母親とずっと過ごしてみたが、トキの母親の作った料理がまずかったらしく、結局トキは誕生日ギリギリまで、月城家で過ごすことを選択していた。
そんなのただの延命でしかないことを分かっているのであろうか?
トキは、その冬休み以降かなり傍若無人にふるまっていた。まるで自分が実は月城家のお嬢様であるかのように威張り散らしていた。まぁ本人はおそらく知らないとはおもうけど、トキは一応血筋上は月城家のお嬢様である。本来ならそうであってもおかしくはないが、何も知らされてない状態でそこまで威張り散らすのもやっぱり違和感はあった。
まさかとは思うけど…
トキの母親がトキに本当のことを言ってしまったのかもしれない。という疑惑が晴れなかった。
そして、夏休みが終わって9月も中盤に差し掛かってきた9月14日がトキの誕生日である。
そうその誕生日がついに来たのであった。
10歳の誕生会…
本当に去年とは段違いに派手な誕生会だった。
「ありがとう!!」
そして更なる違和感がったのだが…その誕生会にはトキの母親は来ていなかった…。
「トキちゃーん。今日お母さんどうしたんだろうねー。」
「あーいいのいいのー。
あの人最近、私の参観日にすら着てないしー。なんか、それ当たり前になってきてるからー。」
と本人はあまり気にしていない様子だった。
それに母親をあの人呼ばわりって…
なんか、トキもすごく変わった気がしていた。
最初は私の目の前でも謙虚にしていたけど、キキがメイドになってからというもの、すごい性格が攻撃的で傲慢になってきたことはもちろん…
何よりも…あれからトキは激太りしていた。
私がここに来たばかりの時は、普通に平均体型でかわいかったが、ここ一年半で…もはや許せないほどのデブになっていた。
もう、ここまで醜くなるとさすがにみたくもないほど、かわいくないのだ。
この子とも、今日でお別れ思っていた。
ところが…
「本日より、メイドとして働くことになった高原トキくんだ。みんなよろしく頼むよ。」
と翌日の朝、いきなり紹介された。
「いやだーーーー!とき、やりたくなーーーいっ!!」
キキの時と違って、朝からやかましかった。
ああやかましい言ったら曜子のことを思い出す…
曜子はいまだにこんなだ。
まぁトキは曜子ほどキンキン声じゃないだけましだとは思うが、
「話が違う!トキ!こんなの納得しないっ!」
自分の思い通りにならなかった時の反応が曜子といい勝負なぐらいにうるさい。
しかしなんで、未だにトキがここにいるんだろう?
確か、母親が残業で誕生会に間に合わないから、昨日の夜遅くに迎えに来る手はずじゃなかった?
はっきり言ってこんなうるさくて迷惑な子がここに残っていてもうざいだけなので、正直母親に連れて行ってほしかった気持ちはある。
私も含めて、この約一年半ぐらいは時に手を焼いていたものが多いはずなので、私と同じことを考えてる人は多いはずだ。
納得できないのは、私たちの方だ。
「では、この子の教育係なのだが…」
と月城が言った時、
「それどうか私に任せてください。」
真っ先に手を挙げたのがララだった。
月城はララを見てびっくりしていた。
「君は確か…3か月後に…」
確かララさんは年齢敵に年内にここを去らないといけない立場だ。
「そこのことに関してお願いがあるのですが、私がこの子の教育係をすることで、来年の3月まで期限を延ばしていただけないでしょうか?」
まぁおそらくはなるべく長く、勤めたいのであろう。
再就職先だって、そう簡単には決まらないだろうからか…
「まぁいいでしょう。だいたい半年もあれば、なんとか育つだろうし…。じゃあ、教育係はララ君にお願いするよ。」
教育係は決まったが…
「トキー、こんな仏頂面のおばさんやだぁーーーーーっ!」
「…」
「そもそも、トキに教育係なんていらなーーーい!」
すごい我儘を言っていた。
「だいたい、なんで時が召使なんかやらなきゃいけないのーーーー!?」
「お願いだから、静かにしてくれないかね?」
月城が落ち着いて説得しても無駄だった。
「だってーーー、ホントはトキはこの家のお…じょ………。」
それを言いかけたとたん、月城はトキの口を押えた。
トキは事実を知っていた…。
「黙りなさいっ!!」
いつもは物腰柔らかな口調で話す月城がいきなり大声をあげた。
「こんな時に言いたくはなかったが、
残念なことに君のお母さんは、君のことを捨てたんだよ。」
「!!?」
まさかのあの母親がトキを捨てたと?
「君があの冬休みにお母さんに何をしたか、私は詳しくは判らない。しかし確かあの頃から君のお母さんは、君のことを捨てると決めていたらしいよ。」
多分、トキのこの性格だ。母親にとんでもないほどの我儘をいったにちがいない。
「君のお母さんはね。学生時代に退学に追いつめられるほどのひどいいじめに遭っていてね。それ以降意地悪な子が大嫌いなんだよ。」
だから、この子を捨てたわけ?
「まぁ君のお母さんはそれでもめげずになんとか高校を卒業できたよ。それどころか短大まで行ったすごい子だよ。そしてその短大一年の時に君まで産んで、すごい人生送ってきてたよ。」
ああこれもまた学生の間に子供を産ませるという、めちゃくちゃなやり方だったか…
つまり、その当時JKだったトキの母親をあんたが抱いたということだよな…
まぁエリナもトキの母より若い歳から、月城の愛人やってるんで今さら、月城が自分の年齢の半分以上も若いJK抱いたことがあると聞いても驚かないが、まさか現役JKにもてめえの種を仕込んでいたとは…と思うと呆れる。
「諦めなさい。君は親から捨てられたんだよ。君には実質上母親しかいない。だから君はもう、ここで働きながら生きていくしか選択肢はないのだよ。」
その時、トキは月城の手を
がぶっ!!
月城はトキの口から手を放してしまった。
「はなせーーー!くそじじーーーーっ!!だから、お前はリキからもなめられてたんだよーーーっ!!」
くそジジイ呼ばわりにお前呼ばわり…。
ホントことごとく口が悪いガキだ。
トキはすごい勢いで月城をにらんでいるが、
その瞬間、また後ろから今度は槇原に押さえつけられた。
さすがのトキも槇原相手では、どんなに暴れても無駄だった。
月城は呆れをなして、
「教育係に就任したばかりで悪いけど、ララ君…。
これでなんとか、あの子をおとなしくさせてほしい。」
月城はララに、小さな小箱を渡していた。
ララは少しだけそれを開いて中を見ると「ハッ」とすごい驚いた顔を見せた。
それを見てふたをすぐに閉めた後、不安そうな顔で月城の顔を見ていたが、
「こればっかりは仕方がないことだ。君に任せた。」
ララもかなりしぶしぶ承諾せざる得ない状態だった。
「では今日の伝達はこれでおわりだ。
槇原と加藤はひとまずこの子を医務室に連れて行くように!
ララ君も槇原達についていくように!以上!」
月城がそういい終わったとたんに、相変わらずトキは部屋から連れ出されて行ってしまった。
1年半前のキキの時とは大違いな対応だったことには本当に驚いた。
そして、トキが出ていって10分もたたないうちに…
「ギャーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
屋敷中に響き渡るぐらいの叫び声が聞こえてきた。
おそらくこれはトキの叫び声であることは、この屋敷内にいる誰もが判っていたであろう。
この時、トキに何が起こっていたかについてはまた別の話で…。




