キンキン堂々爆弾宣言
4月…
ユキは無事に高校生になれた。
それもだ。
すごいめずらしいことに月城が初めて我が子のために大きく動いたのであった。
なんと、月城が学校側に来年度からは女子の制服を作るように話を持ち掛けたらしい。
本来ユキの学校は工業高校であるため、女子は指で数えるぐらいしかいない学校である。それ故に女子は中学の時の制服をそのまま使うことが校則だったらしい。ユキはなるべく、お金をかけなくてもいい学校ということも考えて工業高校を選択したとも聞いていた。
(ちなみに双竜工業の男子の制服は学生服の基本形なので、男子もまた学生服を使用していた場合、中学から来た子は制服のボタンの交換のみの状況だった。)
まぁこの学校の女子の中にはユキと同じく、制服すら買えない家庭の子もいたらしく、「今更?」というクレームが起きないように、来年度の合格者の女子全員(とはいえユキ含めて4人)に、月城からの提供で制服が無料配布するという条件まで持ちかけられたのだった。
あとついでに「なんなら、来年度も残る先輩たちにもいかがですか?」とまで言ったそうな。
学校側からしてもそこまでの申し出も断るわけもなく、あっさりと承諾したそうだ。
そう、その新作の制服を着たユキの入学式。
それも工業高校とは絶対に思えれないデザインには驚いた。
どう見てもどこかのお嬢様学校のような制服だった。
上下紺のブレザーに、紺の1センチ幅の細いリボンとベレー帽。といったスタイルなのだから。
ちなみにさらにすごいのは、ベレー帽とリボンの色は学年色があり、3年がエンジ。2年がカーキー。1年が紺とかなり贅沢な制服だ。
(ちなみにデザインは相原君が考えたものらしい。)
サキさん曰く…
「私の時はこんなんじゃなかったぞ」
とかなり、羨ましがっていた。
まぁ、言われてみれば工業高校で女子の人数が少なかったから、持ち掛けられたものである。それも元々女子には決まった制服がなかったからこそできたことだ。普通の学校だったら無理な話である。
そして、月城は初めて我が子の入学式に参列したのだった。
そして私も今、その月城の隣に座っている。
ユキの方から、私に来てほしいと指名されたのだった。
「君がやったんだろ…。」
「…」
バレていた。
「まぁ何の因果か、君とユキを同じ部屋にしてしまったからな…。」
「おそれながら、ユキを生徒にしてはいけないとまでは言われてませんでしたので。」
「ほほう。なるほど、おもしろい。」
おもしろいんかよ!?
「まぁいいだろう。予想がだいぶ外れてしまったが、こうなる世界線も悪くはない。」
反応的に残念ながら、結局この人の中身を変えることはあまりできてはなさそうだ。
「世界線って??」
「ああこっちの話だ。君はまだ知らなくていい。」
なんなんだ??世界線って!?
「まぁあれだ。さっぱり期待してなかった子が、予想外の方向でのし上がっていく物語も悪くはないと言いたいのだよ。」
ああそういうことか…
でも…やっぱりなんか違和感…。
「あの…」
「なんだね?」
「こんな時になんですが…」
こんな時というか、こういう時でないとどうしてもこのおっさんと二人きりで話し合わないといけないのだから、本当にこういう時でしかまともに話せない。
「私の給料のことなのですが…。」
「なんだね?まだ不足かね?まぁユキまで見てもらっては…」
「いえ…そうじゃなくて、どう考えても一人分多いのでこれからは一人分言及していただきたいのです。あと今まで支払われた分をお返ししたいと思います。」
「なぜ?」
「大変いいにくいことですが、最近、リキちゃんが来ていないので、その分をいただくのは大変申し訳ないかと…。」
「いいんだよ。」
「…え?」
「給料は私からではなく、リキの母親から払われている。」
「でもそれだと…。」
「かまわん」
「では、私に支払うのではなく、以前通っていた塾に行かせるとかさせてください。そうでないと…」
「リキが来ないのはリキの意思でしかない。」
「…」
「仮にリキに塾に行くように言ったとしても、今のリキにやる気はあると思うかい?」
多分ないであろう。
「塾に行くようになれば、外部に出るいうことだから、リキは余計に自由に行動するのではないかね?」
確かにだ…
塾に行くということは家の外で行動するということ。
そうなれば、いくら送り迎えをするとしても塾にいると思われる時間は使いようによっては自由の身になる。ギャル化する前のリキだったら、真面目に塾に行くと思うが今のリキではどうなるか判らない。
「ならば、家から出さない方が監視もできる分安心だ。」
「では、リキちゃんがまともに進学できなかった場合、リキちゃんのお母さまにどう顔向けすればいいか、私…。」
「大丈夫だ。君は一切リキの母親に関わらないでいい。あいつには私から報告しておく。」
それにしても後味が悪すぎる感じはする。
「そんなことよりも、これからはユキの方も今まで通りこっそり頼むよ。これで二人ぶんだから、これでいいだろ。
これからの二央付きのメイドはリキからユキに変える。まぁリキはああなってしまって、メイドの仕事もおろそかになってるし、二央もユキなら嫌がらんだろ。」
すごい久しぶりに月城といろいろと話し込んでしまった。
ここまでリキのことでは、すごく悩んできたが…
一方ユキの方も…
「もう、いきなりこの家の事情知ってからホントびっくりしかなかった。」
ユキもまさか自分が月城の子だったなんて思ってもなかったのだから仕方ない。
それも、ずっとみなしごだと思っていたのに、いきなり月城から自分が父親だと聞いた時は、涙しかなかったらしい。
「かなり傷ついたし、うれしくもあったしで、訳が分からない気持ちだったのよ。」
そりゃ複雑な気持ちにもなるわな。
「それも大事な受験直前で、そんな事カミングアウトされて、これがいわゆる受験前の妨害?とさえ思ったぐらいだもの。」
まぁそう思っても無理はない。
「それにしても15まで、何も言わないなんてやっぱりどこか悪趣味過ぎない?」
とはいえ、月城家の子はみんな異母兄弟ばかりだ。
その事情を伝えるにしても、ある程度歳をとらないと厳しいと思っての対処であろう。
「そのせいで、高校に行けなかった姉さんもいたというのに。」
まぁ、おそらく高校に行けるいけないは、多分誕生日のはやさにもよると思うが、聞いたところ5月生まれのマキさんでも受験に失敗したとのこと。だから、やっぱり何かしら妨害はあったかと思う。
「私、本当に星子先生には感謝してる。もしあのままだったら、本当にぞっとするもの。」
「やっぱり…詳しい事情知っちゃったの?」
「そうね…ナキ姉…嫁に出されたのよね…。」
あいつ、ことごとく思春期の娘の気持ちをえぐるようなことを言いやがる。
「いきなりいなくなったナキ姉のことが気になったから聞いてみたら…あの男、あっけなく暴露したよ…。」
「ごめん…黙ってて…」
「仕方ないよ。この家じゃみんなあの男の言いなりなんだから。
それにしても、自分の娘には手は出さない代わりに早々に嫁に出すなんてありえない。それも16で…。」
そうだ。下手したらユキだって、高校生になれなかったら、来年嫁に出されてもおかしくはないのだ。
一応、月城も娘が学生の間は嫁に出す気はないとは聞いている。
「だからだよね?私に進学校を進めずに職業訓練校な高校を進めたのは…。」
「そうね。とりあえず、高校卒業できたとしてもこのままここにいるのはまずいよ。
ここだけの話だけどね。気が付いているかもだけど、25歳以上の女はいられないのよね。」
「それだけは知ってる。あの双子がそれ言ってたの聞いたもの。だから、少なくともここを出ていくための費用だけは稼がないといけないと思ってがんばってきた。
でもまさか、その24歳までの期限が付く前どころか、成人する前に嫁に出されるとは思わなかったから、期限が迫ってるということよね。」
思っていたよりもしっかりしてる。
「でも私がもらえる給料って、はっきり言って高校生の小遣いより少しばかり多いぐらいなのよね…。まぁずっと孤児だと思っていたから、それでも雨風防げて食事や衣服も与えられて、その上学校まで通わせてもらっていたのだから仕方ないと思っていた。」
ホントなら、この家の主のお嬢様なのだが、この家の主が狂っている思想なだけにこんな苦労を背負っているのだ。
まぁ「女子に学はいらない」とまでは口に出してはいってない。一応、娘にはチャンスは与えている。家庭方針上は暗黙でそうなっているわけだ。
ユキが高校生になったことで、月城もかなり動いてはくれたものの、月城本人の考えは以前とはあまり変わっていないのはさすがに厳しいな…。
ユキのことは、それなりにうまく運んではいるが…
問題はリキの方…
かなりまずい方向に進んでいた。
私たちが、ユキにかまけてばかりいた隙に…
「私、誕生日前に女になったから!」
といきなりリキの爆発宣言!
「これで対等ね!」
とリキから、もう私には何も言うなとばかりな牽制を取られた。
それも、月城を含め屋敷の者のほとんどがそろっている夕食時の食卓でそれを言ったのだ。
リキはいつの間にか女になっていたらしい。
まぁこんな狂った家庭環境じゃ、いつこうなっても無理はない。
リキは特に私の方を睨みつけている。
やっぱり対抗心は私にあるようだ。
そこへ
「ほーん。おめでとう。」
と月城の一言。
たった一言でリキはその場で震えだした…
「イヤぁ、リキもようやくか…。私は14の時だったよw」
月城は誰も自分に勝てる奴はいないと思っていそうだが、私は13の時だ…。
「…てぇ…」
それにしても自分の娘が自ら自分が女になったことを親に向かって告白しているというのにこの軽さ…やっぱり異常だ。
「ではみんな、林野リキくんに盛大な拍手を!」
とまで言い出した。
こんな時誰も拍手などしないかと思ったら、なんとこの場にいたほぼ全員が拍手しているのだ。
信じられない…。
私はまた、そんな異常な月城家を目の当たりにしてしまった。
そんな中、相原が…
「おい、ここは拍手しとけ…でないとたいへ……」
と言いかけたとき、月城の目線は私にあった。
よく判らないが、私も急いで拍手をした。
どうやら、拍手をしないと大変な目に合うらしい。
「さいってぇっ!!!」
リキは大声で叫んでそのまま部屋を出て行ってしまった。
その時のリキは半泣き状態だった気がする。
それから、ゴールデンウィークを含む2週間ぐらい、リキは家には帰らなかった。
二央も二央で
「ああ、よくわからんけど、あの場で拍手だけはしておいて正解だ。よく判らんけど、ああいう場で合わせておかないとあいつのあたりがきつくなるんだよ。
それですぐに消えてった奴もいるんで。」
「それにしても」
「まぁこの感覚になれた俺も相当おかしいかもだけどな。
大丈夫。ユキより下のおこちゃま3人はメイドのララが、急いで部屋から連れ出していたよ。」
ララさんって…名前は目立つけど、存在そのものは目立たない人だ。
ただ二央曰く、自分が物心つく前からここにいる人で、それでも年齢は今年で25になるらしい。
でユキ曰く、かなり作法に厳しい人らしい。
だから、ああいう大人の事情とかモラルに関してはすごく敏感で、子供が巻き込まれそうになるとすぐに動くらしい。
「まぁあの人がいるのは、せいぜいあと半年ぐらいだろうなー。
かといって、あの人もかなり長いこと、あいつの愛人のうちの一人だけどな。
まぁここにいる限りは否応なく巻き込まれるから、不憫だけどなー。
俺も途中まで自分が孤児だと思って育ってきたけど、あの人はホントに孤児だからなー。
たまたま、あいつに拾われただけみたいだしなー。」
まぁここにはホントにいろいろな事情があって共同生活している人が集っている場所だということは、今となってはイヤというほど判った。
「でもさ、私どうしよう…。
月城さんが「リキちゃんの責任は全部自分がとる」みたいなこと言っていたけどさ、なんかそれだとこっちがいろいろ代償背負いそうで怖いんだよねー。」
「まぁそれは考えすぎだけどな。」
だといいけど…
どちらにしても、私はあの人にいろいろ借りを作りっぱなしなのである。
ここを下宿先として使わせてもらっていること。
労働以上の給料をもらっていること。
こんな時に子供まで生んでしまったこと。
子育てまで、ほとんどここで丸投げ状態になっていること。
そして曜子のストーカー問題を押さえてもらったこと。
もう、このままただでは済まないほど、頼り切っている。
それどころか本当に迷惑かけまくっている。
だから私はここで命令される仕事という仕事はもはや何一つ断ることはできないであろう。
そして、数か月後…
今度はリキが妊娠してしまった。
そして、リキは誰にも相談せずに勝手に堕胎したとのこと…
さすがにこれには月城も…リキのことを許さなかった。
そして月城がリキに下した判断とは…




