キンキンちゃんの保育園デビュー
あれから2年たった。
私は私を守るために自分を変えた。
私はもう以前の私とは違う。
「信二ーーー!こっちにパスっ」
私はもう、小さい子の面倒は一切見なくなった。
あくまで同い年の子と一緒にサッカーやドッチボールとか外遊びを積極的に参加するようになった。
そうしておけばもう、妹の面倒を押し付けられずに済むということがわかったからである。
最初のうちは全然なれずに苦戦したが、慣れてしまえば結構自分に向いているんじゃないかと思えれるほど、うまくなっていた。
私は今、そのサッカーで遊んでいる。
先生たちはみんな、私がいきなり変わってしまったとばかり言っている。
もう、何とでも言え!って感じだ。
私が保育園を卒業するまで、曜子を保育園に入れない!
という私が立てた目標は達成したので、私的にはあれから残りの保育園生活を普通に過ごせた。
あれから結局、私は曜子のせいで嫌な思いをした。
母は私の面倒見の良さの評価について、保育園の先生から常々聞いていた。
そこに目をつけて、母は私に曜子の面倒を見てもらおうとすごい勢いで期待してきたのであった。
まだ3歳児に対してだ。
確かに、私は赤ちゃんクラスで一番やんちゃで荒れていたダイちゃんを手なずけることができるほど、すごい子だとは言われていたよ。
たったそれだけでそこまで期待されても困るのだ。
それもあんな怪物をどうにかしろだって!!?無理に決まっている!!
そりゃ赤ちゃんというものは泣くのが仕事だとは言うけど、あれはない!
もうほぼほぼ一日中ギャン泣きしているのだ。
それもまた、とんでもないほどのキンキン声で、家の中で一番遠い部屋にいても耳の中に響いて来るし、その声を聞いただけで頭にまでキーンと来て、毎日が頭痛になりそうなぐらいのストレスがたまるのだ。
確かにあんな鳴き声を一日中聞いていれば、曜子を誰かに押し付けたいという気持ちもわからんでもないが、わずか4歳の子にそれを押し付けるのはない思う。
それも最近は、曜子もよくしゃべるようになって普通に泣いているよりもうるさい。
「よーこ、これやーだー」
いっちょ前に主張するようになってきてめちゃくちゃめんどうだったりする。
うるさいなーそんなもん私だってお前のことなんかヤダわー。
だから聞こえないふりして無視していたら…。
「やーだーやーだーやーだー」
あの凶器でしかないキンキン声で、耳元まで近づいてきて自分の主張をしだす。
いうまでもなく私の耳は限界だ。
そこで私は手で耳をふさいだのだが…。
「うわーーーーーーーん。」
余計にでかい声で泣き出すのだ。それもあのキンキン声がいつもの10倍ぐらいのでかい。
そんな声を聞きつけて
「え?なにがあったん?」
いうまでもなく、いきなりそこに来た母の足音も母のその一言も曜子の無駄にでかい声にかき消されて聞こえなかった。
だからいきなり母が来て、私が耳をふさいでいるのを見て、母は私の頬にいきなりビンタしてきた。
本当なら言葉で何か諭したいところだが、曜子のでかい声が原因で言葉での話し合いなどできるわけがないので、そうするしかないのだった。
とはいえ、力はかなり加減されていたので、実際はただ単にびっくりするだけで痛さはたいしたことない。
まぁそれでも今となってはこれはかなり深刻な問題として取り上げられるだろうが、何分まだ平成の世が始まったばかりの時。
それでもまだ、こういうことは消えてはなかった。
これ?私も悪いのか?
これ?私も大人げないのか?
私が今日着る服ぐらい私が決めて何が悪いの?
私が好きなの選んじゃいけないの?
なんでいちいち曜子の言うこと聞かないといけないの!?
そんなこと私の勝手じゃんか!!
それが原因で、母は私にわけも聞かずに横っ面ひっぱたくなんて理不尽すぎやしないか!?
ほんっと曜子ってめんどくさい!!
だから私は曜子が大嫌い!
相手は明らかに物心つく就園前の年の子。
なら大人げない言われるかもしれないが、私は毎日がこれなのだ。
いい加減イヤになる。
耳ふさいで無視することしかできなくないか?
それをあの聞くだけで気持ち悪くなるようなでかい声で、毎日耳元で大声で叫ばれてるいうのに、耳をふさぐないうこと自体が無理がある。
それがめんどくさいと思って悟った兄はもう曜子の言うがまま、適当にあしらっているが私はいやだ。
あの忌々しいキンキン声の言いなりになるのは、どう考えても負けた気がする。
そして来月には私の気持ちを理解する犠牲者が増えることは予想される。
来月の4月には曜子は保育園デビューとなるからだ。
そしてそれと入れ違いに私は小学生となるから、少なくとも学校にいる時間だけは曜子とは無関係でいられる。
そして今まで私に
「星子ちゃん、お姉ちゃんになったのにどうして?」
「おねえちゃんなんだから、少しは面倒見ようよ。」
「前はこんなんじゃなかったのにどうして?」
と保育園の先生たちは口々に言ってきたけど、おそらく来月になればそれがわかるであろう。
まぁこれで。曜子が内と外では態度が全く違うタイプなら、私が一方的に悪者になるだけだろうけど、それでもいい。
そこまでしてでも、私は曜子とは家でも外でもかかわりたくないのだ。
それにもう、保育園の先生たちとは卒業しちゃえば会うことなんてないのだから関係ない。
今まで私にさんざん言ってきたけど、今度は保育園の先生が勝手に苦しめばいいとさえ思っている。
冷たい話だが、私が以前の私とは変わってしまってから、保育園の先生の中にはすごい勢いで説教してきた先生も一部いたので、私の気持ちをわかってほしいとさえ思っているのが本音だ。
そんな気持ちのまま私は保育園を卒業した。
そして4月になる
「うわーーーーーーーーーんっ!!!」
保育園ではほぼ毎日、園内中に響き渡るかのように曜子の声が聞こえているらしい。
まぁここからは私が一番気に入っていたかなえ先生から聞いた話。
かなえ先生は今、年中クラスのA組である通称きいろ組の担任をしていると聞いた。
曜子がいる学年ではないので、かなえ先生自体はあまり被害はないらしいが、曜子がいる2歳児クラスは毎日が大騒動らしい。
今年初めて乳児クラスと担当したまきこ先生は、かなり長い年数働いていてベテラン先生ではあるが、今まで奇跡的に一度も乳児クラスを受け持ったことがなかったので、新学期早々に1週間ぐらいいきなり休暇を取って逃げたぐらいだと聞かされた。
ちなみにまきこ先生は私の年中クラスの時の担任で、いきなり変わってしまった私にさんざんイヤなことを言ってきた先生である。
どうやら、私の妹が来ると聞いて、おとなしい兄としっかり者の私の妹なら聞き分けがいい手のかからない子だと勘違いして、自ら2歳児クラスの担任に立候補したらしい。どうも少し前から園長が「どの年齢の子でも対応できる先生を増やしていきたい」という方針を前々から考えていたらしく、あのまきこ先生もついに乳児クラスの仕事もできるようにならないと、まずい立場になるっぽかった。
だから、まきこ先生は今回慌てて、乳児クラス2歳児の担当を申し出たらしい。
「そもそもさー、あの人結構ずるいんよー。毎回自分ばっかり要領よく楽なクラスをさっさととっていってさー。」
とかなえ先生は子供の私にそこまでの愚痴を言ってる有様だった。
「うん、そんな気はしてた」
と私まで適当な相槌を打っているのだから、話しやすいんだろう。
まぁ私もまきこ先生のことはあまり好きではないので、それは本当に正直な気持ちだ。
それはそうと入園早々、先生たちは曜子にはほとほと手を焼いているらしい。
普段から、無駄にでかい声でしゃべるのは当たり前のこと。
そのでかい声の威圧感が原因で、何が何でも黙らせたいと思う子はやっぱりいて、しまいにゃ手を挙げる子が絶えないこと。
もう、曜子がいるだけでトラブル続きであること。
そして曜子はそれだけでは済まなくてよく泣く。
それもただでさえキンキン声でやかましい声だというのに曜子の泣きざまは普段喋るよりも100倍はでかいのでは?と思うぐらいでかい声出して泣く。
同じクラスの子と言い合いして自分が思い通りにならないとギャン泣き。
自分がけんか吹っ掛けるようなことをしておきながら、返り討ちに合えばギャン泣き。
ただ単に転んだり、ぶつけたりしただけでも超ギャン泣き。
もうほんとにいい加減にしろと言いたくなるぐらいでかい鳴き声で泣くと聞いた。
まぁ家でもそうだ。
かといって「そのいい加減にしろ!」という先生の怒る声ですらかき消されてしまうぐらいのレベルなでかい声なのだから、だれも曜子のことを止められる者はいないのもわかる。
おまけに曜子の性格も性格でめちゃくちゃめんどくさくって、誰も相手にしたくない状態らしい。
年長クラスの子に生意気に無駄な正義感を主張したらしい。
それで次の日年長組全員から無視や塩対応されたら、自分の主張が通るまでしつこくその主張ばかりをあのクソやかましいキンキン声で言い続ける。
それで一度疑問に思ってしまったことは、一休さんの「どちてぇー坊や」みたくかなり深掘りして「どうして?そうなの?」を連発してしつこく聞いてくるらしい。
みんなめんどくさい曜子とはあまりかかわりたくないから、なるべく「あぶないから…」とか単発的に言って離れようとするが、そうすると
「どうしてあぶないの?」
みたいな感じで、短く済ませようとすればするほど、付きまとってくるらしい。
もうしまいには、めんどくさくなって「そんなこと先生に聞いてよ!もともと先生が言ってたんだしさー」と言って先生に丸投げする子が続出していて、先生たちも迷惑してるらしい。
誰もがみんな曜子と関わるにしても、なるべく手短にしか関わりたくないと思っているのだけど、本人はそれは何も気づいていない様子なのである。
で一度、懐かしれてしまったら最後。もう知らないうちにいきなり背後にいて、いきなり輪の中に入ってきて輪をかき乱すらしい。イヤかき乱すというより、曜子がその輪の中に入ってきた時点で、そこの空気はシーンと静まり、曜子が一人で勝手に盛り上がっている間に各自解散の流れになるらしい。
優しそうで誰にでも平等な態度をとっている子や、そこで逃げ遅れた子とか、曜子の標的になりやすいらしい。
そして、曜子がなついているのは誰かということがばれたら最後、しまいには同い年の子や仲がいい子からも仲間外れにされてしまった子もいたらしい。
かなえ先生の話を聞いて、うわーやっぱりなーと思えた。
まさかまだ保育園生活が始まったばかりだというのに、自分の妹がここまで嫌われているとは…。
ホント恥でしかなかった。
曜子はホントは1歳児クラスから入園する予定だったけど、私が無理やり適当な理由つけて父の考えを誘導して、一年遅らせたのは本当に正解だった。
「でさー、曜子ちゃんの公園デビューの話とか知らない?その時の様子とか知っていたら、教えてほしいかなーって。」
ああやっぱりそれか。
「母さんはなんて言ってたの?」
「それがさー。あの人、常ににこにこへらへらと笑顔を崩さなくてさー。「公園では問題なく元気に遊んでましたよー」と自信持った感じできっぱりと言っていて、それ以上のことはどの先生も聞きづらくなってしまったというかねー。」
まぁ確かにあの見た目も中身も肝っ玉母さんを地で行くあの人には、なかなか聞きづらいことはある思う。おまけにかなりの自信家過ぎて回りも何とも言えなくなる気持ちはわかる。
「そうなんですね。」
確かに曜子が講演で遊んでいる様子など、私は一度も付き添ったことがないから知らない。
でも、話を聞く限りでは曜子は講演で問題なく遊んでいたという話は聞いたことは何度かある。
「お兄ちゃんなら知ってるかもしれない」
心当たりあるとすれば、兄が1回だけ曜子に付き添って公園に行ったことがあるような記憶が確かにある。
「え?太郎君が?」
それでなんでかその時、兄はボロボロになって帰ってきたんだよね。
あの時、兄は何も言わなかったんだけど、たぶんなんかあったとは思う。
確か、あれを見たのは曜子がもうすぐ3歳になるぐらいの10月最後の日曜日だった思う。
兄のあのあんな姿を見て私は絶対に曜子とは出かけたくないと思えてきたもん。
これを話すべきかどうかとは思ったんだけど…。
「あ、でも聞かない方がいいと思う。」
「なんで?」
「お兄ちゃん。あの時のこと聞くと機嫌悪くなるから…。」
勘がいいかなえ先生はそれだけでもいろいろ察してくれたらしく。
「…なんか、いろいろわかった気がする…。」
「先生もあと4年気を付けてね…。」
「わかった。私、来年からしばらくは乳児クラスに戻るわ…。」
かなえ先生は先生の中でいち早く私の気持ちを察してくれた先生だったので、卒業してからも偶然見かけたら、挨拶して軽くしゃべる。そしてなんでか、たまに学童にひょっこり現れて私をお話ししていく。
まぁ結果的にいまだに保育園の先生とはつながっているが、まぁお気に入りのかなえ先生だから、いっか…。
そしてかなえ先生とは、私が思った以上に長い付き合いになるのであった。




