月城屋敷の掟とは…。
さて……
二度と来るないわれても、こっちもそれが仕事である。
逃げるわけにもいかない。
一度大きく深呼吸をして、ノックしてドアを開けた。
「なんだ、またあんたか。」
「あの…」
二央は私をキッと睨んだ。
「二度と来るな!言ったよな!?」
相変わらず態度が悪い。
「…と言われてもそういうわけには参りません。」
「フンっ!」
二央はいきなり私に向かって、一冊のファイルを投げつけた。
あまりにも突然すぎて、ファイルは顔面に命中してしまった。
ファイルは辛うじて受け取ることができたが、「痛い」と一言でも言おうものなら、なめられそうな状況ではなかった。
そんなことより何を投げつけてきたんだろう?と思った。
ファイルを開いてみると…
学期末テスト
現国44点。数学7点。社会31点。理科24点。英語12点。
クラス順位 40人中38位 学年順位 160人中151位
なにこれ…?
ほぼ赤点しかないこの結果。
「呆れただろ?」
たしかに、学年で後ろから10番以内の成績表って、見たことがない…。
「無理思っただろ?」
無理とかどうとか、そんなものはやってみないと判らない。
が、本人が全くやる気なしでこんな状態では、まぁ無理だろう。
でも…
「ではあなたは、この先どうしていきたいのですか?」
「は?」
返事もなってない。
「どうするもこうするも…俺にそんな質問投げかけたのは初めてだな。」
何こいつ?どんだけいい身分なんだ?
まぁ。旦那様のたった一人の息子だから、いい身分なのは当たり前だが。
「そうだな…」
答えを出すまでにすごく時間をかけて考えている。
なんか、こっちがイライラしてきそうだが、ここはやっぱり待つべきだろう。
「まずはあんたにここから出て行ってほしい。」
何よそれ!!?結局それなん?
もう
「それは無理!」
私もすかさず言った。
「あなたの学習成果を上げていくのが私の仕事ですから、それはお断りします。」
今度ばかりはきっぱりといった。
「フンっ」
ホントに我儘な奴だ。
「勝手にしろ!どーせ、マリアや他の奴と同じようにすぐ音を上げるの判ってるんだよっ!!
お前だってどーせ、あいつらと一緒だ!!」
「どういうこと!?」
「ん?」
「え?」
「ほーん。めっずらしい。まだなーんも知らんのか?」
二央は、二ッと笑って、私の腕をいきなり引っ張った。
「来いよっ!」
この時一瞬、二央から襲われてしまうかと思ったが…
「あがーががぁーーーあがぁーーーーー。」
なんの声?なんか動物でもいるの?なんのうめき声だ?と思った。
そしたらもっととんでもないものを目にしてしまった。
なんとその声の主は、主に私の担当メイドの小夜だった。
「えーーーっ!?」
曜子とは声が全然違う。
小夜は曜子と違って、ほとんど男に近いような野太いダミ声であった。
「しーーーーっ!!」
さすがにこっそりこの場にいるため、二央からも口をふさがれてしまった。
ここにきてまだ。一度も小夜の声を聞いたことがなかったけど、まさか小夜にこんな秘密があったとは思わなかった。
まさかとは思うけど…小夜は自分の声にコンプレックスを持っていて、普段は喋らないでいたの?
今の子の声が本当なら、曜子とは違った意味で不憫な子である。
って、私が個人的に一番驚いたのは小夜の声のことだが…それよりも…
「あの…これって…。」
「わかっただろ?今日は小夜だったけど、まぁこれがこの家では当たり前のようにあるってこと…。」
「…当たり前って……?」
「ホント、なんも知らんのだな。」
悪かったわねー。
「って、いつまでもここにいてはさすがにまずい。いくぞ。」
もう、すごい勢いで起きた出来事であった。
信じられなかった…。
まさか、旦那様とメイドの小夜がすでに男女の関係だったなんて…。
ホント信じられない。小夜ってどう見ても私より若い子よね?
どう見ても曜子と同じぐらいの年の子だ。
それも、顔は他人の空似とはいえ、曜子に瓜二つ。
まるで妹のそれを生で見てしまった感じで、
「おぇーーーーーーーーーーっ!!」
二央の部屋に戻って、吐きそうだった。
「おいおい、吐くならこれに吐けよ。」
二央は自室にあった大きめの紙コップを私に差し出してきた。
こういう時は、なぜか気が利く奴だった。
「ったく、思ったよりも初心な奴だな。そんな状態じゃここではやっていけないぜ。」
二央はバカにしたような感じにニヤッと笑って
「まぁ悪いことは言わん。早くここを出てった方がいいぞ。」
二央はそういうものの…
私には後戻りができない状態だ。
「悪いけど…。」
「ん?」
「私には住むところがないの。」
「そういう事情かよ…。」
少なくともあと一年…と少しは出ていくのは難しい…。
とにかく来年度、就職先が決まって、ここを出ていくまでは辛抱しないといけない。
「じゃあさ、あんた、あいつのじゃなくて、俺の女にならない?」
「はーーーっ!!??」
なんなんだこいつ?
「なんでそうなるのよー!?」
「だって、まだあいつの愛人じゃないなら、いっそ俺の女にした方が、あんただって少しはマシじゃないかなーって思って。」
「はーーーーっ??」
「まぁここにいる女の半数はあいつの愛人や捌け口だし、あんたもしばらくここにいれば、ああなるのは時間の問題だぞ…。」
二央は今までと違ってかなり真剣な顔で、訴えかけてきている様子だった。
「それに…あいつは簡単に女を愛人にするが、絶対に正妻は取らない奴だ。」
まじかよ…。
「現に俺を生んだ母さんだって、あいつは結婚しなかった……。」
なんか、事情はよくわからないが、二央の母親のことをここで聞くのは絶対にタブーと思えてきた。
そういえば、二央の母親らしき人はあの席にはいなかった。
いたのは、あの品がなさそうなAランクの3人の女が愛人ってことか…。
まぁその中でもマリアはなんとか品位は高そうで、なんとかそれなりの貴婦人を演じられそうな感じはするが、やっぱり意地の悪そうな性格は隠しきれないものあった。
「あの…聞いてもいいですか?」
「ん?」
「あの場にいたマリアさんの事なんだけど…」
二央はイヤそうな顔をした。
「あの方は元はといえば、家庭教師だったって本当なの?」
「ああ、マリアは俺の初めての家庭教師だよ。あいつ3か月で音を上げて、あの男の愛人に成り下がってててさー。マジ情けないよなー。」
まぁ。こいつがその頃から、こんな悪ガキだったかどうかは判らんが、こんな奴の面倒なんか見たくもないと思える気持ちは判る。
ただこの子の気持ちも判るんだよな。
まぁこの子なりの配慮なんだろうねー。
こんな治安の悪い場所にいつまでもいると、マリアみたいに戻れないところまで行ってしまう被害者を増やしたくはないのであろう。
だか私は…。
マリアさんとは違って、こことは違うところできちんと就職先を決めて、学校を卒業したら出ていく予定である。
「で?どうなの?俺の彼女になる気はあるの?」
また、突然そんな話をふられてびっくりした。
「もう、からかわないでよ。」
「なんだよー。俺じゃガキ過ぎるってか?」
まさにそれなんだよ。
と言ったら、仕事上まずいので。
「残念だけど、私はすでに彼氏いるので。無理ね。」
彼氏とはあの実は大嫌いな日比野のことだが、こういう時だけはうまく使えた。
そしてこれでうまくいったとは思った。
「へー、まぁそんなもん、いてもいなくてもどうでもいいけどさー、ここにいる限りはそうも言ってられないけどいいの?」
これまた、恐ろしいほど真顔でそんなことを言われたことが引っ掛かった。
さすがに、この時の二央の顔ばかりは怖かった。
「…まぁ、俺が言ったことも一つの選択肢として考えておいた方がいいとだけ言っておくよ。」
なんかものすごく上から目線で、偉そうなことを言われてしまった。
この日は本当にさんざんだったが、とりあえず、二央が今目的としていることはわかった。
そしてそこで二央について分かったことは…。
「えーーーーっ!!15歳って…。」
二央はまだ15歳で中学3年生らしい…。
その15歳で6歳も年上の女を自分の彼女にしようとしてたのか!?という事を考えるとこれまた、余計に二央からの申し出は断らないといけない思えた。
まぁそれは置いといてだ。
本題としては
「今年は一応中等部から高等部に上がる進級試験が来月にある。とりあえず、ギリギリでもいいから、その試験を一発でクリアしたい。」
とのことだった。
一応チャンスは3回はあるらしくて、その3回とも不合格となったら、退学になるらしい。
ただし、一度でも失敗した場合は高等部から入る新顔組が多いクラスに入れられるとか、ペナルティが付くそうだ。
毎年、10人ぐらいは不合格になるらしいので、自分も危ないとのことだった。
本人曰く、これさえクリアできれば、旦那様もなんとかサポートをしてくれるらしいので、二央もそればかりはお願いしたいそうだ。
まぁそこはいいけどさ…
まぁそこはなんとか応援したよ。
でなんとか、ギリギリ一発合格できた。
まぁあんな点数しか取れない状態で、全教科40点以上取ることができたのも、私の実力でもあったと思うぞ。さすがに。
一応それ以降は、二央も私のことはあまりなめなくなってきて、一応机に向かって勉強してくれるようになってきた。
そして…先月ユキが意味深なことを言っていた日がとうとう来てしまったのである。
2月27日…
私は旦那様からあることを頼まれていた。
なんかある大企業が主催するパーティに一緒に参加してほしいとのことだった。
私は、信じられないことに相原君にすごいきれいに髪を結われて、すごいきれいなドレスと着せられていた。それもマリアとカオリと小夜とともに…。
はっきり言って、お屋敷の中でも18歳以上の器量よしを選りすぐりしたメンバーだった。
それを月城は
「まぁ今回はこれだけ連れていく。」
とまで言っていた。
そして、今年からこのパーティには二央までも参加するらしく、二央までがよそ行きの服を着せられていた。
まぁ二央までも連れて行くという事は、本当に健全なパーティであることには違いなかった。
大企業主催のパーティなので、かなり緊張して楽しむどころではなかったが、まぁそれなりに就活するにあたって、顔だけでも売れればいいかなとは思っていた。
が帰りが近くなった時…。
「そんな…私これからどうやって生きていけばいいのよっ!!!」
最後にお手洗いによっていた時にすごい声が、すぐ近くの控室から聞こえてきた。
なんだろう?と思って、少し部屋をのぞいてみたら、旦那様とマリアがそこにいた。
「今日で終わりってどういうこと!!?」
「何度も言わせるな!君との愛人契約は今日までだ。だから、今日から君は屋敷から出て行ってもらう。」
「っそんないきなり言われても私…私…。」
「私の愛人は24歳までだ。今日から君は25歳だ。私は基本25歳以上の女はあの屋敷には置かないのだよ。だから、今日でさよならだ。」
何それ?すごく非情すぎやしない?
「そんな…じゃあ、上村さんは?たしかあの人、50過ぎじゃない…。あと、メイドのアキさんとフキさんは30よね?」
そうだ。あの屋敷にだって25過ぎの女はいる。
「上村さんは、先代からの約束で首は切れんのだよ。それにあの人はまだ使える。
それにアキとフキは、あれでも一応、私の身内でね。見捨てるわけには行けない存在だ。まぁ義理だけ残しているだけで、彼女らが他にどこか行くあてがあるなら、そのまま屋敷から出して自立させているよ。」
えーーー。そういう事だったんだ。
まぁ上村さんのことは判るとしてだ。
あの意地悪な双子メイドにそんな秘密があったとは知らなかった…。
そうだ。
確かユキが先月、「どうせ来月まで」という意味はまさにこれだったわけだ。
つまりは、私もこうしてきれいな衣装来て、旦那様がお姫様みたいに持ち上げてくれるのは、ユキが言っていた通り期限があるという事だったわけだ。
私はこの屋敷の恐ろしい掟をこの一か月の間で思い知ることになった。
そして、私はマリアみたいに期限ぎりぎりまで、追い出されることを知らずにいたという事にならなくて、よかったと思えた日でもあった。
私はこの日よりマリアの後釜として引き続き、こういう社交の場に出る代表として選ばれたのであった。




