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冴島鉄也の転職:人斬り抜刀斎から〇〇へ

作者: ヌルスケ

かつて名を馳せた大企業に、人斬り抜刀斎と恐れられる人物がいた。その男、冴島鉄也は、人事部門の役員であり、その手にかかった者は容赦なく職を失った。彼のリストラの剣は鋭く、躊躇いなく下される。だが、冴島にはある秘密があった。


ある夕暮れ、冴島は普段のように社内を歩いていた。その眼光は鋼のように冷たく、彼の周りには誰も近寄らない。その日も彼は複数の社員をリストラした。彼らは家族を養い、夢を持っていた。だが、冴島にはそれが関係なかった。彼にとって、会社の業績がすべてで、感情は業務に必要ない。


リストラされた社員たちは絶望し、怒りに震えていた。そして、冴島が残業で遅くまで働いていると信じて、彼らは復讐を決意する。夜の静けさの中、彼らは社内を静かに歩き、冴島のオフィスへと向かった。


ドアを蹴破り、社員たちは冴島に襲いかかる。だが、彼らが触れたのは人の体ではなかった。目の前には、巨大なヒグマが立ちはだかっていた。冴島は、ピンチを感じるや否や、その巨体に変わっていたのだ。


ヒグマは咆哮し、社員たちを一瞬にして威圧した。怒りと絶望に燃える社員たちも、ヒグマの圧倒的な力の前には無力だった。爪と牙で脅し、彼らを追い散らす。冴島、いや、ヒグマにとっては軽い運動に過ぎなかった。


社員たちは怖れをなして逃げ出し、その夜の出来事は誰にも信じられない怪談話となった。翌朝、冴島は何事もなかったかのように出社し、厳しい顔でまた業務に取り掛かる。


人斬り抜刀斎の伝説は、社内で囁かれるようになった。しかし、それはある種の警告でもあった。誰もが知ることとなったのだ。冴島鉄也という男に逆らうことの危険性を。


この出来事以降、リストラの波は一層厳しくなり、冴島の存在はより一層、大企業の人々に恐れられることとなった。しかし、彼の秘密はずっと、誰にも知られずじまいだった。


その加護はどこから来たのか、何故彼がその力を持っているのか、その真実は冴島の心の奥底に隠されてい

た。誰もが彼の秘密に気づくことはなく、彼の周りにはいつも静寂が漂っていた。


ある日、冴島はまた新たなリストラ計画を発表した。今回のリストラはかつてない規模であり、会社内部では緊張が走った。彼の冷徹な判断は、多くの社員の運命を左右するものだった。しかし、そんな彼にも揺るぎない信念があった。それは会社を守り、業績を最優先するというものだ。感情を捨て、数値と結果のみを追求する彼にとって、リストラは会社にとって必要な手段に過ぎなかった。


だが、今回のリストラ計画は予想外の抵抗に遭遇した。被害を受けることになった社員たちの中には、冴島が以前にヒグマとなって返り討ちにした者たちの同僚や友人もいた。彼らは恐怖を抱きながらも、何とかしてこの不条理を止めようと団結した。


彼らは会社の外にも目を向け、メディアや労働組合に接触し、冴島の冷酷なリストラの実態を暴こうと試みた。そしてついに、ある記者がこの話に興味を持ち、冴島の過去の行動について調査を始めた。


一方、冴島自身もこの動きを察知していた。彼はいつも通りの平静を保ちつつも、内心では初めての危機感を覚えていた。これまでの彼の成功は、誰にも秘密を知られずに済んでいたからだ。しかし今、その秘密が暴かれる可能性が出てきたのだ。


ある夜、調査を進める記者が、冴島についての決定的な情報を掴んだ。それは彼がピンチに陥った時にヒグマに変わることができるという噂の証拠だった。記者はその情報を基に冴島を直接追い詰めることにした。


冴島は深夜、会社の静まり返ったオフィスで、記者と対峙していた。記者は冴島に迫るが、冴島は何事もなかったかのように記者の質問をかわし続けた。そして、ついに記者が究極の証拠を突きつけた瞬間、冴島の体に変化が起きた。


オフィスの中に轟音が鳴り響き、冴島の姿は瞬く間にヒグマへと変わっていった。驚愕する記者の前に立ちはだかるヒグマは、冴島の意識を持ちながらも、その巨体と力を完全に制御していた。記者は恐怖に凍りつきながらも、この一部始終をカメラに収めることに成功した。


夜が明ける頃、冴島は人間の姿に戻り、記者はその証拠を世に出そうとしていた。しかし、彼がどんなに急いでも、冴島の計画はもう止められないところまで進んでいた。リストラ計画はその日、予定通りに実行され、多くの社員が会社を去ることになった。


記者の記事は世に出たが、冴島に変わるヒグマの映像はあまりにも信じがたいものだったため、多くの人々はそれを都市伝説のひとつとして扱った。冴島に直接影響を受けた人々だけが、その恐怖を真実として受け止めた。


冴島の周りには再び静寂が戻り、彼の力は未だ会社を牛耳り続けていた。しかし、冴島はひとつだけ変わっていた。彼は自らの力の秘密が一部の人々に知られてしまったことを認識し、より慎重に行動するようになったのだ。そして、彼は決して誰にも心を開くことはなく、ただひたすらに会社のために働き続けた。


人斬り抜刀斎の伝説は、時に恐れ、時に嘲笑の対象となりながらも、この大企業の一角でずっと囁かれ続けることになる。そして、冴島鉄也の真の孤独は、誰にも知られず、静かに時を重ねていくのであった。

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