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飯屋のせがれ、魔術師になる。  作者: 藍染 迅
第5章 ルネッサンス攻防編

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第689話 この剣でどう戦えと言うの?

「この剣に魔法を付与させてもらっていいですか?」


 剣身から目を外してステファノが問いを発した。


「え? 攻撃魔法を付与してもらえるんですか?」

「いいえ、生活魔法を少々」


 勢い込んだマリコは、ステファノの答えを聞いて気落ちをあらわにした。


「剣を便利道具にするつもりはありません」

「魔獣を倒せる道具だとしたら?」

「何?」


 馬鹿にしているのかと、マリコは声を上げそうになった。だが、ステファノの目を見た途端にひやりと背中に冷たいものが走る。


(この目は真剣だ。きっと何かがあるに違いない)


 マリコは疑いの心を抑えつけ、ステファノの申し出に承諾した。


「わかった。好きにして」


 それにしても、ステファノは「生活魔法」を付与すると言った。それで魔獣を倒せる道具になるとはどういうことか?


(生活魔法に殺傷力を持つものなどあるのだろうか?)


 マリコはじっとステファノの手元を見ていた。


「初めに風魔法を籠めます」

「風で相手を斬るの?」

「いやいや。風で物は切れませんよ。そんな風、見たことないでしょう?」


 風魔法というからマリコは斬撃を飛ばす魔法かと期待したが、ステファノはそれを一笑に付した。

 微笑みながら物打ちどころを中心に刃に沿って手をかざした。


「次は火魔法」


 今度は切っ先に手をかざす。


「最後は土魔法にしましょう」


 剣の鍔元に手をかざした。


「はい。これで完成です」


 ステファノは再度剣を顔の前に立て、ゆっくりと眺めまわした。満足したのか一つ頷くと、元通り鞘に納めてマリコに剣を返した。


「もう終わり? 一体何の魔法を籠めたの?」


 魔法付与には時間がかかる。マリコはそう聞いていた。

 魔法術式をじわじわと対象物に馴染ませ、浸透させるのだ。熟練の魔道具師でも数日から数週間の期間を要するはずだった。


(それをこいつはものの1分で……)


「物打ちどころには『(そよ)(かぜ)の術』を籠めました」

「あ、何だと?」


 予想外の術名を聞いてマリコの口から堅い声が出た。

 気にする風もなく、ステファノは付与魔法の説明を続ける。


「切っ先に籠めたのは『種火の術』です」

「お前、何を……」


 まさか本当に大事な武器を便利道具にするとは。この男は自分にショートソードで煮炊きでもさせるつもりか?

 マリコの顔が怒りで紅潮した。


「最後は鍔元。ここは防御を考えて『鬼ひしぎ』を付与しました」

「うん?」


 ようやく武器らしい言葉を聞いた。

 もっとも「鬼ひしぎ」という術名こそ大仰だが、実態は金槌で殴る程度の威力らしいが。


「わたしは剣を便利道具にはするなと言ったはずですが」


 マリコはステファノの意図を測りかねていた。「微風の術」「種火の術」、そして「鬼ひしぎ」。

 そんなものでどうやって魔獣を攻略するのか?


「普通の術とは違う威力があるんですか?」

「いえ。特には変わりません。発動が速いくらいですかね」


 さも仕事は終わったという風情で悠然としているステファノの心境がわからない。

 当惑したマリコは素直に尋ねることにした。


「この剣でどう戦えと言うの?」


 マリコの真剣な問いをステファノは平然と受け止めた。


「いつも通りで。それだけで勝てる可能性が倍増するはずです」


 ステファノは自信満々に答えた。


「わからない。どういう理屈か教えてください」


 ついにマリコは己を捨ててステファノに教えを乞うた。

 もしもふざけたことを言われたら、思い切りぶんなぐってやろうと腹を決めながら。


「この剣で魔獣を斬ると、血が出ます」

「ああ、そうですね」


 当たり前のことを言われてもマリコは怒りを抑えた。まだだ。まだ怒るのは早い。


「出血は止まりません」

「はあ?」

「『微風の術』が発動するからです」


 あっけにとられるマリコを前に、ステファノは術理を説いた。

 風とは「圧力」の差によって生じる空気の動きだ。この剣で魔獣を斬ると、「魔獣の体内から外に向かって」風が吹く。


「その風が傷口から血を吸いだし続けるんです」


 マリコが魔獣に切りつける度に傷口が増え、出血が多くなる。致命傷を与えなくても魔獣は失血死するのだ。


「剣で突けば、切っ先が魔獣に刺さります。そうすると『種火の術』が発動します。魔獣の体内で」

「何だと!」


 魔法は敵の体内では発動しない。それは常識中の常識である。

 すべての生物がイドをまとっている。そのイドの壁を越えて魔法を発動させることはできない。


 そのはずだった。


「この場合は切っ先が魔獣の体内に入っていますからね。イドの守りが破られています」

「体内で種火が発動すると、どうなる?」


 火起こしのための小さな火。それが種火の術だ。殺傷力などあるはずがない。

 しかし、相手の体内で発動したらどうなる?


「血が沸騰し、肉が弾けますね。筋肉は動かせなくなり、臓器に当たれば壊れます」


 当たり所にもよるが、破城槌(パイルバンカー)で一撃する程の威力があるかもしれない。急所付近に刺されば一撃必殺だ。


「そんなことができるのか……?」

「最後に籠めたのは『鬼ひしぎ』ですが、これは鍔ぜり合いになった時相手を弾き飛ばします」


 名前こそ勇ましいが、この術が一番大人しい効果に聞こえる。しかし、ステファノの説明を聞くと、マリコの常識はひっくり返された。


「相手の大きさとか、力の強さには関係ありません」


 人間は熊の一撃を受け止められるか? 答えはノーだ。

 何よりも相手の質量が違う。質量と速度が攻撃の威力を決める。


 しかし、魔法は自然法則を捻じ曲げる。


「鬼ひしぎ」はどんな一撃を受けても、金槌で撃つ強さで跳ね返す。反動すらない。


「鍔元で受ければ完璧な防御ができるということか」


 マリコの全身に鳥肌が立った。

 ここまで読んでいただいてありがとうございます。


◆次回「第690話 うまく当たればの話です。」


(完璧な防御というわけじゃないけどね……)


 マリコの驚きと裏腹に、ステファノは内心独り言ちた。


 守りにこだわるなら「護身具(タリスマン)」がある。あれなら魔法攻撃も防げるのだが、ステファノは護身具を商売にするつもりはなかった。


(悪用されたら困るからな)


 ……


◆お楽しみに。

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