表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飯屋のせがれ、魔術師になる。  作者: 藍染 迅
第5章 ルネッサンス攻防編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

683/694

第682話 勉強させていただきました。

「返事が早くて助かる。引き受けてくれるんだな?」

「その前に。なぜ、この方が?」


 席に着くや否や注文の話を詰めようとするジローを、スールーが押しとどめた。今日はジローにも同席者がいる。

 それも到底無視できない人物だった。


「ハンニバルだ。よろしく頼む」

「上級魔術師である師に話したところ聖遺物(アーティファクト)級の魔道具を改変するという話に興味を持たれてな」

「うむ。ジロー殿に願って同席させてもらった。邪魔はしないつもりだ」


 それなら事前に連絡してくれればいいものをと思うが、スールーはその気持ちを心に押し込めた。

 所詮はお貴族様のすることだ。平民の都合など考慮する必要を感じないのだろう。


「結構です。指輪の改良の件、当工房でお受けします」

「助かる。それで、料金の見積もりは?」

「1週間のお預かりとして10万ギル頂戴します」


 スールーはあらかじめ決めておいた料金を口にした。

 1週間の預かり期間は不必要に長くしてある。「1日で終わる」と申告したら、足元を見て値切られることを恐れたのだ。


「そうか。安い(・・)な」

「勉強させていただきました」


 貴族階級の「常識」から見れば、魔道具師への支払いが10万ギルで収まるのは安いと判断できる。スールーは商売を始めたばかりの工房が特別料金でサービスするのだという体で、ジローの言葉を肯定した。

 聞いているステファノは「10万ギルで安いんだ?」と驚いていたが、表情を変えないように努力していた。


 これまでの発明品に関する「手数料」がネルソン商会で管理するステファノの口座に振り込まれているのだが、ウニベルシタス講師としての給金だけで十分暮らせるステファノは、残高を全く見ていなかった。金銭感覚はいまだに「飯屋のせがれ」のままである。


「今日は指輪を持ち帰り、1週間後に完成のご連絡を入れた上でお持ちします。代金の受け渡しはその時に」

「わかった。それでいい。しっかり頼むぞ」


「話がついたようなので、一ついいか?」


 後は指輪を預かるだけというところで、それまで黙っていたハンニバルが口を挟んだ。


「はい。何でしょうか?」

「うむ。せっかく魔道具師に来てもらったのでな。何か自作の魔道具を見せてもらえんか」


 ハンニバルは最後の言葉をステファノに向けて言った。


「魔道具ですか? あー、魔掃除具でも持ってくればよかったですね。今日身に着けているものとなると……」


 ステファノは何を見せたものか考えを巡らせた。

 道具入れには鉄丸と鉄粉が入っている。ここで魔道具を創り出すことならできるのだが、ついさっき1週間かかると言ったばかりだ。


(ありものにすべきだよね)


 ステファノはいつもの手袋を外した。


「この手袋が魔道具になっています」

「ほう。見てもよいか?」

「どうぞ手に取ってください」


 ステファノは片方の手袋をハンニバル師に渡した。


「ふむ。確かにイドの残留を感じるな」

「魔法術式を記録した部分だと思います」

「どう使うものだ?」


 ステファノは手袋を手にしたハンニバル氏に、その使い方を説明した。手袋の各指には「火」「風」「土」「水」「雷」の属性魔法が付与してある。


「魔力を与えれば、属性魔法を発動します」

「魔力持ちであれば道具を使わなくとも発動できるのではないか?」


 ハンニバルの言うとおりだった。かつて馬車旅を共にしたガル老師は各指ごとに異なる魔術を呼び出して、炎や水を躍らせて見せた。


「多属性持ちならそうですが、属性の少ない人でも術を使えるようにと考えたものです」


 ステファノはさらりと答えた。実際には「術式を練る余裕を失った状態」でも発動できるようにとの用心も込められていた。

 ステファノが身に着ける魔道具には、魔力の供給さえ必要としないものもある。


「試してみてよいか?」


 感情の読めない目でステファノを見るハンニバルが尋ねた。


「室内なので、魔力は少なめでお願いします」


 ステファノがうなずくと、ハンニバルは手袋を右手にはめて顔の前に掲げた。

 ぽつ、ぽつ、ぽつと、立てた指先に火や風が小さな玉となって踊った。


「なるほど。こういうことか。初心者には便利かもしれんな」


 試みに送り込むイドの勢いを増せば、術の規模が大きくなる。2、3度試したハンニバルは術を消して手袋をステファノに返した。


「攻撃魔法は扱わず、生活魔法を道具に籠めているそうだな」

「よくご存じで。先日も道路舗装車(ロードビルダー)のお披露目で評判をとりました」


 宣伝の機会とみて、スールーがここアカデミーで行った見本展示会での出来事をアピールした。宣伝の口上を一手に引き受けていた手前、熱の入った説明になる。


「それはそうと、防御用の魔法具(・・・・・・・)というものがあるそうだな」

「……どこでそれを?」


 ハンニバルが触れたのは「護身具(タリスマン)」のことに違いない。ステファノの身内を除けば、王族やギルモア家一族など限られた人間にしか知らないはずの魔法具であった。


「これでも上級魔術師の1人だ。王家の守りを司る者でもある」


 王族を守る者として、彼らが身に着ける武器防具の性能を知っておくことは当然の職務だった。もちろんそれは極秘の情報である。


「王族を相手に性能を試すこともできない。もし身に着けているならどのようなものか見せてもらえないか」

「簡単なご紹介程度であれば」


 いくらハンニバルが相手でも、護身具(タリスマン)の詳細な性能を教えることはやりすぎな気がした。しかし、護身具(タリスマン)の存在自体を知っているなら、武器や魔法を止めるという基本的な働きについては当然知っているはずだ。

 基本的な機能程度であればここで紹介しても差支えないだろうと、ステファノは判断した。


「ええと、それじゃあ俺のことを武器か魔術で攻撃してもらえますか?」

 ここまで読んでいただいてありがとうございます。


◆次回「第683話 何とも気味の悪い感触だな。」


「む? いきなり攻撃して構わんのか?」

「準備が必要なようでは護身具(タリスマン)の役が果たせませんから。あっ、攻撃の威力はお試し程度でお願いします。室内なので」

「その辺は心得ている」


 あまりにもあっさりとステファノが攻撃を促すので、ハンニバルは少々戸惑った。しかし、そこは百戦錬磨の上級魔術師である。ソファーから立ち上がると、ジローから借りた剣を予備動作もなくステファノめがけて突き出した。


 ……


◆お楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ