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飯屋のせがれ、魔術師になる。  作者: 藍染 迅
第5章 ルネッサンス攻防編

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第679話 キミに見せたい魔道具があるそうだ。

「ジロー・コリント? ああ、あのお貴族様か」


 ジローがステファノを訪ねてきたと聞いて最初に反応したのはトーマだった。直接の付き合いはなかったが、ジローは優秀な魔術学科生としてそれなりに目立っていた。


「偉そうな奴だった」

「それはまあしょうがない。お貴族様だからね」


 威張りまわす人間が嫌いなサントスは嫌そうな顔をする。

 スールーに言わせれば貴族が偉そうなのは当たり前ということになる。


「ジローが俺に何の用でしょう?」

「キミに見せたい魔道具があるそうだ」


 ステファノはジローに含むところはない。出会いは最悪だったが、とっくに和解したことだった。

 魔道具についての相談と聞かされれば、むしろ興味をそそられた。


「『虎の眼』という指輪だ」

「それは……」

「そう。相手の精神を抑圧する精神操作系の魔道具だ」


 かつてジローは「虎の眼」を武器に、ステファノに挑もうとしていた。アカデミーでの魔術試技会。図らずも指輪を使用する前に敗れてしまったが……。

 もしもあれを使っていれば勝負はどうなったのか?


「いいですよ。会って話を聞きましょう」

「厄介事にならないか?」

「それはないでしょう。もう何年もたっていますし。お互い大人ですから」


 ジローはともかく、ステファノが大人と言えるのかスールーには疑問だったが、争いが起きるような関係でないことは納得した。

 単なる職人とその客。そう割り切れば喧嘩にはなるまい。


 まさかジローがステファノを害する目的で近づいているとは、誰も考えなかった。それほどステファノとジローの間には力の差がある。


「それならボクからジローに返事をしておこう。あちらの都合がよければ会うのは明日ということで」


 ジローの宿舎に出向いてその旨を告げると、向こうも異論はないということだった。

 曲がりなりにも相手は貴族なので、面会にはステファノの方から出向くことに話を決めた。


 ◆◆◆


「久しぶりだな」


 翌日、ステファノは単身でアカデミー構内の職員宿舎にジロー・コリントを訪ねた。

 迎え入れたステファノをジローは見つめて、型通りのあいさつを投げかけた。


「こちらこそお久しぶりです」

「そう畏まるな。同級生のよしみだ」


 ステファノはジローが示すソファーに腰を下ろした。


「早速だがこれを見てくれ」


 ジローは右手の人差し指から指輪を外し、ステファノに差し出した。


「これが『虎の眼』ですか?」


 ステファノは両手で慎重にその魔道具を受け取った。

 見たところは表面に「目」のような意匠が刻まれた銀製の指輪にしか見えない。しかし、「魔視」を使ってみると普通の指輪よりもまとったイドが濃いことに気がついた。


「軽く『気』を流してみてもいいですか?」

「構わん。指輪の力を発動させないように気をつけてくれれば」


 当然の注意であった。

 ステファノはこくりと頷いて見せてから、手のひらに乗せた『虎の眼』にそっとイドを送り込んだ。


『グルルル……』


 大型の獣が喉の奥で発するうなり声。それが頭の中に聞こえた気がして、ステファノは指輪を体から遠ざけながら送っていたイドを止めた。


「これは――強力な道具ですね」

「ああ。相手の精神を押さえつけ、痺れさせる。そういう魔道具だ」


 確かにそれだけの威力がありそうな気配であった。

 戦いの最中にこの威圧を突然浴びせられたら、意識を飛ばされてしまうかもしれない。恐ろしい武器だ。


 ステファノは「虎の眼」をジローに返した。


「この指輪についてご相談があるとか?」

「悪用されることを心配している」


 指輪を元の指に戻しながら、ジローは語った。


 ジローは「虎の眼」を師のマランツから引き継いだ。師の信頼を裏切らぬよう、人の道に外れた用途に使うつもりはない。

 しかし、自分の命には当然限りがある。指輪はやがて誰かの手に渡るだろう。その時に邪悪な目的に使われることを防ぐ方法はないだろうか?


 ジローの相談とはそれだった。


「そういうことですか……」


禁忌具(プロヒビター)の機能に似ているな)


 ステファノは内心でそう思った。


 禁忌具は「正当な理由なく声明を害する目的で魔法を使わない」という制限を魔視脳に刻む魔道具として創り出した。同様の制限を「虎の眼」に上書きしてやれば、悪用を防止することができるのではないか?


「時間をもらえれば、悪用防止の術式を重ね書きできるかもしれません」


「虎の眼」を魔道具たらしめている術式は既に読み取った。後はその構造のどこに制限式を付け加えるべきかを分析するだけだ。

 魔道具としての効果を落とすことなく、悪用禁止の制約を加えることがステファノなら可能だった。


「そうか! それならぜひ頼みたい」

「一度工房に戻って術式を設計し、その上で制限式を指輪に付与させてもらいます」

「そうしてくれるか。代金については術式付与の際に教えてくれ。言い値で支払おう」


 ジローは喜色満面の顔で立ち上がり、ステファノに右手を差し出した。

 貴族にそのようなことをされたことがないのでステファノは戸惑ったが、慌てて自分も立ち上がりジローの手を握った。


「これで心配事に決着がつく。よろしく頼むぞ」

「お任せください」


 機嫌よく見送るジローに別れを告げて、ステファノは工房へと帰った。


(案ずるより産むがやすしか……。思ったよりまともな話だったな)


 人を疑ってかかるのはよくない。ステファノは自分に対して首を振りながら、反省していた。


 ◆◆◆


「ふん。くだらん」


 一人になった部屋でジローは顔をゆがめながら、吐き捨てた。


「たかが田舎者の平民一人。これほどの手間をかける価値があるとは思えんが……まあ、いい」


 ジローは暗い笑みに頬をひきつらせた。


「次に会う時がお前の最後だ。ステファノ、楽しみに待っているぞ」

 ここまで読んでいただいてありがとうございます。


◆次回「第680話 ふん。器が小さすぎる。」


 ジローが強気なのには理由がある。アリスに精神を支配されてから性格が変わっていた。

 細かくは「自信」が行動を支えているのだった。


 実際は自分の力を信じているのではなく、支配者であるアリスの力に支えられているにすぎないのだが、「支配」の影響下にあるジローにはその区別がつかない。酒に酔ったような全能感と高揚感が常に脳裏を占めていた。


 その状態で他者を見れば、上級魔術師ハンニバルでさえも脅威には見えない。ましてやステファノなど、ただの小物に見えていた。


 ……


◆お楽しみに。

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