第677話 どうですか、お客さん!
メシヤ流工房は「道路舗装車」を目玉商品として実演展示した。
舗装してよいという学園内の小道で実演を行ったのだが、押すな押すなの大盛況だった。
蓋を開けてみれば実演を行ったのはメシヤ流だけだったのだ。
短い告知期間で新商品が生まれるはずもなく、他社は見慣れた普段通りの商品を並べて見せただけだった。
「そうだよなあ。1週間で新商品を開発するなんておかしいよなあ」
見物に集まった人の群れを見渡しながら、トーマはぼりぼりと頭をかいた。
「知らない内に俺もステファノの非常識に染まっていたらしいぜ」
トーマとスールーが「説明係」を務め、道路舗装車にはステファノとサントスが乗り込んでいる。
ステファノは魔道具の調整役として乗り込んでいたが、サントスは説明役を嫌がって運転手役を選んだ結果だった。
サントスが人混みを見ないようにして運転に集中しているのが、トーマにはよく見えていた。
「さて、みなさま! 街道を馬車で走ってお尻が痛くなったことあるよーって人? 手を挙げて!」
サントスとは対照的にスールーは水を得た魚のように生き生きとしている。輝くような笑顔を振りまきながら、拡声器で見物客に語りかけていた。
「はーい、ありがとう! そうだよねー、馬車って揺れるよねー? その原因は街道のデコボコなのです!」
性格さえ知らなければスールーは美人の部類に入る。その声も張りがあってみずみずしい。観客は思わず頷いて、引き込まれた。
「でーも、もう安心でーす! こちらの『道路舗装車』があれば、どんな田舎道も王都への大街道のように立派な道に変身します!」
スールーの合図で道路舗装車が動き始めた。人が歩く速さで進んでいく。その後ろには敷石を敷き詰めたように見える路面が作られていた。
「どうですか、お客さん! 象が乗っても壊れない立派な路面でーす。カッチカチやぞー!」
舗装の幅は1メートル。表面には細かいすべり止めが施されており、敷石のような模様が入っている。というか、実際に独立した敷石を並べた仕上がりであった。
「敷石同士は別々になっているので、境目から雨は地面に染み込むし、地震が来ても地割れしにくい構造でーす!」
万一敷石が割れた時は、その部分だけ交換できるように考えられていた。
「敷石の下も同時に地固めしてありますよー! 毎日馬車が通ってもへこみません」
スールーはくるくると表情を変えて見物客に訴える。
「そして、そしてー! 舗装と同時に側溝まで作っちゃうのでーす!」
道路の両側には深さ30センチの側溝がしっかりと掘られている。こちらもご丁寧に石造りだった。
「おおっ!」と見物客から歓声が上がった。言われるまで、側溝の存在に気がついていなかったのだ。
「驚くのはまだ早ーい! 何と、なあーんと! この道は暗くなるとひとりでに光るのでーす!」
世の中に道路照明というものはまだない。
大きな町には街灯があるにはあった。だが、それも灯油ランプだ。ガスや電気は整備されていないし、魔灯具は貴重すぎる。
その貴重な魔灯具を道路に組み込むなど、大街道でも考えられないことだった。
「ば、馬鹿な! そんなことをして割に会うはずがない!」
「はーい! 馬鹿と言った人がバカなんですよー! 不可能を可能にするのがメシヤ印の魔道具だー!」
言葉にならないどよめきが群集の間に広がった。できるだけ道路舗装車に近づこうと、押し合いへし合いを始めた者もいる。
「そこ! 押さない、押さないよー! 仲良く見学してねー!」
幼児を相手にするように美女のスールーに言われると、争っていたいい大人たちは顔を赤くして動きを止めた。
「本日ご覧に入れているのは出来立てほやほやの試作品でーす。舗装する幅は調整可能なのでどこへ持っていってもお役に立ちますよー!」
「おおー!」
もうこうなってはスールーの独壇場であった。観客はすっかり魅了されて目を輝かせていた。
「はい! 詳しい説明は係の者がしますからねー! 手を挙げて順番に質問してくださーい」
結局その日の注目をすべてかっさらい、スールーは説明をトーマに丸投げした。
トーマは次から次へと投げかけられる質問に答えたせいで、声が出なくなるほど喉を枯らしたのだった。
◆◆◆
「ヴァ―、(ひどい目にあった)」
「トーマ、声出てない」
「ヴィ、ヴィず……」
「ん? ひょっとして『水』か?」
砂漠で倒れた旅人のようなトーマに、サントスは水を汲んで差し出した。
「ヴ、ぶはぁ……。あ、あー。ようやく声が出た」
「トーマが声をつぶすとは」
「スールーにはめられた。あいつ、客をあおるだけあおりやがって」
客あしらいになれたトーマである。人前での説明はむしろ楽しい娯楽程度に考えていた。
ところが、スールーが転がし、弄んだ見物客たちは興奮に火がついていた。
何を説明しても次々と好奇心が沸き上がる。結局トーマは1時間以上質問の矢面に立たされたのであった。
サントスはもちろんのこと、ステファノでさえ恐れをなして腰が引けてしまった。
「あの……、申し訳ないと思ってる」
口ごもりながら、ステファノはトーマに謝った。
「お前に謝られてもなぁ……」
ステファノには謝る理由がある。説明役を押しつけられたトーマを見殺しにしたというだけではない。
そもそも道路舗装車という魔道具を発案し、術式を構築した張本人はステファノだった。
「ある意味こうなるのはわかっていたことだもんなぁ」
ステファノと組んだ以上はこういうこともある。それだけ売れる商品を創り出したということなのだ。
商売人として、むしろ喜ぶべきことだろう。
「ただ、毎回これだと、俺の精神が持たないかも……」
酒を覚えようかなあと、トーマは遠い目をした。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第678話 もちろん言われた仕事はやり遂げますよ。」
「道路舗装車だと? 何の遊びだ?」
その若い男は腹立たしげに吐き捨てた。
隣にいる中年の男は、かすかに鼻で笑っただけだった。
「あんな連中が本当に脅威になるんですかね?」
「侮るな。既に『まつろわぬもの』は奴らによって倒された」
「そう言われても。そいつが弱かったからじゃないんですか?」
……
◆お楽しみに。




