第676話 さてそうなると、目玉が欲しいねえ。
単純なあいさつ回りのつもりだったが、ひょんなことから王立アカデミーで「魔道具見本展示会」を開催することになってしまった。
もちろん、あくまでも展示会であって商品の優劣を競う品評会ではない。
「そうは言ってもだ。業者同士が商品を持ち寄るということになれば、そこはねえ。競い合うなと言うのが無理な話じゃないか」
「――面倒くさい」
アカデミーから戻ったスールーは、すっかりやる気を出していた。それに当てられて、サントスの方はいささか迷惑そうだ。
「何だね、キミは? ひょっとして自信がないのかい?」
「冗談言うな。負けるわけない」
サントスの性格を知り尽くしたスールーは、涼しい顔でサントスをあおる。技術に関してプライドの塊であるサントスは、まんまと乗せられて目をぎらつかせた。
「まあ、いいんじゃない? せっかくの見世物だ。派手にやった方が面白いだろう」
「さすがだね、トーマ。わかってるじゃないか」
トーマもエンジニアだが、サントスよりは商売人寄りだ。キムラーヤ商会の事業を進める際に宣伝が大切なことを学んでいる。
王立アカデミーが舞台ならメシヤ流工房にとって格好の宣伝機会となるだろう。
「さてそうなると、目玉が欲しいねえ」
スールーは腕組みをして思案を始めた。
「誰が見てもわかりやすいものがいいな。しかも、日々の生活に役立つものだ」
「展示会だからなあ。目の前で実演したいね」
「なら、すぐに結果が出せるもの」
スールーが口を切ると、トーマとサントスが新商品に必要な要件を付け加える。
「うーん。ちょっと準備が大変でもよければ、考えていることがあるんだけど……」
「おっ? 何だい、ステファノ。遠慮しないで言ってみたまえ」
「サポリからの道中で話したじゃないですか」
ステファノたちは魔動車の揺れに悩まされた。サスペンションと土魔法による軽量化で魔動車に改良を施していても、道路の凹凸は時に乗客を大きく揺らした。
「街道全体に敷石を施すのは大変でしょう? だから、地面を固くする魔道具が作れないかなって」
「ほうほう。もっと聞かせてみなさい」
ステファノの案は単純なものだった。地面を均等にならし、その上から圧力をかける。十分な圧力を加えれば土は石のように固くなるのではないか?
「なるほど。それができれば世の中の『尻』を救えるね」
スールーは思わず自分の尻を手で撫でた。クッションを敷いても乗り物での旅は尻にとっての苦行であった。
「固めるだけでは耐久性に限界がありそうだぜ」
「うん。もろい。すぐ崩れる」
「やっぱりそうですよね。雨が降ったら溶けちゃうし」
固めた土を想像して、トーマとサントスはすぐに問題点を指摘した。それはステファノ自身も懸念していた弱点だった。
「土を焼き物にしたらどうだい? それなら水にも強いだろう?」
「いやいや。それじゃもっともろくなっちまうぜ? ちょっと衝撃が加わったら割れちまう」
「土を何かに変えるという発想はアリ」
物おじしないスールーが唱えた思いつきに、トーマとサントスが乗っかる。発想には広がりが大切だ。悪乗りでもいいから、発想を飛躍させる。
「何かに変える……。つまり錬金術か? 焼き物……熱で変成? あれ? いつかそんな話をしたような……」
3人の会話がステファノの記憶を刺激した。考え込むステファノの様子を横目に見て、スールーはにんまりとほくそ笑んだ。
(ほれほれ、ステファノ。何か思いついたんだろう? お姉さんに言ってごらん。ほれ。ほれほれ!)
「ああ、ルビーの話か!」
ステファノはポンと手のひらで額を叩いた。
「何だ、そりゃ? 土を固める話がどうしてルビーにつながる?」
話の見えないトーマが大声を出した。ステファノは「実は」と言いながら、ルビーの錬成を思いついた話を3人に語った。
地中奥深くで宝石が作られる自然の営み。それを魔法で再現するという手法について。「高温」「高圧」そして――。
「何千年という時間の経過まで魔法で再現するというのか!」
ステファノが語る途方もない発想の飛躍に、サントスは思わず長文のセリフで驚嘆した。
「ええと、時間を再現するというより『時間を無視する』というのが正しいかと」
「無茶苦茶だな、お前!」
「落ち着きたまえ、サントス君。こいつはステファノだぞ? 常識を期待してはいけない」
常識人であるサントスは、ステファノの非常識に激高した。だが、スールーはへっちゃらである。元から非常識にひるむような人間ではない。
彼女自身が非常識の塊なのだから。
「ええと、時間の経過をすっ飛ばせるなら土が溶岩になってもおかしくないわけだ? で、溶岩がゆっくり冷えれば岩になると」
「ふむふむ。ささっと土から岩を作ればいいわけだね?」
「何だかできそうな気がしてきました」
「できるのかい!」
スールーほどではないが、トーマも非常識に耐性がある。動揺するサントスを他所に、ステファノの魔法を利用する道筋を考え始めていた。
筋道が立てば、イメージが形成される。ステファノは術式への手応えを感じていた。
そこまで行けば後は細部を詰めるだけだ。歩きやすさをどうしよう。天候への対応はどうする?
議論は延々と続いた。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
◆次回「第677話 どうですか、お客さん!」
メシヤ流工房は「道路舗装車」を目玉商品として実演展示した。
舗装してよいという学園内の小道で実演を行ったのだが、押すな押すなの大盛況だった。
蓋を開けてみれば実演を行ったのはメシヤ流だけだったのだ。
短い告知期間で新商品が生まれるはずもなく、他社は見慣れた普段通りの商品を並べて見せただけだった。
「そうだよなあ。1週間で新商品を開発するなんておかしいよなあ」
見物に集まった人の群れを見渡しながら、トーマはぼりぼりと頭をかいた。
……
◆お楽しみに。




