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朝から

 たぬき地蔵の傍を離れてそれぞれの住まいへと帰りゆく。夜闇に隠されたわけでなければ明かりに融けたわけでもない。たぬき地蔵の中に渦巻く数多の想いの中からひとつのものを見いだして共鳴した、それだけのことだろう。里予の姿は何故だか和春以外の何者にも見通すことはできなかった。

 里予の小さな身体をしっかりと抱き締めて、見失ってしまわないようにただ傍に。

 やがて目を見開いた里予は顔を赤くしていつもより甲高い声を上げていた。

「えっ? えぇっ!? かずはる君」

「今までごめんな」

 謝った、その事実だけで全てが許されるのだろうか。里予の頬の赤は先ほどとは異なる色をしていた。

「ダメ、一回謝っただけじゃ許さないよ」

 曰く、昔のように仲良く接してほしい。ただそれだけのこと。あまりにも純粋で難しい話だった。

「昔みたいに……かあ」

 変わってしまった心、和春のこれまでの言葉の裏側に隠れ潜んでいた想いは表に現れて、正気を奪ってしまうのだった。

――無理だろ、なんてったって

「だったら顔どうにかしろよ」

 眩しすぎる笑顔。直に眺めることなど出来そうにもなかった。

「失礼だよね、こんな顔してたらだめなの? もっと可愛くなきゃダメ?」

 もっと可愛く。



 なってしまえ、いっそのこと


 その顔じゃなきゃ……それでも



 どう足掻いても里予は里予で、顔が変わろうと声が変わろうと、結局はそれが里予になってしまう、そう気が付いた。

「いや、どこが変わっても里予は里予だな」

「どういう意味?」

「これ以上言わせるな」

 抱き締めている。それを今更強く実感して内から滲んできた熱にあてられて、思わず手を離していた。

「分かってるよ、かずはる君は優しいからまた昔みたいに」

「いやだから無理だって」

 思わず顔を逸らして叫んでいた。おかしな気持ち。高鳴る想いに湧き出る気持ち悪さを感じつつもどこか心地良いものを見ていた。里予の笑顔を見ているだけで、落ち着きから最も遠い所へと心が持って行かれてしまうのだった。

「好きだよ」

――こっ告白された!?

 突然送られてきた言葉、和春は初めて見つめた想いに振り回され続けて朝を待っていた。



  ☆



 朝は人の想いや意志になど目もくれずに訪れる。本来であれば今頃席に着いて楽しくもない勉強の話を会いたくもない大人から聞かされ続けているところであろう。

 今ふたりは和服の女の元にいた。紫色のリボンを後ろに結んで蝶のように留めた少女は今いず処へ。きっと例外ではなく学校だろう。目の前の白くて安っぽい着物を女は大きなため息をついて話を進める。

「で、アンタらふたりして遺サレシ者と共鳴してしまったってワケかい」

 ふたりして、まさにその通り。

「遺サレシ……者」

「そう、死してでも生霊でも、この世界の過去に置いて行かれながら生きる、怨霊のようなものさ」

 天音の丁寧な説明によって完全に理解はできた。誰もが思い浮かべる霊のような思念と言ったところであろう。

「ただあんたには見えてないんだろ?」

 和春の手は空虚に向けられているようにも思えたが、天音は気配で見て取っていた。

「ご名答! アタシには見えていやしない」

 そう、天音は目で見ているわけではなく、不可視をナニカで視ているのだった。

「ただアンタらと違って見る必要もありやしないからねえ」

 そこから続けられた言葉で意志をようやく感じ取ることが出来た。

「そこにいらっしゃる人とアンタ、ふたり一緒に助けたい」

 更に紡がれる言葉はしばしの沈黙をあけて訪れた。眉間にしわを寄せる様子は不本意の証だろうか。

「だからさ、アタシは『かえるのて』を借りることにしたのさ」

 それだけを伝えられてふたりは歩き進められ、ある場所への案内を受けた。

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