表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/51

S島沖海戦 《上》

墜星暦5945年秋 陽没海S島沖


 抜けるような秋の蒼穹の下、陽没海…かつての日本海でジェットエンジンの咆哮を轟かせるのは『連邦』海軍第151飛行団の戦闘機『コメートⅠb』。


 翼に埋め込まれた2発のエンジンは、最高速度1000km/hを超える快速と、20mm機関砲4門30mm機関砲2門の重武装を与える。

 まだ数の上ではレシプロ戦闘機が主流の『連邦』軍で、新鋭機『コメートⅠ』搭乗員は羨望の的だった。

 ダイヤモンドの編隊を組み、空を我が物と征くジェット戦闘機。


 ――ニホン軍恐れるに足らず。『連邦』には、この雰囲気が蔓延していた。


 侵攻直前に日本上空で発生した原因不明の磁気嵐。

 日本国防軍の戦略ネットワークとクラキ=ニューロン発火反応を用いた仮想下士官に、壊滅的ダメージをもたらしたそれは、なぜか民間回線に一切の損傷を与えることなく国防軍を麻痺させた。


 大した抵抗も受けずに上陸したニホン侵攻第一軍は、首都進撃へ向かっているはずだ。

 首都へは空挺部隊も降下している、あまりにも順調な戦況に楽観視する兵も多い。


 操縦桿を握るパイロット、小隊長の彼女も戦闘空域で余裕を見せていた。

 ――第二次上陸船団と爆撃隊を護衛する簡単な任務。日本空軍との交戦経験は無かったが、出てこない敵機など存在しないに等しい。碌な軍備を持たない異世界の国家、このときまではそう軽く考えていた。


 遥か高空から、目覚めた電子の神が無言の殺意を込めて睨んでいることも知らずに。


 眼下の隅には戦艦4隻を主力とする陽没海第一艦隊、堂々たる輪陣形を眺められるのは海軍パイロットの特権だった。

 前方には豆粒のように友軍のレシプロ重爆撃機、『コメートⅠ』から見れば鈍足の爆撃隊は先行してS島沖合で合流する手筈だ。


 ――遅い。最高速度650km/h程度の爆撃機に合わせて飛行することは、新鋭機に乗ることを許された彼女にとって不愉快なものだった。

 ジェットエンジン搭載の新型高速爆撃機が欲しい。そんな思いで前を見つめているときだった。


 火球。コンバットボックスを組む友軍機が編隊ごと爆散した。


 「なっ!?」


 加速度的に次々と咲く黒と橙色の花火。護衛対象がバラバラになるのを目の当たりにした彼女に、愛機の無線が叫ぶ。


 『――こちら第3爆撃中隊!助けてくれ敵機が見えない!』『――31隊長機が堕ちた!本機が指揮を「ガガッ」』『――どこだどこだどこだ畜生!』


 不可視の敵に防御機銃も、防弾装甲も、難燃タンクも全てが存在しないかのように一方的に引き裂かれる。爆撃隊は全滅、突然の惨劇に彼女は思考を一瞬停止させてしまった。


 「散開――」


 我に返った彼女はそう指示を出し、機体を急旋回させる。だが遅い。


 電子の神の司る戦略ネットワークの末端、航空宇宙国防軍K基地所属の第303、306飛行隊の『F-35A』戦闘機から放たれた矢は『コメートⅠ』へ吸い込まれるように飛翔。近接信管が炸裂し、破片が彼女と愛機を炎で包む。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 「空軍303、306飛行隊下がります。」


 「大変よろしい。」


 敵機の消えたスクリーンを見て呟くのは、海上国防軍第1火力投射護衛艦隊群司令の花谷中将。全面スクリーンで囲まれたFICの主は満足げに応え、続ける。


 「『むさし』前進。本艦のみで片をつける。」


 「司令、よろしいので?」


 艦長が念を押すように中将に問いかける。


 「構わん。ここが世界一安全だ。」


 火力投射護衛艦隊群の旗艦、『やまと型火力投射護衛艦(ミサイル戦艦)』の次女にして、中将の愛娘『むさし(CCG−900)』は、エスコートの護衛艦隊を置き去りに増速。核融合炉の生み出す莫大な蒸気はタービンの唸りを高鳴らせ、波を蹴立てて巨艦を驀進させる。


 「敵艦隊、依然として進路、速度変わらず。」


 「目標捕捉(ロックオン)完了。第一、第二主砲いけます。」


 「海保の仇だ。只で帰れると思うなよバカヤロウ。――1番から6番砲戦よーい。」


 聞こえないよう小さく洩らした中将は、目を細め冷徹に指示を下す。RQ-4とのデータリンク、電子の神の演算補佐(加護)を受けた50口径480mm電磁火薬複合砲(レールガン)は重厚に旋回、核融合炉の電力が砲塔コンデンサに込められる。


 空の傘を失った敵艦隊は、通信量を増大させつつも航行を続けていた。水平線の遥か彼方で日本海軍の誇る最大火力が、超音速の矢が自らを狙うことも知らずに。


 「振り分け完了。目標α、β第一、第二大型艦。」


 「1番から6番、撃ちー方始め!」


 射撃命令の下、『むさし』の存在意義たる電磁火薬複合砲身は瞬間的に砲弾へ運動エネルギーを与え、歓喜の叫び、巨大なプラズマの砲煙と轟音を砲口から吐き出す。

 極超音速まで加速された6発の砲弾は、電磁と装薬の咆哮を母なる『むさし』に置き去りにし、無知な『連邦』陽没海第一艦隊へ緩やかな放物線を描いて飛翔する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ