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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
間章 赤月の騒乱

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決起集会

墜星暦5946年冬 『帝国』ルシクワ属領州某廃鉱山


 はるか太古に落ちた月の欠片、それはこの地に直径3000kmにも及ぶ巨大な二重の湖と二重の外輪山を残した。

 地殻を叩き割り、惑星のマントルを露出させた衝撃は多くの生物を絶滅に追いやったが、それと引き換えに豊富な地下資源を地上に溢れさせた。

 それから欠けたままの銀月が周る間、外輪山は長い年月をかけて風雨に削られ、標高800から2000mほどへ。やがて人間が鉱石の採掘や精錬を覚えると、多種多量の恵みをもたらす二つの外輪山は神聖視されるようになった。

 

 外側の湖岸を望む外側の山麓、湖の漁業と山の鉱業の二つで成り立つ、州都近くの小さな町。

 北の海に流れ出してはいるものの、湖はほんの僅かに塩分を含んでいる。月の欠片の大衝突で蒸発した海水の塩が岩塊として地下に閉じ込められているからだ。これも小規模ながら掘り出され、この地方の伝統的な保存食、湖の魚を塩漬けにするのに使われていた。


 だが、それも安い輸入品に押され、採算性で負けた今ではこの町の塩鉱も続々と閉山している。

 湖を囲う外輪山の山腹へ無数に開く、ありふれた古い廃坑の一つ。


 錆びついたトロッコのレールが延びる空間の奥、わずかな下り勾配のそこを100mほど進むと体育館ほどの広さと高さの空洞に出る。ストーブがあかあかと焚かれ、壁に吊るされた電球が薄暗くオレンジ色に照らす地下空間には200人ほどの人間がいた。


 ほとんどの人間が鉱山労働者や工場労働者風、少々乱れつつも整列する彼女たちの腕に巻く布や帽子には揃って赤い『二重の月を叩く鎚』がある。

 ルシクワ独立を目指し、『帝国』と散発的な抗争を繰り返す過激派勢力——『評議会』のシンボルだ。


 「委員長登壇!」


 一人が岩を削ったステージに上った。ステージの背後には『革命』『打毀』『団結』と書かれた幕。そして『二重の月を叩く鎚』の旗が張られている。

 太い黒縁眼鏡をかけた小柄な、薄汚れたつなぎを着た彼女はメガホンを持ち、声を張った。彼女がこの集団——『評議会』の創設者であり、現最高指導者だ。


 「同志委員諸君!ついに我々が隠れ潜む時期が今5946年に終わる!——西の簒奪者、『帝国』。奴らは歴史上何度もこの地の恵みを狙い、我らの先人は幾度も忍従に耐えては立ち上がり、それを打ち払ってきた。だが今はどうか?今またルシクワは『帝国』資本家に牛耳られ、我々は過酷な環境で働いている。なぜか?——先の敗戦の賠償金、我々が掘った金銀銅鉄——『帝国』は我々の稼いだカネで賠償金を払っている!20年もだ!」


 敗戦で負った莫大な賠償金。国力を使い果たした上、植民地や領土まで剥ぎ取られた『帝国』は一時破綻寸前にまで陥った。だが、支払い不能になることを恐れた戦勝国たちが、戦後独立したルシクワ地方への進駐と再支配を黙認し、資源を現物払いで受け取って、『帝国』も安い資源を復興の材料にした。


 「そしてその20年間『帝国』人は『負けたのはルシクワが怠けたせいだ、ルシクワの妨害、誇りある『帝国』は卑怯者に背後から刺されて前に倒れた』などどのたまい、簒奪を正当化する始末、許せるか!?」


 問いかけに——否!倒せ!とあちこちから呼号が響く。


 「星央も世界連盟も声を掛けるだけで、具体的には何もしてはくれない。奴らはカネに目が眩み、裏で結託しているのだ!世界は我々を救ってはくれない、だから自らの手で取り戻そう!搾取してきた『帝国』と背後に巣食う資本家を討て!この体制を打破しよう!いずれは全世界のために我々が先駆けとなり、まずここに全ての労働者が、全ての国民が平等な理想郷のような国がつくりたい!」


 ——破壊なくしては作れぬ!拳を突き上げた委員長に割れんばかりの拍手が浴びせられ、——革命!鉄槌!独立!の叫びが地下空間を満たす。


 「そこで新たな仲間を迎える!賛同する同志、『共和国』から勇士が来た!」


 拍手で迎えられたのは、十代後半から二十代前半の若い数人。皆、辺境のこの地ではあまり見ない、仕立てのいいコートに暖かそうなマフラーを巻いていた。

 少し前、パモラッス駅前で抗議運動をしていた学生たちだ。

 彼女たちは自信にあふれた足取りで進み出ると、リーダーが委員長からメガホンを受け取った。


 「同志の皆さん!私たちはルシクワの闘いと苦境を知り、心を動かされました。搾取がこの地の誇りを踏みにじり、他国が潤う。それを見過ごし、その上に座っていた自らが恥ずかしい!労働者を苦しめる現実に黙っていた!そこで何かできることは無いか、と考えた結果、共に戦うためにここにいます。勇気ある抵抗を共に!帝国と資本の鎖を断ち切り『評議会』の理想、すべての人が平等な未来を築くために尽くします!」


 彼女たちは『共和国』内でも裕福な層の次女や三女。家業や家督を継ぐことはできない。だが、独立など将来の目標もなく、無軌道に過ごしていたところを『評議会』の思想に出会い、運動を始めた。


 「——これも先生の導きです。」


 メガホンを握る学生がステージ脇を示す。


 「どうもー!」


 山積みにされた木箱の前には敦と里奈、そして先生と呼ばれたあの記者がいた。彼女は別ルートで学生たちをここまで手引きしていた。

 委員長はステージを下り、彼女の肩を叩くと固く握手を交わす。そしてバールを手に取った。


 「さあ同志諸君!ここに先生の土産がある!国外のシンパからの寄贈品だ!」


 委員長は積まれた木箱を一つ引きずり出すと、蓋をバールでこじ開けた。中に収められていた物を見て、どよめきが広がる。


 使い込まれた中古の軍用ボルトアクション式ライフル。刻印こそ削り取られてはいるが、見る者が見れば『連邦』製『SW.M5900』だと見抜くだろう。

 この一、二世代前の主力ライフルに使われる大型の7.7mm弾は比較的強力で、この地方でも熊や鹿狩りなどの狩猟用としてありふれている。反乱を恐れる『帝国』政府も辺境の獣害対策に最低限の流通は認めていた。


 「すごい。これなら奴らを——」「ああ。」


 『連邦』軍では『SW.M5936』や『SW.M5940』などの6.6mm弾ライフルへ更新が進んでいる。予備在庫の横流しを、ある筋が密輸したものだった。


 武器を前にして興奮と闘志が湧いた彼女たちは、次々とそれを掴み、木製のグリップや鉄のボルトを弄り回す。

 他の木箱にも、多少型落ちではあるがサブマシンガン、拳銃、手榴弾——。もちろんそれに使う弾薬もぎっしりと詰め込まれていた。


 「我々はこの地を救うためにこれをここへ持ち込んだ!」


 記者の得意げな声が地下に響く。

 合計でライフル1500丁、サブマシンガン200丁、拳銃100丁、その他諸々、弾丸15万発が密かに分散され、運び込まれた。


 「さあ、武器は揃った。次は目標だ。」


 床に地図が広げられる。ルシクワ州都とその周辺のものだ。ついでに景気付けで各人へルシクワ特産の火酒と碗、塩漬けの魚が配られた。


 「決起は四つの隊に分ける——」


 第一目標……外輪山チェルニ峠。外輪山を越える最短ルートにして、唯一の鉄道路。爆破すれば本国の増援は遮られる。

 第二目標……『帝国』軍ルシクワ州都カルーラ駐屯地。飛行場も隣接する陸空共用の基地、呼応した有志に配るため武器弾薬を奪取する。

 第三目標……州都ラジオ局。蜂起を呼びかけるラジオ放送と独立宣言を行う。

 第四目標……カルーラ収容所。これまでの抵抗運動で逮捕された同胞を解放し、兵力に加える。


 外輪山は天然の要害、巨大な城壁、中の敵さえ潰してしまえば立て籠もるには絶好の地形だ。


 「逃げ道を塞ぎ、奴らを叩く。雪が解ける前、ギリギリとなると——」


 「去年の秋に持ち込むはずが、いやはやまことに遅れて申し訳ない。」


 地図上に刺されたピンと数字をなぞり、委員長や幹部たちが顔を突き合わせる。それに記者が頭を下げた。

 当初は雪に閉ざされる冬に決起の予定だったが、ニホンと『連邦』の紛争で北陽没海条約同盟(N.S.T.O)の演習が中止になった上、航路も閉ざされ、それを隠れ蓑にした武器の密輸ができなくなっていた。


 「待った甲斐があるってモンですわ。先生のお力、ありがたやありがたや。」


 委員に肩を叩かれ、記者の碗に火酒がなみなみと注がれる。

 碗を片手に酒精混じりの息を吐きつつ話し合い、そして、カレンダーに赤く丸が付けられた。


 今から二週間後、訓練に必要な時間と雪解けの進みの兼ね合いで、そう決められた。人員の割り振りなど詳細を詰める彼女たちに、記者がカメラを横から向ける。


 「歴史的な一枚、さ、自然に自然に。」


 『二重の月を叩く鎚』を背後にフラッシュが白く焚かれた。フィルムに焼きついた写真は後に『評議会』を象徴し、『湖岸動乱』最初の一枚となる。

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