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【急募】男女比1:60世界で国ごと生き残る方法(仮題) Part5945  作者: 月丘
間章 赤月の騒乱

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52/55

世界連盟安保理会《上》

墜星暦5946年冬 『共和国』首都中央市西二区パモラッス駅


 『共和国』西部からの玄関口、そして出発点でもある国営鉄道のターミナル駅、パモラッス駅。ガロドーを出発してから2、3の駅にしか停車していない大陸横断特急『シュテルン201号』は、ほぼ定刻通りホームへ滑り込んだ。

 そしてプシュ、という音と共に客車の空気式自動ドアがややタイミングをずらして開く。一部の高等列車にしか装備されていない星央大陸でも最新式の代物だ。


 長距離列車らしく、荷物の多い乗客に混ざって降り立ったのは二人の日本人、谷木敦と渡辺里奈。切符を片手にキャリーケースを引き、改札の前、ホームの隅で立ち止まった。そして辺りをキョロキョロと見回し、日本ではほぼ失われたような、蒸気と石炭煤の混ざった匂いを吸い込んだ。その背後では汽笛を吹き鳴らし、『シュテルン201号』が再び東——『帝国』との国境方面へ走り出す。


 改札をくぐり駅舎を出た二人はまず近くのホテルを早めに取り、一旦荷物を置くと駅前広場へと戻ってきた。そこはゴトゴトと動く小さな路面電車や足早に歩く人々が忙しなく行き交い、賑わっている。

 そこへ二十人ほどの若者の集団が通りの向こうからやってきた。旗やプラカードを掲げている。やがて広場をまわり行進が近づくと、谷木と渡辺の二人の目と耳にもその叫び声と文字が入る。


 『東部民族ルシクワ自治の声を聞け』『湖岸の同胞に救いを!』『労働者からの搾取反対』


 そこに書かれた文字は読めなかったが、口々に叫ぶ言葉を聞くとその主張は隣国への抗議デモらしかった。

 だが広場を練り歩く若者たちの前に数台のパトカーが止まる。現れた五、六人ほどの警官は集団へ詰め寄ると、威圧的に告げた。


 「許可なき集会は違法だ。代表は名乗り出て、今すぐに解散しなさい!」


 行進の前に立ち塞がったなかには、警棒に手を伸ばしている警官もいる。足を止めた群衆は少し遠巻きにそれを見ていた。敦と里奈の二人も輪の最前に混ざっている。


 「ん?貴様らもアカのシンパか?」


 ここでは浮いた風体の異邦人に、警官の一人が鋭い目を向けた。ガロドーの親切な警官との違いにしどろもどろになる二人。そこへ横から声が割って入った。


 「すみませんお巡りさん!そのお二人は私の取材先です!」


 大きな鞄を肩から下げた丸眼鏡の女性が立っていた。彼女は鞄から名刺を出すと、警官に差し出して口早に続けた。


 「いやいや遅れてしまって申し訳ない!お巡りさんほら、あのニホンからの旅行客ですよ、身元は私が保証しますから!」


 頭を下げる彼女を、警官は名刺と見比べた。そこには中堅新聞社の名前と記者の身分が書かれている。するともういいという仕草で手を振り、押し問答を始めたデモ隊の方へ注意を戻した。

 そして解放された二人はほっとして彼女に礼を言う。


 「助かりました……ガロドーのお巡りさんとは違って驚きましたよ。」


 それに記者は大したことではないと軽く方手を振った。


 「このご時世で締め付けが厳しくなっていますからね——あっ!新聞社の者です!お二人はニホンから来た……ってことで合ってますよね?ね?ぜひニホンのお話を聞かせてもらってもいいでしょうか?」


 そして慌ててもう一度名刺を取り出す。その後ろではデモ隊の代表らしい若者がパトカーに押し込められ、連れて行かれた。残りのメンバーも渋々と広場をばらばらに去っていった。


 「最近は東のおかしな思想にかぶれる学生が多くて困る。」


 そうぼやきながら警官たちが没収し、次々にズタ袋へ放り込まれる赤い旗——二重の月を叩く鎚。里奈の目はそれに引かれていた。


 「おや、『評議会』に興味がありますか?まあとりあえずうちの社に行きましょう。」


 目を細め笑みを浮かべた記者、『共和国』内では左派で知られる某新聞の記者は、そうして自社の事務所へと敦と里奈の二人を連れ込んだ。


◆◆◆◆◆◆


 星央大陸中部を東西に横切る山岳地帯、周囲を強国に囲まれつつも古くからこれを天然の城塞として堅く独立を守ってきた『岳国』。

 山の麓では寒さも峠を越え始める季節だが、この高原にはまだその気配はない。


 標高400mの高地に位置するこの国最大の空港に降り立つ2機の飛行機、一部の軍用機以外ではレシプロ機が主流のこの世界では、珍しい大型のジェット機だ。


 空軍のC−1輸送機と政府専用機に分乗した日本代表団は、世界連盟からの召喚要請を受けて連盟総本部のあるこの地にやってきた。垂直尾翼に日の丸を描き、機体に流麗な赤い帯を引いた専用機からタラップを降りたのは代表団団長、外務大臣の班目。

 白髪混じりの60代前半、顎の弛んだ丸顔と薄く隈のある目には覇気の類いを感じさせないが、仙田総理からの信頼は厚い。


 班目たち代表団はホストの『丘国』政府高官と手短な挨拶と握手を交わし、車へ乗り込む。そして空港を出た車列は警護車に前後を挟まれ郊外へ向かう。その車中。


 「——我が国も永世中立を守るため、随分と苦労していますから貴国の気持ちもよく分かります。ですが、いささか過激な方法で力を誇示されましたな。」


 前を向いたまま、『岳国』高官がつぶやいた。外交上『岳国』は中立を貫き、連盟理事国でもない。会場を提供しているだけの立場上、この車中だけがニホンと対談できる唯一の機会だった。


 「もちろん我々は前世界でも平和を尊んできました、しかし今我が国は孤立無援……侮られるわけにはいかない。『連邦』のあの侵攻——『10.22事変』の衝撃と傷は深いものがあります。」


 それまで噂か与太話、極一部では公然の秘密だった核兵器の保有を政府が認めてから、世論のなかには激しい報復を訴える声も起こっている。——N市と同規模の都市に一発打ち込んでやれ!SNSではそんな投稿に10万を超える賛同が集まった。慰霊祭に出席した『連邦』人への投石、自然発生した自警団もどきの自主的な敗残兵狩り、転移早々の本土決戦は異世界国家への憎しみと不信感を抱かせていた。


 「そうでしょうね……。だからこそ今回の安保理会では、ニホンの意思を正しく世界に伝えねばねりません。」


 『岳国』高官は横を向いて斑目を見据えた。それに班目は目を閉じて小さく息を吐き、——その通りです。と深く頷いた。


 そして車がカーブを曲がると山陰から突然、斜面からの途中から生える何本も束ねられた巨大なパイプが見えた。黒々とした岩肌へ、真っ直ぐ線を引いたような灰色に塗られた人工物は目立つ。目を引かれた班目は隣の『岳国』高官にあれは何かと訊ねた。


 「水力発電所のパイプですよ。ずっと上のダムから水を引いていますが、確か今は整備中のはずです。」


 ダムに貯められるのは氷河の溶けた水で、今はほとんど稼働していないが夏には国外に輸出するほどの電力を産み出している。豊富な雪解け水は麓を潤すだけでなく、エネルギー源としても利用されている。


 「ですが逆に冬は他国からの輸入に頼っていまして、ニホンの核融合発電……でしたか?我々はそれにも興味を持っています。なので、そちらには技術供与などを考えていただければ嬉しいですがね。」


 『岳国』は国土が狭く、石炭や石油はほとんど採れない。

 先の星央大戦では戦火は及ばなかったものの、東西両陣営からの板挟みで資源や食糧などの輸入がたびたび途絶えるなどの苦しみを味わった。その反省から電力の自給手段と治水も兼ねて方々にダムと発電所が熱心に作られている。

 このコンクリートと鉄管の群れも独立を守る自衛の策だ。


 水量の減る秋からダム湖の水が凍りつく冬でも安定した発電方法として、『岳国』は核融合発電に興味を示していた。


 「我々も政府開発援助(ODA)は前世界でも取り組んでいました。それも検討しましょう。」


 車中で非公式の会談を挟みつつ、やがて二人を乗せた車は世界連盟総本部、万星参宮殿(パレ・デ・エトワール)へ入っていく。

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