日本海軍特種演習『アマノイワトヒラク』《上》
墜星暦5946年冬 陽没海I島沖
イプシロンSⅡ打ち上げを見届けた『やまと』は南東、演習場に設定された海域へ向かう。冬の外洋にしては凪いだI島沖150km、日本列島本土からは遠く離れた島の沖合だ。
後方から現れたのは堂々と一糸乱れぬ単縦陣、『あおば』『なち』『いそかぜ』『はるかぜ』『いそなみ』『うらなみ』『ゆづき』——艦砲射撃を主体とした水上打撃群、『やまと』隷下の第2火力投射護衛隊群。波を切り裂き現れた艦隊は左右に割れ、追い越し『やまと』を円形に囲い足並みを揃える。対空対潜に備えた輪形陣、攻防一体の火力投射護衛艦を中心に囲う世界で最も堅固な布陣が生まれた。
『連邦』を破ったニホンの主力艦隊。火力投射護衛艦1、ミサイル護衛艦2、汎用護衛艦5、第一艦橋に詰める武官たちは双眼鏡とペンを手に詳らかにそのスケッチや特徴などを手帳と脳内に書き記した。
ニホン海軍主力艦隊——
《巡洋艦級》(『あおば』『なち』)全長190m、単装砲2基2門、4連装魚雷発射管片舷1基ずつ?、その他の武装配置不明。
《駆逐艦級》(『いそかぜ』『はるかぜ』『いそなみ』『うらなみ』)全長150m、単装砲1基1門、4連装魚雷発射管片舷1基ずつ?、その他武装配置不明。
《巡洋艦級B》(『ゆづき』)全長170m、単装砲2基2門、4連装魚雷発射管片舷1基ずつ?、その他武装配置不明。
「これが主力……?どれも随分と慎ましやかな……?」
僅か8隻、それも『やまと』を除いて単装砲を1門、多くても2門ほど、そして斜めに設置された魚雷発射管のような物しか備えない軽武装の艦ばかり——。航空機の発達で対空火器がハリネズミのようになる一方の自らの軍艦に対して、ニホン艦は防御を諦めたかのようにすっきりとしている。訝しむ武官たちに解説役の国防海軍将校が答えた。
「ああそれですか、兵装を内蔵していることもありますが……『やまと』型以外はミサイルを主武装に設計されているからです。さて、始まりますよ。」
腕時計の針は予定時刻を指し、艦隊司令部作戦室と戦闘指揮所、第二艦橋からの声が流れる。乗組員でも立ち入りが制限され、機密の詰まったそれらでの見学は許されなかった。
『全艦針路120へ変針。』『タイミングを『やまと』に揃えろ。』『取ぉーり舵。』
核融合炉の莫大な電力が掻く4軸のスクリュー、排水量8万7千トンを超える『やまと』の巨大な艦体は海水を押し除け遠心力に傾きゆっくりと旋回する。各艦もそれに倣い弧を描き曳く航跡に大小はあれど、形は全て美しく同じ、整然と陣を乱さぬままの一斉回頭。それを何度も繰り返し、ジグザグに動く対潜運動。操舵手は慎重に艦同士の間隔を保ち連携を確かめる。
『ミサイル探知!対空戦闘用意。』
戦闘配置を知らせるアラームの音と赤色灯に乗組員は駆け出し、慌ただしく定められた配置に着く。
遠く離れた訓練支援艦『くま』から打ち出された数機の無人標的機は電子上で6ダースの対艦ミサイルを模した仮想標的にかさ増しされ、超音速で飛来する。が、『やまと』は動かない。艦隊防空を任され前衛に配された2隻のDDG『あおば』『なち』が盾となり『やまと』を守る。
『『あおば』『なち』SM-6発射しました!目標捕捉、命中まで——』
2隻の前甲板が爆発したように白煙が噴き上がり、電子の矢が飛び出す。イージスシステムの後継、電子の神RTDシステムに導かれ艦対空ミサイルは輝点を目指し次々と交差、フェイズドアレイレーダーはそれを捉え続ける。
『命中、命中!撃墜目標32、残余なおも接近中!』『SM-6再斉射!』
戦術ネットワークの画面上、《捕捉》のアイコンは半数近くが《撃破》に変わるが構わず、対艦ミサイルの群れはむしろ音速を超えて護衛艦隊に迫る。対艦ミサイルとミサイル護衛艦の激しい攻防とは別に『やまと』も敵を捉えていた。
『偵察ドローン2号が発射源特定、座標——』『よし、砲戦用意!主砲1番から6番撃て!』
高らかなオペレーターの報告通り、無人偵察機は戦術ネットワークの画面上に敵艦を示す輝点を生んだ。レーダーの探知距離を遥かに超え、並みの対艦ミサイルの射程も超える480mm電磁火薬複合砲を備える『やまと』も偵察/観測機無しでは、巨大な砲弾バラ撒き機にすぎない。そして誘導可能な自律砲弾でも戦果の確認には観測機が必要だ。
——ずどん
『やまと』はカウンター攻撃に主砲、480mm電磁火薬複合砲を放った。一群となって放たれる6発の徹甲自律砲弾、青白いプラズマ砲炎が海上を漂った。弓なりに飛翔する、ミサイルよりも遥かに小さいタングステン塊、迎撃は困難を極めあらゆる存在を砕く。
『——弾着5、4、3、2、1、今!』『第二射軌道修正中。』
ドローンからの映像に白い水柱が立つ。仮想上の駆逐艦2隻が砕き折れ、巡洋艦1隻が機関部を貫かれ速度を落とし始めていた。さらに追い討ちをかける修正射が回避運動を始めた敵艦隊に降り注ぐ。
一方、その敵が放ったミサイルも火力投射護衛隊群へさらに迫りつつあった。
『残存15、『ゆづき』『いそなみ』『いそかぜ』ESSM発射しました!』
汎用護衛艦からロケットモーターの噴煙と共に吐き出された対空ミサイルは迷うことなく真っ直ぐに喰らいつき、自ら諸共にミサイルを撃墜した。だが、まだ生き残る殺意の塊は電子の上の凪いだ海原をターボジェットエンジンの咆哮を轟かせ超音速で這い寄る。
『左舷砲戦、墜とせぇ——』
それを拒否する電磁速射砲の一斉砲火。『あおば』『なち』の155mm電磁速射砲がまずプラズマ炎を噴き、それを潜り抜けた標的がラインに入ると僚艦防空を担う『ゆづき』以下各艦が猛烈な127mm電磁速射砲の射撃を放つ。一門あたり分間55発、全自動化された装填システムが織りなす濃密な弾幕が標的を爆散させ、拒む壁となっていた。
「凄まじいな、砲が1門しかいらないわけだ。」
自らの知るよりも圧倒的な射撃速度と精度の対空砲、構想段階の対空ミサイルが張る空中の網。護衛艦の身代わりに躍り出て炸裂する白いチャフの光に照らされ、目を凝らした武官たちは息を呑む。——100年後の未来の海戦、その一端を彼女たちは目にした。
そして近接防空ミサイルのRAMに絡めとられ火球と化したミサイルを最後に迎撃演習は終わった。『やまと』の砲撃で敵艦隊は対艦ミサイルを撃ち尽くし巡洋艦2、駆逐艦3を失って撤退判定を受けた。
「温いなァ。RTDシステム積んだDDG2隻揃えても半自動じゃこんなものか。」
「……半自動?本来は人の手が加わらないとでも?」
国防海軍の将校がこぼした言葉に引っかかった武官が問いかける。超音速で飛来する72発の対艦ミサイル、それをたったの8隻が無傷で凌ぎきったというのに不満げな態度に感じるものがあった。
「ええ、本来RTDシステムは全自動で標的の索敵、追尾、評価、撃墜までのプロセスをこなします。この『やまと』型も防空艦としての機能は有していますから、今ぐらいのは余裕を持って対処可能ですね。」
この世界でもすでに姉妹艦の『むさし』が単艦で『連邦』軍200機からの攻撃を防いでいる。今更ながら敵の正体を知った『連邦』武官は顔色を白くしていた。
「さて、攻守交代といきましょう。」
用意された標的は『連邦』からの賠償艦、サーフォーク空襲で上部構造物が大破した『ハイゼール』級戦艦。航空機の発達で戦艦が時代遅れの烙印を押され、2隻しか建造されなかった『連邦』新鋭艦だ。その想定通りに対艦ミサイルの直撃を受けた哀れな新鋭戦艦は双海旗を剥がされ、日本海軍の標的に成り下がっていた。
「おい、『連邦』自慢の『ハイゼール』級じゃないか?」「うちの『ヤルマディア』型と同世代の……。」
「続きましては主力の対艦ミサイル——29式空対艦巡航重誘導弾(改)および42式艦対艦誘導弾の実演です。」
解説の国防海軍将校がスッと指した手の先、つられた武官たちが戦艦へ目を移した瞬間、排水量4万5千トンの戦艦が揺れた。重い29式は喫水線近くに当たり、白い瀑布が戦艦に降る。その一瞬後で着弾した42式に上部構造物が爆砕、潰された。戦艦、空母といった高価値の重装甲艦を貫く槍、大量の浸水に『ハイゼール』級戦艦は耐えきれず轟沈を遂げた。
「おぉ……。」「戦艦を一撃か……。」
どよめきが広まるが、まだ彼女たちは日本海軍の隠し弾を目にしていない。水面に消えた『ハイゼール』級を残して『やまと』は再び第2火力投射護衛隊群と別れ、さらに南へ向かう。




